人に好かれるためにはどうすればいいのか。『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)から、スパイが実践する相手に好印象を与える方法をお届けする――。(第3回/全3回)
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■ホタルのお尻は光るのか

子どもの頃、自然の光のショーを眺めながら、けだるい夏の夕暮れを過ごしたことがあるだろうか。キッチンに置いてある保存用の瓶を掲げ、薄闇の中、そよ風に揺れる小さなランタンのように動く光の点滅をとらえようとするのは楽しいものだ。

夏の夕暮れに光を放つホタルは人の心をとらえて放さない、地球上もっとも魅力的な生き物のひとつだ。

ホタルが発光する仕組みは複雑で、生物学や物理学の知識がなければ理解するのは難しいが、ここで注目したいのは、ホタルが光を放つ理由だ。

ホタルはさまざまな理由から発光する。

光を点滅させることで「自分たちは苦いから食べてもまずいだけだぞ」と捕食者に警告を送っているという説、また種の異なるホタルはそれぞれの発光パターンをもっており、自分と同じ種のホタルを見つけたり、性別を見分けたりする際に役立てているという説もある。

諸説ある中、ホタルの発光が本書の内容に関わってくるのは、ホタルが発光を「求愛のシグナル」として利用しているという点だ。これまでの研究により、オスのホタルはメスのホタルの気を引くために特別な点滅パターンを利用することがわかっている。

フロリダ大学の昆虫学者マーク・ブランハムは「発光の点滅率や光度が高いオスほど、さまざまなタイプのメスを引きつけることができた」と述べている。

■ホタルとスパイの意外な共通点

ホタルの振る舞いは、人が自分を魅力的に見せ、相手に好意をもってもらいたいときの行動とよく似ている。

というのも、人はたいていあなたの声を「聞く」前に、あなたの姿を「見る」からだ。人は、あなたの態度やしぐさを見て、「この人と親しくなりたいかどうか」を判断している。

互いについて予備知識なく初めて会う場合、〈好意シグナル〉を送り、「あなたと親しくなりたい」というメッセージを伝えることも、〈敵意シグナル〉を送り、「あなたとは関わりたくない」と伝えることもできる。さもなければ、わざと「光」を消し、自分の存在を目立たなくすることもできる。

たとえば二人以上の見知らぬ人間が見通しのきく場所で近距離にいれば、自然と互いを観察することになるだろう。そして相手が〈好意シグナル〉を発しているのか、あるいは〈敵意シグナル〉を発しているのか、あなたの脳は自動的に判断する。

■好意と敵意のシグナルの使い分け

とはいえ、たいてい判断は「普通」止まりだ。人の外見や態度はノーマルである場合がほとんどで、その相手が自分にとって脅威でなく、重要人物でもないと判断すれば、脳はその場かぎりでその人の情報を忘れることになっている。

それはいわばニューヨークでタクシーを拾うようなもの。通りには何十台ものタクシーが走っているが、人は空車のライトがついているか消えているかしか見ておらず、空車でないタクシーのことはすぐに忘れる。

しかし、なかには特別に人を引きつける人もいる。読者のみなさんも、これまでバーやナイトクラブに同性の友だちと繰り出し、初対面の異性を引きつける魅力をそなえている人を見たこともあれば、存在にさえ気づいてもらえない人を見たこともあるはずだ。

もちろん、スタイルがいいから目立っていた人もいただろうし、見るからにお金をもっていそうで異性を引きつけていた人もいただろう。しかし実際には、大半の人が〈好意シグナル〉を発したからこそ、人気者になっている。〈好意シグナル〉を発した結果、この人と親しくなりたいと相手に思わせているのだ。

■相手に「好意シグナル」を送る3つのポイント

では、まだ言葉をかわす関係ではないときに「態度」や「しぐさ」でメッセージを伝え、好感をもってもらい、一晩であろうと一生涯であろうと親密になるための土台を築くには、どんなシグナルを送ればいいのだろうか。

