中国はついに沖縄へも触手を…一発の銃弾も撃たず日本からの"利確"狙う習近平の鼻をあかす4つの手段

■「沖縄に対する日本の主権は歴史的に疑わしい」
2024年春、ある学術会議が北京で開催された。テーマは「琉球の歴史的地位」。参加者の多くは中国政府系の研究機関に所属する学者たちだった。彼らが発表した論文の結論は驚くべきものではない。「沖縄に対する日本の主権は歴史的に疑わしい」というものだ。
これは単なる学術的議論ではない。
ミサイル実験や海軍演習の陰で、中国は日本に対してより巧妙な作戦を開始している。軍事戦略家が「認知戦争」と呼ぶ手法だ。沖縄に対する日本の主権の正当性をじわじわと失わせようとする試みである。

この新たな“攻撃”は武力行使の一線を越えることなく、組織的な偽情報、つまり虚偽または誤解を招く情報の意図的な拡散を用いて人々の認識を操作し、確立された事実への信頼を蝕む作用がある。従来のプロパガンダとは異なり、認知戦争は学術機関、メディア、デジタルプラットフォームを武器化していく。
北京は10年以上にわたり、複数の琉球研究センターに資金を提供してきた。国営系研究者らが配置されたこれらのセンターは、歴史的な朝貢関係が何らかの形で、戦略的に重要なこれらの島々に対する日本の現代的主権を無効化すると主張する論文を発表し続けている。
では、中国は沖縄に関して具体的に何をしているのか。中国は、儒教倫理と古典的名著『論語』を持つ国である。その古典が重視している誠実さや礼節を放棄したような言動を日本に繰り返しているのはなぜか。
■中国の沖縄作戦のメカニズム
中国の沖縄へのアプローチは最も計算された形態の認知戦争である。
北京の琉球研究機関(国家資金で運営されながら独立した学術団体を装う)は、1879年の日本による琉球王国併合が不法であったとする歴史分析を絶え間なく発表している。これらの論文は国際的な学術ネットワークを通じて流通し、学会で発表され、中国国営メディアを通じて国内外の聴衆に向けて増幅される。
彼らが展開する論点は一貫したパターンがある。
琉球王国が1372年から19世紀末まで中国と朝貢関係を保ち、この関係が日本の併合に先立つものであるため、中国はこれらの島々に対する歴史的主張において優位にある、というものだ。一部の学者はさらに踏み込み、日本の沖縄編入を植民地侵略と位置付け、第二次世界大戦後の処理がこれを適切に解決しなかったと主張する。


■中国の「沖縄への触手」3つの戦略的目的
この論調には3つの戦略的目的がある。
第一に、軍事計画者が「戦略的曖昧性」と呼ぶ状態を生み出す。米国が重要な軍事施設を維持する沖縄に対する日本の主権を国際的な観察者が疑問視し始めれば、同盟の義務を複雑化し、危機対応の計算に躊躇をもたらす。もし米国が「この島々の地位は曖昧だ」と考え始めれば、台湾有事の際に在日米軍基地の使用を躊躇するかもしれない。
第二に、状況がより攻撃的な動きを許容する場合に備え、北京に将来の行動のための既成の正当化理由を提供する。
第三に、尖閣諸島(釣魚島)をめぐる領土問題において、日本の道義的立場を弱体化させる。近隣地域の日本の統治が疑わしい基盤に立っていると示唆することで、その正当性を揺るがすのである。
この戦略の巧妙さは、その長期的な性質にある。中国は即時の領土変更を要求しているわけではない。代わりに北京は、知的・外交的環境を再構築するための10年にわたる取り組みに投資している。今日確立された認識が明日の選択肢を制約することを理解しているからだ。いわば、中国は「歴史の書き換え」という種を蒔き、いつか収穫する日を待っているのである。
■儒教のパラドックス
ここで、ある矛盾が浮かび上がる。
孔子の『論語』は中国の知的伝統の基盤を成す書物である。この書は、誠実さ・正直さ・真実性である「誠(chéng)」を適切な行動の根本として強調している。孔子は「君子は己の才のなさを憂え、人に知られないことを憂えず」と教え、統治は欺瞞ではなく道徳的権威に基づくべきだと説いた。

その価値観を受け継ぐ中国文明は、その中心が高度な倫理基準に従って行動し、周辺諸国から真の尊敬を勝ち取ることを前提としていた。
しかし近年の中国の沖縄キャンペーンはそうした伝統を無視している。
国際法上存在しない歴史的連続性を意図的に捏造し、戦略的利益のために学術的議論を武器化し、北京が自らの領土主張に向けられた場合には決して受け入れぬ歴史的論理を選択的に適用する行為だ。孔子は泣いているに違いない。

