Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由

京都サンガF.C. ピーター・ウタカ インタビュー 前編

中編「ウタカが考えるストライカー像」はこちら>>
後編「ウタカのお団子ヘアの秘密」はこちら>>

Jリーグは現在、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになった。彼らはなぜ日本でのプレーを選んだのか。日本でのサッカーや、生活をどう感じているのか? 今回は京都サンガF.C.のストライカー、ピーター・ウタカをインタビュー。長く活躍できる秘訣や、日本の印象を聞いた。

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日本のサッカーファンに特別な感情を抱いているピーター・ウタカ

自分の体をプロフェッショナルに扱っている

 ピーター・ウタカはサンフレッチェ広島に所属していた6年前、J1で19ゴールを挙げて得点王となった。32歳の頃だった。

 その4年後には、京都サンガF.C.のエースとして22得点を重ね、J2のトップスコアラーに。そして今季からJ1に昇格した京都の背番号9は、4月の月間MVPに輝き、現在はJ1得点ランキングの3位(7月17日時点)につけている。

元ナイジェリア代表の38歳のストライカーに、衰えの感覚はないのだろうか。

 オンラインのインタビューも終盤に差し掛かった頃、そんな質問をぶつけてみた。画面越しのやりとりも、もう十分に温まっていたところだ。それまでにも時折、大きな笑い声をあげていたウタカは、この問いかけにもまず大爆笑してから語り始めた。

「キミは僕を引退させたいのかい? わははは! それは冗談として、年齢なんて、ただの数字さ。問われるのは、そんなものではなく、選手自身だよね。実際、僕は今、38歳だけど、周りの人たちは28歳のようだと言ってくれる。それは僕が自分の体をプロフェッショナルに扱っているからだと思う。

 よい食事をして、よく眠り、アルコールなど、体によくないものを摂らないようにする。時には、ワインを1杯だけ飲んだりもするけど、たくさん酒を飲んだりはしない。また日本には健康的な食べ物が多いから、助かっているよ。僕のお気に入りは、しゃぶしゃぶとおでんだ。

 それから毎朝、入念なケアをしている。チームの練習に行く前に、ストレッチをするくらいなんだけど、それを毎日の習慣にすれば、体をよい状態に保っておける。つまり、自分は常に準備ができているんだ。若い選手の動きについていけなくなったりしたくないから、いつも周りよりひと足先に準備することを心がけている。僕らの仕事は、文字どおり、体が資本だからね」

想像以上にすばらしい生活

 そんなふうにあくまで前向きに話すウタカが初めて日本にやってきたのは、2015年。母国ナイジェリアからベルギーやデンマーク、中国を経て、清水エスパルスに入団した。それまでに一度も訪れたことのなかった日本への移籍を決断した背景には、兄のジョン・ウタカ(元ナイジェリア代表FW)の助言もあったという。

「Jリーグがアジアで最高のリーグだというのは、もちろん僕も知っていたよ。だから、自分もそんなハイレベルなリーグで実力を試してみたかったんだ。

 それに兄のジョンは、ナイジェリア代表の一員として2002年のW杯で日本に来たことがあった。彼が僕に、『日本はすばらしい国だ。チャンスがあるなら、絶対に行くべきだ』と言ってくれてね。ジョンはW杯でプレーしたけど、Jリーグには縁がなかったから、その代わりに弟の僕に経験してもらいたかったんだと思う」

 来日する前から、「テクノロジーやインフラ、そしてフットボールも含め、日本ではすべてのクオリティが高いと聞いていた」とウタカは言う。その印象は実際に来てから、さらにポジティブなものに変わっていったという。

「日本の印象はいい意味で変わったよ。想像以上にすばらしい生活を送っている」と彼はにこやかに話す。

「とくに気に入っているのは、さまざまなライフスタイルを味わえるところ。しかもすべてがハイクオリティだ。たとえば、僕が今住んでいる京都では、寺社や仏閣といった日本の古い文化遺産を見たり感じたりできるけど、東京に行けば、高層ビルが立ち並ぶ世界的な大都市の生活を垣間見ることができる。また沖縄では、最高のリゾートを楽しめるよね。

 そして日本人は、僕がこれまでに触れ合ってきた人のなかでも最高の人々だ。他者を敬い、奢ることなく、礼儀正しい。自分のような外国人が困っていたら、すぐに助けてくれるしね。僕がまだ日本で暮らし始めたばかりの頃、駅の場所がわからなくて右往左往していたら、ひとりの女性が親切に僕の手を引いて、10分ほど一緒に歩いて駅まで連れていってくれたんだ。方角を教えてくれるだけでもよかったのに、そこまでしてくれたんだよ!

 いや本当に、日本のいいところを挙げ始めたらキリがない(笑)。治安、生活、環境、食事など、すべてがすばらしい。そんな素敵な国で暮らすことができて、僕は幸せだよ」

日本のファンは世界一

 日本のサッカーファンについては「世界一だ。愛しているよ」と言い、右手の親指と人差し指をつけ、そこに音を立ててキスをした。なかなか絵になる仕草だった。

「欧州やほかの国のファンと比べて、違いは明らかだ。欧州ではプロの選手に対する重圧が常軌を逸している。選手は時に、身の危険を感じることさえあるくらいだ。とくにアウェーに遠征した時がきつい。僕は欧州カップ戦でいろんな国に遠征したけれど、どこに行っても当地のファンは敵に嫌がらせをする。文句を言ったり、ブーイングをしたり、人種差別的なジェスチャーをしたりして、相手選手の集中を削ごうとするんだ。

 でも日本ではこの7年間、一度も嫌な目に遭ったことがない。アウェーに乗り込んだら、相手サポーターから拍手で迎えられたりするくらいだよ! そんなことは、欧州では絶対に起こり得ない」

 ただし、そんな事実を古くからの友人に話しても、なかなか信じてもらえないという。フットボールは本来的にスポーツだが、まるで戦のように捉える国や人々も多い。だから、敵地に乗り込んできた相手は憎き敵であり、地元サポーターが侵入者を温かく歓迎するなんてことはあり得ないのだろう。

 その一方で日本には、サッカーを純粋に娯楽として楽しみ、相手にも笑顔で拍手をするサポーターがいる。ウタカも自分の目で見るまでは、世界にそんなフットボールファンがいるとは、思いもよらなかったという。そして実際に経験した時の感動は、ちょっと芝居がかった調子でこう語った。

「『ワオ、こんな世界があるのか』と考えさせられたよ」と、左腕に乗せた右手を顔に当て、感銘を受けた当時を思い起こすようにウタカは続ける。

「『すばらしい。彼らは最先端のサポーターかもしれない』と感じたよ。本当さ。僕の言っていることはわかるよね。だってフットボールはそもそも、生死に関わることではないでしょ。欧州なんかには、それを戦争のように捉える人もいるけど、本来は楽しいものだよね。日本のファンはフットボールをスポーツとしてシンプルに楽しんでいる。最高のサポーターだよ」
(中編につづく>>)

ピーター・ウタカ
Peter Utaka/1984年2月12日生まれ。ナイジェリア・エヌグ出身。京都サンガF.C.所属のFW。2003年にマースメヘレンでデビューしたベルギーでは3チームでプレーし、その後4シーズンを過ごしたデンマークのオーデンセでは、2009−10シーズンに得点王を獲得。2012年からは中国でプレーし、2015年に清水エスパルスへ。翌2016年、サンフレッチェ広島でJ1得点王を獲得。その後FC東京、ヴェイレ(デンマーク)、徳島ヴォルティス、ヴァンフォーレ甲府、2020年から京都でプレーしている。