そうしたシグナルは無数にあるが、カギを握る重要なシグナルは三つに絞られる。その三大シグナルとは、「眉をさっと上げる」、「頭を傾ける」、そして作り笑いではなく「本物の笑みを浮かべる」ことだ(そう、人間の脳は作り笑いと本物の笑顔を見分けられる!)。

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1 眉をさっと上げて目を見開く

これは、眉をすばやく上げて目を見開く動きのことだ。六分の一秒ほどの短時間で行えるため、言葉を使わずに〈好意シグナル〉を送りたいときに便利だ。

知らない人に近づいていくとき、眉をさっと上げて見せれば、「私は怪しい者ではありませんよ」というメッセージを送ることができる。初対面の相手と1.8〜1.5メートルほどの距離に近づくと、脳はこのシグナルをさがす。

相手からシグナルが送られ、こちらも同じシグナルを送り返せば、言葉を使わずに「私はあなたの敵ではありませんから、怖がったり避けたりする必要はありません」と、互いに知らせることができる。

ほとんどの人は無意識のうちにそうしているため、自分が眉をさっと上げていることに気づいていない。ためしに、観察してみるといい。オフィスなどの公的な場所で初めて顔をあわせた人たちは、「はじめまして」「調子はいかがですか」といった挨拶をしながら、眉をさっと上げているはずだ。

■言葉には現われない相手の心理がわかる

自分でも人と会うときにどんなしぐさをしているのか、意識してみるといい。

言葉を使わないコミュニケーションを瞬時にかわしていることに驚くはずだ。そして、自覚してこなかったものの、さまざまなしぐさや態度で、これまで自分がずっとシグナルを送ってきたこともわかるだろう。

眉をさっと上げれば、遠くにいる人にもシグナルを送れる。たとえば、あなたが混雑した会場にいるとしよう。遠くにいる誰かに関心をもったら、眉をさっと上げ、相手からの反応を待ってみよう。

もし相手もさっと眉を上げてきたら、話しかけるといい。相手もあなたに関心をもっているというサインだ。反対に、なんの反応も返ってこなければ、相手はあなたに関心をもっていない。

このように眉をさっと上げるしぐさを利用すれば、相手がこちらに関心をもっているかどうかを判別できるし、脈のない相手からは早期に警鐘を鳴らしてもらえる。

そうすれば、親しくなる気がない相手に声をかけた結果、拒絶されずにすむし、バツの悪い思いもせずにすむ。自分と同様に眉を上げてくれた人にだけ、声をかければいい。

■「私は脅威ではありません」のポーズ

2 頭を傾ける

左右どちらかに頭を傾けるのは、「私は脅威ではありません」というメッセージを送るしぐさだ。首の両側には頸動脈があり、頭を傾けると、そのどちらかを相手に見せることになる。

頸動脈は酸素を含む血液を脳に運ぶ経路であり、そのどちらかが切断されれば数分のうちに死が訪れる。だから脅威を感じた人は首をすくめ、頸動脈を守ろうとする。その反対に、まったく脅威を感じない人と会っているときには頭を傾け、頸動脈をあらわにするというわけだ。

「頭を傾ける」動作は、強い〈好意シグナル〉となるため、信頼の置ける人、魅力的な人と思われやすい。また頭をわずかに傾けて近づいてくる男性のほうが、女性からハンサムだと認識されやすい。

同様に、頭をわずかに傾けている女性のほうが、男性から魅力的だと思われやすい。話している相手のほうにわずかに頭を傾けている人は、思いやりのある正直な人に見られやすい。

女性は男性よりも頻繁に頭を傾けるが、男性は、頭をまっすぐにし、相手より優位に立とうとする傾向がある。

ビジネスの場では、頭をまっすぐに維持すれば有利になるかもしれないが、社交の場でまったく頭を傾けずにいると誤解されるおそれがある。ナイトクラブやバーで女性に声をかけるときには、意識して頭をどちらかに傾けるほうがいい。

頭をまっすぐにしたまま近づいていくと、女性に警戒されるおそれがある。あなたには悪意がないのに、女性に「要注意人物」と思われてしまったら、その女性と親しくなるのは不可能ではないにせよ、困難になる。

