日本一売れてるクルマが売れてない!? 「高すぎ」「個性が消えた」新型ホンダN-BOXが抱える悩み

この記事をまとめると
■N-BOXは依然新車販売のトップを走るが現行型は先代より販売が低迷している
■デザインの大人しさや内装での収納削減やコストダウンが原因と考えられる
■発売後の値上げもありライバルのスペーシアに追い上げられている
軽スーパーハイト戦線に異常発生中
近年の国内における新車販売状況を見ると、ホンダN-BOXが国内年間販売ランキングの1位を守っている。とくに2017年にN-BOXが2代目の先代型に切り替わってからは、ほぼ一貫して1位だ。
ただし2023年に現行型の3代目へフルモデルチェンジされてからは、売れ行きが伸び悩んでいる。2024年は新型になった翌年だから、売れ行きがもっとも増える時期だが、前年度に比べて11%減った。新型車の売れ行きがモデル末期だった先代型を下まわるのは問題だ。
直近となる2025年1〜7月は、前年同期よりも3%増えたが、先代型のモデル末期だった2023年1〜7月に比べると8%少ない。先代型の販売が好調だった2019年1〜7月に比べると23%も下まわる。現行N-BOXは、先代型に比べて明らかに売れていない。

その結果、軽自動車で販売2位になるスズキスペーシアとの差も縮まった。2019年1〜7月における先代N-BOXは、1カ月平均で2万2183台を届け出してスペーシアの1.5倍売れていた。それが2025年1〜7月は1.2倍に留まり、現行N-BOXはスペーシアに追い上げられている。
なぜ、現行N-BOXの販売は苦戦しているのか。販売店に尋ねると「お客様からN-BOXは現行型になって外観や内装のデザインが大人しくなった、という話が聞かれる」とのこと。標準ボディの場合、先代型はメッキグリルを装着したが、現行型は丸い穴の空いた柔和なデザインだ。N-BOXカスタムは、先代型は前方を睨むような形状でメッキパーツも目立ったが、現行型は穏やかな表情になった。

最近のホンダは、フィットからステップワゴンまで「威圧感を伴う、いわゆるオラオラ系は避けたい」という考え方でデザインされている。納得できる方針だが、販売戦略を優先すると、これは個性的な車種に適したフロントマスクだ。
たとえばミドルサイズミニバンの場合、売れ筋はトヨタノア&ヴォクシーとセレナだから、ステップワゴンがオラオラ系を避けて個性を表現する戦略は効果的だ。しかしN-BOXは国内販売の1位だ。王道を行くクルマづくりをすべきで、標準ボディはともかく、カスタムにも大人しいフロントマスクを採用したのは行きすぎだ。
スペーシアのほうがユーザーのニーズをより満たしている
内装にも同様のことが当てはまる。現行N-BOXは、先代型に比べてインパネの上端が低い。安全に直結する視界が向上して好ましいが、先代型ほど内装が立派には見えない。販売店も「現行N-BOXの内装は賛否両論」という。安全にとって大切な視界を向上させた結果、販売面ではマイナスが生じたわけで、これも車両開発の難しさだ。
先代N-BOXのコストが高かったので、現行型はコストダウンを行った事情もある。そのために質感も下がり、背の高い軽自動車で重視される収納設備の数も減らした。

一方、ライバル車のスペーシアは収納設備が豊富だ。主力グレードの後席には、ミニバンのオットマンのような使い方が可能なマルチユースフラップ、エアコンの冷気を後席へ送るスリムサーキュレーターなども装着される。N-BOXの開発者は「前席の形状を工夫したから、エアコンの冷気はサーキュレーターがなくても後席に送られる」というが、目に見える装備を付けることも大切だ。

現行N-BOXでは発売後の値上げも影響を与えた。2023年10月に発売された時、標準ボディの価格は税込164万8900円だったが、いまは173万9100円だ。スペーシアハイブリッドXは、マイルドハイブリッドやマルチユースフラップの装着で、2023年11月に発売された時の価格は170万5000円と高めだったが、いまでも同じ価格を保っている。つまりN-BOXの標準ボディの価格は、発売時点ではスペーシアハイブリッドXよりも安かったのに、値上げによって追い抜いたわけだ。

軽自動車の開発では「価格が1万円違ったら売れ行きを左右する」といわれる。ユーザーが価格に敏感で、なおかつ軽自動車は、全長、全幅、エンジン排気量が等しいために徹底的に比較して選ばれるからだ。そのために、N-BOX標準ボディの価格がスペーシアハイブリッドXを追い抜いた時には驚いた。ホンダはもう少しユーザーの気もちを考えて商品を開発すべきだ。


