ポイ活に疲弊、年会費数万円「ハイステータスクレカ」を選ぶ若者の実態…月収35万円「体験価値」を求めた20代サラリーマンの末路【FPが解説】

空港ラウンジ、レストランの優待、旅行のアップグレード……高額年会費のクレジットカードは、魅力的な特典で溢れています。これらの特典を目当てに、ポイント還元率重視のカードからハイステータスなカードにシフトする若者がいるようです。本記事ではAさんの事例とともに、クレジットカード選びの際の注意点を社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
高ステータスのクレジットカードを求める若者
ラグジュアリーカードは2008年にBlack Card LLC(後にLuxury Card LLCに改称)によって米国で創業。金属製カードで、Mastercard最上位ブランド「ワールドエリート」を採用しています。最高レベルのコンシェルジュサービスや豪華な特典などを提供します。年会費は高額ですが、その分最上級のおもてなしを受けられます。
Aさんは、学生時代から就職したてのころ、商品等を購入したときにポイントをため、貯まったポイントを活用するポイ活をしていました。ポイ活はお金の代わりに支払いに使えるものもあります。収入の少ない学生時代は、クレジットカードにも限度があるため、同じ店で購入しポイントを貯めるなど、提携店で使えるポイントカードを利用しながらポイントを貯め、お得にポイ活をしていました。
そんなAさんは営業職に就職。5年目となると出張で週1回ほど全国の支社や取引先を行き来するようになります。あるとき、取引先の上役の方と同席する機会があり、ホテルのラウンジで打ち合わせをしました。帰り際の会計時にさりげなくラグジュアリーカードを提示するのを見て、珍しい金属製カードだと目を惹きました。
帰りの電車で、ネット検索してみると富裕層向けの高ステータスカードであることがわかりました。詳細をみてみると、カードの特典に大きな魅力を感じます。ポイ活もいいけれど、買い物がいつも同じ店もしくは提携店に限られてしまいマンネリ化していると感じていたのに加え、仕事が忙しくポイントを気にして過ごすことに疲弊していたところもありました。Aさんの月収は35万円。年収は500万円です。「自分もカードを作れるのかな……」と申し込みしたところ、あっけなく審査が通り、びっくりします。
カードの特典は会費以上?
ラグジュアリーカードは今までにない最高級の体験を提供してくれます。また、困ったときには24時間365日対応のコンシェルジュサービスがあり、すぐに対応してくれるため、ストレスもありません。Aさんにとってそれらの豪華な特典はとても魅力的で、次はなにを使おうかという楽しみが日常を彩ってくれました。
たとえば、出張の際に空港ラウンジを使う楽しみができ、早めに行ってゆっくりしようと時間に余裕をもって行動するようになりました。休日は彼女とのデートがグレードアップし、旅行に行く回数が増えました。食事は指定レストランでのコース料理のアップグレードサービスや1名無料サービスがあるところを選ぶと失敗がなく安心です。なにより彼女も大喜びです。
会費は高いと感じましたが、それ以上に価値のある特典が打ち消してくれました。
こんなはずじゃなかったのに…
たしかに豪華な特典は魅力的です。日常生活で使える特典もあります。しかし、特典を使うために旅行や外出する回数が増え、消費支出が増えて貯蓄ができなくなってしまいます。
以前のAさんは、どちらかというと質素倹約でしたが、生活水準が変化したようです。Aさんにとってご褒美のような特典が毎週のように続いたら、ご褒美が当たり前のように感じてしまうのではないでしょうか。
特典を使おうとするあまり、貯蓄ができなくなるどころか、どんどん減っていってしまいます。
環境の変化が悲劇に……
年会費は高くてもそれ以上の特典があるはずでは? しかし、その特典をずっと受けられるとは限りません。受けられなければ当然、損をする結果に繋がります。Aさんも特典を受けることができなくなってしまいました。
実はAさん、仕事では営業から内勤に異動し、出張がなくなってしまいます。楽しみだった空港ラウンジの特典を使うことがなくなりました。
さらにプライベートでも、付き合っていた彼女と、些細なことで喧嘩別れしてしまいました。現在、彼女がいないAさんは、「1人で豪華なレストランや旅行に行っても……」と、特典を使うこともなくなっています。
クレジットカード選びで重要なこと
Aさんは、ポイ活で培った節約志向から一転、ラグジュアリーカードの豪華な特典に魅せられ、生活水準を大きく変化させました。しかし環境が変わったことで、カードのメリットを感じなくなってしまいました。いまのAさんにとって、高い年会費の掛かるステータスの高いカードは負担です。特典はあくまで付加価値であり、自身のライフスタイルや環境の変化によって、その価値は大きく変動します。
Aさんの事例は、クレジットカードの選択において、特典だけでなく、自身のライフスタイルや将来的な変化を見据えることの重要性を示唆しています。特典に目を奪われがちですが、本当に必要なのは、自身のライフスタイルに合ったカードを選ぶこと、そして、無駄な支出を抑え、着実に資産形成を進めていくという、本来の目的を見失わないことなのです。Aさんはこの経験を通して、改めて自身の生活を見直し、カードの必要性を含めて再検討することを決意しました。
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表