「日本レスリングを変えたい」パリ金の日下尚が語る危機感 独リーグで衝撃…異次元の人気
レスリング全日本選手権、男子グレコ77キロ級で6年ぶり優勝
レスリングの全日本選手権最終日が21日、東京・駒沢体育館で行われ、男子グレコローマン77キロ級でパリ五輪金メダルの日下尚(25=マルハン北日本)が6年ぶり2回目の優勝を果たした。今年9月の世界選手権で2位に終わった後、3年連続でドイツに渡りブンデスリーガに参戦。競技を取り巻く環境の違いも痛感し、レスリングのメジャー化を目標に掲げた。
決勝で堀北一咲望(宮崎県スポーツ協会)を4-0で破ると、日下は「しょっぱい試合をして、すみません」と言った。日体大の後輩でもある堀北は、パリ五輪の時に練習パートナーとして帯同した選手。「手の内も全部ばれているので、必要以上に警戒してしまった」と結果以上に内容の悪さを反省した。
今年もブンデスリーガから刺激を受けた。レスリングのブンデスリーガは、サッカーなど他のスポーツと同じように各地域のクラブ対抗戦。地元ドイツをはじめ、各国から集まった選手が週に1回のリーグ戦を戦う。日下はドイツ南部のSVGヴァインガルテンのエースとして活躍。日本では大学を卒業すると大会の数も激減するが「毎週試合があるので、試合間隔を開けずにいいトレーニングができる」と話した。
全日本選手権があるためレギュラーシーズン6試合に出場(6勝)してチームを離れたが、年明けのプレーオフのために29日に再び渡独する。「正月を海外で迎えるのは初めてですが、日本にいてもぐうたらするだけ。やっぱり、強くなりたいので」と、再びドイツに向かうのを楽しみにする。
ドイツで感じた文化の違い…日本では「世界選手権2位でも何も…」
競技面だけでなく、スポーツ文化の違いにも刺激を受ける。試合は派手にショーアップされ、マットの周りを埋めるファンの声援も熱い。体育館の周囲に看板1つなく、ひっそりと行われている全日本選手権とは別次元。「ドイツでは興行として行われ、ファンもいる。同じようには難しいだろうけど、日本も変わってほしい」と日下は言う。
日体大が築いてきた欧州とのパイプが、ブンデスリーガへの選手派遣につながった。一昨年は日下だけだったが、今年は現役の学生やOBなど8人が参戦。それぞれのチームで技を磨いてきた。「毎週海外の選手と試合ができるのは、いい経験になる。生活面も含めて、得るものは多いはず」と、日体大の松本慎吾監督は派遣の狙いを説明した。
世界での経験を踏まえ、日下は日本レスリングのメジャー化を視野に入れる。この日、来年の最大の目標として、9月に名古屋で行われる「アジア大会」を掲げた。「メディアが集まった場で勝たないと意味がない。世界選手権で2位になっても何もない。それが現実」。だからこそ、レスリングを注目される競技にしたい。「選手たちは血ヘド吐きながら努力しているので」と言い切った。
ブンデスリーガ参戦を通して海外のレスラー仲間も増えた。これも日下の、そして日本レスリング界の財産になる。「将来的には日本のレスリングを変えたい」。日下は、28年ロサンゼルス五輪での連覇とともに壮大な目標を掲げた。
(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)
荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