■忘れてはいけない「受容」のシグナル

3 「本物の笑顔」を見せる

笑顔は強力な〈好意シグナル〉だ。にっこりしていれば魅力的に見えるし、好感をもたれやすくなるうえ、我が強い人だと思われにくくなる。

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笑顔は、信頼、幸福、熱意をあらわし、もっとも重要なことに「受容」のシグナルを送る。笑顔は好意を伝え、微笑んでいる人の魅力を高めるうえ、「にっこりと微笑む」というそれだけの行為で、「あなたを受け入れます」というメッセージを送ることができるのだ。

にっこりすると、エンドルフィンという脳内物質が分泌され、まず当人がいい気分になる。そして微笑みかけられた相手は、笑顔を返さずにいるのが難しくなり、思わず微笑み返してしまう。すると、あなたが微笑みかけた相手もまたいい気分になる。さらには、自分をいい気分にさせてくれた人のことを好きになる。

ところが、笑顔には一点だけ問題がある。

科学者のみならず、観察眼の鋭い人なら以前から気づいていたように、笑顔には「本物」、すなわち心からの笑顔だけではなく、「作り笑い」や「愛想笑い」がある。「本物」の笑顔は、好意をもっている知人や、知り合いになりたいと思っている人がそばにいると、思わず浮かべてしまうものだ。

一方「作り笑い」はたいてい、社交上の義理をはたしているときや、仕事の必要上、相手に好意をもってもらいたいときに利用する。

■作り笑顔は逆効果

自分を好きになってもらいたいなら、心からの笑顔を浮かべなければならない。

笑顔が本物かどうかを見分けるシグナルは、口角が上がっていること、目尻に皺が寄り、頬も上がっていることだ。作り笑いは、どちらかに笑みが片寄っている場合が多い。右利きの人は顔の右側に、左利きの人は顔の左側に笑みが片寄りやすい。

また、作り笑いはタイミングが遅くなりやすい。本物の笑みより遅いタイミングで浮かび、不自然なかたちでしだいに先細りになる。

反対に心からの笑顔では、頬が上がると同時に目の下の涙袋も上がり、目尻にカラスの足跡が寄る。人によっては鼻が少し下がって見えることもある。ところが作り笑いでは、口角も頬も上がらないため、目尻に皺が寄らない。

若者は肌に弾力があるため目尻に皺が寄りにくいが、それでも脳は本物の笑顔と作り笑いの違いを検知する。

■笑顔で「距離感」を調節する

どんな笑顔を浮かべるかで、相手に親しくなりたいと思わせることも、思わせないこともできる。特に女性は笑顔の浮かべ方を変え、初対面の相手との付き合い方や、今後の交流のペースを調整しようとする。

ジャック・シェーファー、マーヴィン・カーリンズ『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)

一方、男性は女性が微笑みかけてくれると、声をかけやすいと感じる。また女性が嬉しそうに笑みを浮かべていれば、こちらから声をかける許可を得たような気分になる。その反対に、作り笑いや無表情を浮かべている女性は、その男性にまったく関心をもっておらず、声をかけられても困るというメッセージを送っている。

同様に、女性は他の〈好意シグナル〉を併用しつつ、笑顔の頻度や強度を調整し、相手の男性と言葉をかわす気があるか否かのメッセージを送る。

意のままに、「本物の笑顔」を浮かべる方法を身につけたいのなら、練習を積み重ねるしかない。

鏡の前に立ち、実際に作り笑いと本物の笑みを浮かべてほしい。それほど難しくはないはずだ。これまでも、大好きな人に感謝の気持ちを伝えたいときには心から微笑んできたはずだし、迷惑な来客や不快な取引先との会食の席では作り笑いを見せてきたはずだ。

その二つの違いを意識しながら、脳に「本物の笑顔」を刻み込む練習をしていこう。

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マーヴィン・カーリンズ心理学博士、コンサルタント
プリンストン大学で心理学博士号を取得。人間関係に関して国際的にコンサルティング業を展開している。著書多数
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(ジャック・シェ―ファー、心理学博士、コンサルタント マーヴィン・カーリンズ)