もし中国の琉球論を普遍的に適用すれば、どうなるか。
チベット、内モンゴル、新疆、清朝拡大期に編入された広大な領土に対する中国の主権は正当性を失うだろう。これらの地域はいずれも、中国の統治以前に歴史的な朝貢関係、独立王国、あるいは独自の文化的アイデンティティが存在していた。
こうした領土獲得を体系的に疑問視する欧米や日本の研究機関に対する北京の反応は、間違いなく厳しいものとなるはずだ。それと比較すれば、現在の沖縄に関する北京のレトリックは控えめに見えるほどである。
これは、道徳的権威を基盤とする儒教的枠組みから、純粋な現実主義に基づく権力と利益の計算への根本的な転換を示すものだ。
■中国の戦略文化の変容
かつて「偉大だった中国」は、なぜこのような道を選んだのか。なぜ道を誤ったのか。
過去30年間、中国の戦略的思考は大きく変わった。この変容には複数の要因が寄与している。
第一に、ソ連崩壊の衝撃だ。中国指導部は、イデオロギーと情報の競争が大国間の対立において決定的要因となり得ると確信した。中国共産党は情報の流れがソ連衰退にどう寄与したかを研究し、国内外の物語を制御することが国家安全保障の中核要件であると結論付けたのである。
第二に、中国の急速な経済成長は、その規範的影響力を超える能力を生み出した。北京は巨大な経済的影響力を有する一方で、民主主義国家が持つソフトパワーの魅力を欠いている。認知戦は、中国統治モデルの真の魅力を頼らずに国際的な認識を形成する手段を提供するのである。
■国家政策ではなく学者の見解だと言い逃れ可能
第三に、党の国内的正当性戦略――ナショナリズム、歴史的不満、そして「屈辱の世紀」と位置付けるものへの拒絶に基づく――は、強硬な対外行動を求める内部圧力を生み出す。中国の国益を損なうように見える指導者は国内政治的な代償を払うリスクを負い、各政権が前政権よりも強硬に見えることを余儀なくされるラチェット効果を生み出している。中国の指導者にとって、「弱腰」と見られることは政治生命に関わる問題なのだ。
第四に、技術革新により認知戦争はかつてないほど実行可能かつ費用対効果の高いものとなった。デジタルプラットフォーム、ソーシャルメディア、グローバルな情報流通は新たな脆弱性を生み出し、独裁国家は自国の情報環境を厳格に統制しつつ、こうした脆弱性を悪用できるようになっている。
最後に、北京のアプローチには戦略的論理がある。認知戦争は物理的作戦に欠ける「否定の余地」を提供する。中国は学術論文やシンクタンク報告書を通じて領土主張を推進しつつ、外交関係と経済的関与を維持できる。異議を唱えられた場合、北京はこれらが国家政策ではなく独立した学者の見解だと主張できる――中国に真の学問の自由がないからこそ成立する虚構ではあるが、それでも外交的隠れ蓑となる。

■沖縄を超えた利害関係
中国の沖縄キャンペーンは、これらの特定の島々をはるかに超えた意義を持つ。
これは、権威主義国家が歴史と学術を武器化し、確立された領土的解決を弱体化させ、同盟の約束を複雑化し、伝統的な軍事的侵略に伴うコストを招くことなく国際規範を再構築できるかどうかを試す事例なのである。言い換えれば、中国は「一発の銃弾も撃たずに、どこまで現状を変えられるか」を実験しているのだ。
仮に沖縄の地位について国際的な疑念を醸成することに中国が成功した場合はどうなるのか。たとえその疑念が実際の領土変更につながらないとしても、何を意味するか。
それは、忍耐強く資源を投入した偽情報キャンペーンが最小限のコストで戦略的効果を達成し得ることを実証することになる。これはインド太平洋地域内外の他の係争地域や歴史的怨念において同様の手法の模倣を招いてしまうだろう。
日本、米国、その他の民主主義諸国からの対応は不十分だ。認知戦争には、軍事力増強や経済的強制とは異なり、ほとんどコストが伴わない。同盟国の主権を疑問視する研究機関への資金提供に対する制裁はなく、体系的な歴史歪曲に対する外交的罰則もなく、国際社会がキャンペーンをほぼ無視しても評判上の代償はない。
この非対称性は危険なインセンティブを生み出す。北京は、戦略的目標を推進しつつ実質的な反発を引き起こさないため、こうした活動を継続している。真の学問の自由と開かれた情報環境を有する民主主義社会は、自らが擁護すると主張する原則そのものを損なうことなく、組織的な偽情報に対抗するのに苦慮しているのだ。
では、どうすればよいのか。
■民主主義による反撃の3つの道筋
中国の認知戦に対抗するには、二国間対応を超え、民主主義の強みを活用しつつエスカレーションを招く言辞を避けながら、協調的なミニラテラル行動へと移行する必要がある。
第一の道筋:「クアッド・デジタルレジリエンス構想」
内容:日本は米国・豪州・インドを統合した迅速対応メカニズムを構築する。
解説と狙い:具体的には何か。国家関連ナラティブの共有データベース、組織的な不正行為を検知するAI搭載早期警戒システム、多言語対応の共同ファクトチェックリソースなどである。
欧州大西洋地域に焦点を当てるNATO戦略的コミュニケーションセンターとは異なり、クアッド主導のイニシアチブはインド太平洋地域特有の偽情報に対処すると同時に、東南アジアのパートナー諸国における能力構築を推進する。

