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無実であるのに、犯罪者として扱われる「えん罪」。このえん罪の被害者となった女性が1月、岡山市内の高校で特別授業を行いました。

【写真を見る】「まず身体検査、真っ裸にされる、すっぽんぽんに」園児2人が死亡した “甲山事件” えん罪被害者の女性「死ぬまでこのさだめを背負って生きる」

殺人罪に問われて25年もの間、裁判で闘い続けたこの女性。授業を通じて若者たちに何を伝えようとしたのか取材しました。

「警察の留置場で、最初に何をされると思いますか?」

(山田悦子さん)
「逮捕されると警察の留置場に連れて行かれますよね。最初に何されるか、どんなことされると思います?」

(高校生)
「警察に向き合って…質問される?」

(山田悦子さん)
「違うの、まず身体検査。真っ裸にされるわけ。(えー)肛門の穴まで。私は肛門の穴は調べられませんでしたけどね。すっぽんぽんになるわけです」

証拠が虚構のストーリーの調書が取られていく

特別授業は岡山操山高校通信制が人権教育の一環として行ったもので生徒20人が参加しました。講師として招かれたのはえん罪事件の被害者、山田悦子さん(73)【画像①】です。

事件が起きたのは51年前の1974年。兵庫県西宮市の知的障がい児施設「甲山学園」で園児2人が行方不明になり、園内の浄化槽から遺体で発見されました。行方不明になった日の当直で、激しく取り乱していた当時22歳の保育士の山田さんが殺人罪で逮捕されました。

一方で、事件は子どもたちが関わった事故なのではないか…との見方もありました。浄化槽の中から鉄のボルトや歯ブラシなどが出てきて子どもたちが日頃からマンホールのフタを開けて遊んでいたことが分かったからです実際に、後の裁判で別の元園児が「女児を浄化槽に転落させてフタを閉めた」と証言しました。

しかし、警察は記者会見で職員の内部犯行説を打ち出しそれをマスコミが大々的に報道しました。

(山田悦子さん)
「警察のそういう発表(内部犯行説)に、もう『子供が関与している』なんて言えなくなるわけです。だんだん証拠が虚構のストーリーの調書が取られていくわけです」

過酷な取り調べで、山田さんは一旦は嘘の自白をしましたがその後、一貫して無実を主張し不起訴処分となります。

(山田悦子さん)
「(不起訴のあとも)『犯人だ、犯人だ』と行き渡っているのです。すさまじい報道でした。全国津々浦々に私が犯人だと浸透している。『逮捕=犯人』報道をマスコミがやってしまいますから。」

4年後に再逮捕 事件から25年後に無罪確定

逮捕から4年後に、「園児を連れ出したのを見た」という別の園児の目撃証言が決め手となり、山田さんは再逮捕されます。

「子どもたちが関わった可能性がある…」そう話せば疑いは晴れたかもしれません。しかし、保育士という立場が思いとどまらせました。

(山田悦子さん)
「私は、子供たちの命を守るべき職員だったんです。それが守れなかったんです。2人の子供が、これ言うと涙が出ちゃうのですけど、ごめんなさいね。守れなかった責任が私たち職員には問われたわけです。」

地裁判決では無罪が言い渡されましたが、5年後の高裁判決では破棄差し戻しとなります。その後、地裁、高裁であらためて無罪判決が出され最終的に山田さんの無罪が確定したのは事件発生から25年後でした。【画像③に事件発生から無罪確定までの経過を掲載】。

(大阪高裁・1999年の実況)
「元保母の山田悦子さんに無罪を言い渡いました。」

「今は普通に暮らせていますか?」の問いに山田さんは...

(高校生)今は普通に暮らせていますか?

(山田悦子さん)
「レッテルを貼られた中での普通の日常生活はできますよ。社会では普通には生きられない。これは仕方がない、さだめです。だから死ぬまでこのさだめを背負ってえん罪者は生きるわけです」

(取材した春川正明コメンテーター)
「特別授業が終わった後に、希望する生徒が教室に残って、山田さんを囲んでの意見交換会が開かれています」

(山田悦子さん)
「こんな美しい時があったのよ、見ろ(爆笑)信じられないでしょ。しわがない。」

(高校生)「今も十分きれい」

山田さんは最後に、えん罪を生まないために警察やマスコミの発表を鵜呑みにせず、自分で考えられる人になってほしいと伝えました。

(参加した生徒)
「きょう、いろいろお話を聞いて物事を批判的に捉えないとと思った。自分も社会の圧力でえん罪が生まれると分かったので、考えを変えるいい機会になった」

(山田悦子さん)「よかった、ありがとう」

(参加した生徒)
「ちゃんと憲法とか自分で考えて学んで、正しいことを知ろうと思いました」

「被疑者と聞いたら疑っちゃうけど、一概にそう言える訳ではないから、やっぱりそこもいろんな面から多面的に見て考えることを大切にしていきたいなと思います」

(山田悦子さん)
「ここにきてこんな風に甲山が取り上げられびっくり。でもそれは取り上げる人、そういうすばらしい人に出会ったことが、やっぱり甲山が今もINGって思いますね。」

「今もそのまま」刑事司法の2つの問題点

【スタジオ】
(春川正明コメンテーター)
「今回取材して感じたのは、刑事司法の問題点が今もまったくそのままだなというとです」

「一つは『代用監獄』です【画像④】。逮捕されたら警察の留置場に入れられますが、本来なら3日たったら、管轄の違う拘置所に入らなければいけないんですが、でもそれを代用でいつまでも警察の留置場に置いているので、自白を強要されてえん罪の温床になるというのが一つ目です」

「2つ目は『証拠開示』です。これは検察がすべての証拠を裁判で開示するわけではなくて、検察には不利、ということは被告人には有利な無罪に導くような証拠をなかなか出さないという問題点が指摘されていて、これは50年間、ほとんど変わっていないんです」

「弁護士で国会議員の人たちがたくさんいらっしゃるので、その人たちが声をあげて国会で法律を変えることが必要だと思います」