鍵となるのは作戦速度だ。偽情報は、官僚機構が対応を調整する数週間あるいは数カ月の間、反論されずに放置された時に最も効果を発揮する。偽情報との戦いは、スピードが命なのである。
■他国と連携して中国の圧力に耐える仕組み
第二の道筋:「経済安全保障と情報完全性に関する日EU枠組み」
内容:東京は貿易上の利益と情報完全性基準の遵守を明示的に結びつける枠組みを創設する。
解説と狙い:この枠組みは、国家主導の偽情報キャンペーンを特定するための共通基準を確立し、各国がこうしたキャンペーンに抵抗した後に続く経済的強制への対応を調整する。
2021年にリトアニアが台湾との関係強化後に中国の経済的圧力に直面した際、欧州と大西洋横断の対応は分断され遅れた。事前合意された対応メカニズム(緊急市場アクセス、サプライチェーン冗長化プログラム、協調的外交声明を含む)を備えた常設枠組みは、中国の主張に抵抗する国々を経済的に孤立させようとする北京の動きを抑止する。
日本と欧州は中国と深い経済的相互依存関係にあるため、単独では持続不可能な一方的な措置よりも、協調行動のほうが信頼性が高い。一国だけでは中国の圧力に耐えられなくても、連携すれば話は別だ。
第三の道筋:「太平洋諸島研究・奨学金協定」
内容:日本はオーストラリア、ニュージーランド、および参加を希望する太平洋島嶼国を巻き込んだ協定を発足させる。
解説と狙い:これにより、地域史、主権問題、現代のガバナンス課題に関する真に独立した研究に資金を提供できる。
これは、領土問題に関する学術的議論を独占しようとする中国の戦略に直接対抗すると同時に、太平洋諸島の知的コミュニティを支援するものだ。この協定は参加国全体の大学・研究機関に対し、透明性のあるピアレビューと完全な学問的自由を伴う競争的助成金を提供する。これはまさに中国の国家主導型研究機関が欠いている要素である。
太平洋諸島研究者自身が主導・管理する厳密な証拠に基づく学術研究へ投資することで、民主主義諸国は真の学術探究と武器化された疑似学術との差異を示せる。これにより北京が「純粋な西洋的視点」として退けられない代替的な権威ある声を生み出し、長期的なレジリエンスを構築するのである。
■孔子「論語」の深遠な倫理哲学を放棄した中国
これらのアプローチには共通点がある。
すなわち、一方的ではなく多国間的なため持続可能性が高く、北京が二国間圧力で対抗しにくい点、透明性・学問の自由・連合構築といった民主主義の比較優位性を活用する点、そして個々の政権を超えて持続する制度的枠組みを構築する点だ。
最も重要なのは、民主主義の信頼性を損なう独裁的戦術を模倣する罠を避けつつ、認知戦争にコストを課す点である。
必要なのは、検閲や中国の戦術への追随ではない。透明性の確保、文書証拠に基づく持続的な対抗ナラティブ、そして認知戦争が協調的対応を要する真の安全保障上の脅威であるという民主主義諸国間の共通認識なのだ。
痛烈な皮肉は前述した通り、世界に深遠な倫理哲学をもたらした文明の継承者である中国が、その原則を放棄し、孔子が正当な権威を根本的に蝕むものと認識したであろう戦術を採用している点にある。
これにより北京は短期的な戦略的利益を得るかもしれないが、その代償として、古典的伝統が文明と蛮族を区別するものと主張したまさにその道徳的立場を失うことになるのだ。
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スティーブン・R・ナギ国際基督教大学 政治学・国際関係学教授
東京の国際基督教大学(ICU)で政治・国際関係学教授を務め、日本国際問題研究所(JIIA)客員研究員を兼任。近刊予定の著書は『米中戦略的競争を乗り切る:適応型ミドルパワーとしての日本』(仮題)。
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(国際基督教大学 政治学・国際関係学教授 スティーブン・R・ナギ)
