姫路市・ピカイチ市長は元医師(写真・朝日新聞)

 大臣や知事の勇ましいメッセージばかりが報じられるが、新型コロナ対策の最前線で汗をかいているのは、全国1741の「市区町村」だ。住民の生活や医療の充実、文化にまで目を配る、キラリと光る “妙策” を一挙紹介!

「コロナ特措法の仕組みを見ると、国が出した指針や通知を実行していく権限は、各都道府県知事にあります。しかし、医療体制の整備や経済対策的な施策を現場でおこなうのは、市区町村なのです」

 地域経済学を専門とし、コロナ禍で地方自治体が直面する問題について調査してきた岡田知弘・京都大学名誉教授(66)が、こう語る。

「コロナ対策がうまくいくかどうかは、首長主導で市区町村ごとに独自策を講じられるかにかかっているのです」

 そのためには、いかに住民の生の声を吸い上げられるかが肝要だ。岡田氏は、まず東京都の特別区を例に挙げた。

「成澤廣修・文京区長には強いリーダーシップと、こまめに街を歩くフットワークがあります。

 一方、世田谷区の強みはチームワーク。保坂展人区長のもと、総合支所や出張所のほかに、細かく『まちづくりセンター』を置き、地域の中にたくさんの職員が入っています。地域住民との連携がうまくいっていたからこそ、区独自のPCR検査もいち早くおこなえたのでしょう」

 一方で、パフォーマンスに走り、スタンドプレーが目立つ首長もいるという。

「なぜか政令指定都市や、“政治塾” 出身者に多いですね(笑)。しかし、重要なのは、施策が地域の実情に見合っているかどうか。そして継続性も考えていかねばなりません」

 コロナ禍にいち早く対策を打っている市区町村は、それ以前から各種の問題に対策を講じていたところが多い。

「帯広では市の支援のもと、商工会議所が2020年3月18日という早い段階で、テイクアウト品やお弁当の通販サイト『つなぐマルシェ』をオープンしました。これは、帯広市が以前から、中小企業の支援策を充実させていたからできたことです」

 医療・医事面ではどうだろう。元厚労省医系技官で、東京都渋谷区で「みいクリニック代々木」を運営する宮田俊男院長(45)は、神奈川県顧問や川崎市参与を務めた経験から、地方医療の現状に詳しい。

「神奈川県で頑張っているのは鎌倉市です。地元の民間病院『湘南鎌倉総合病院』に、市の音頭で2020年4月の段階で発熱外来を設けてもらい、国内トップクラスの数の救急搬送を受け入れています。それが可能なのは、地元医師会と市の連携が取れているからです」

 続いて、岡田氏が解説する。

「思い切ったコロナ対策は、財源があり、最大の感染エリアである東京都が先行しています。政令指定都市、中核市、一般自治体では、財源に差がありますから、支援金の多寡を単純には比較できません。

 保健所をもたない一般自治体では、県から情報をもらえないという問題もあるようです。そんななかで工夫し、ユニークな取り組みをしている自治体を評価したいですね」

 そして、西日本でまず目立っていたのは大阪市だろう。2020年4月、松井一郎市長が、市民に雨合羽の寄付を呼びかけたものの、市役所内に30万着以上が放置される問題が起きた。まさに “パフォーマンス” だと批判を浴びたが、前出の宮田氏はこう語る。

「 “雨合羽” 自体は、あの時期では熱意の表われとして、仕方がなかったでしょう。ただ、民間病院にも批判の目が向けられたことで、医療関係者のモチベーションが下がり、医療崩壊を招きかけました。

しかし、地元医師会と民間病院『加納総合病院』などが奮闘し、最悪の事態を脱しました。西日本では、コロナ患者を民間病院が果敢に受け入れるし、役所ともあまり対立しないんです」

 医学界は昔から「西高東低」といわれる。人口あたりの医師の数や、使われる医療費も西が多い。

「そんな土地柄で、特筆すべきなのは兵庫県姫路市。清元秀泰市長はもともと医師で、2020年3月には医師会長と合同で記者会見し、市民へ感染防止の啓発をおこないました。

 5月からは妊婦とパートナーに唾液によるPCR検査を開始し、2021年の2月には入院病棟を新規に開設。市役所、医師会、保健所、基幹病院6病院で毎週定例オンライン会議をおこなっている、ピカイチの自治体です」(同前)

 全国の市区町村は、国や都道府県よりもさらに前線で、さまざまな対策を打ってきた。前出の岡田氏は、それらの取り組みを見渡し、こう語った。

「今、比較的感染者数の少ない地域は、健康被害よりも風評被害、経済被害が深刻になってきています。今後は、鹿児島市が始めた、地元の人に向けた『マイクロツーリズム』のように、地域の中で経済を循環させる取り組みが増えていくでしょうね」

写真提供・世田谷区

■“PCRの功労者”保坂展人世田谷区長「ワクチンへの国の対応は『話が違う』」

「厚生労働省は、コロナ対策の根幹に関わる部分ですら、予告なしに毎週のように変更してくるんです。そのたびに、自治体は振り回されます」

 政府を辛口評価するのは、保坂展人・世田谷区長(65)だ。

「……とは言いましたが、これまで世田谷区は、振り回されることはありませんでした(笑)。専門家をアドバイザーにし、あらゆる問題が起きる可能性を検討してきたからです。

 2020年10月から、世田谷区は高齢者施設の職員、利用者などを対象にPCR検査を実施しています。当初は、メディアから反対論がかなり出ましたが……」

 保坂区長は、世田谷区独自の、このPCR検査を「社会的検査」と名づけ、国が費用を負担するよう働きかけた。

「その結果、2020年秋から、厚労省が全国の自治体に波及させ、費用も負担する『行政検査』となりました。介護施設や医療機関での感染拡大を防ぐ有効な手段だと国が認めたのです」

 そんな保坂区長でも、今回のワクチンへの国の対応には不満を隠さない。

「厚労省は1月25日の自治体向けの説明会で、ワクチンは一度に3カ所程度しか運搬できないと説明しました。ところが1月29日には、区内のかかりつけ医など約250カ所に運搬して個別に接種する “練馬区モデル” もOKだと言い出した。『ぜんぜん違うじゃないの』と思いましたね」

 さらに、ワクチン担当の河野太郎大臣が、2月15日に「職場でも接種できるようにしたい」と発言したのだ。

「世田谷区民92万人のうち、都心に通勤・通学している方は約半数います。そうなると、根本から話が変わってきますよね」

 2月2日、都庁において、保坂区長は小池百合子都知事に国への不満を伝えた。

「ことワクチンに関して言えば、住民接種で都道府県はあまりやるべき仕事がないんです。病院にマニュアルを交付することなどは都の仕事ですが、都にはつい最近専門の部署ができたばかりで、まだ細かい仕事をできる体制がない。

 そして、厚労省に何度話を聞いても、最終的な住民接種の責任は、我々『区』にあるとしか思えないんですよ」

 先の見通しが立たないまま、2月17日からまず医療関係者へのワクチン接種が始まった。

「運搬についても、『250カ所に運んでも、ワクチンの品質には問題ない』ことを裏づけるデータを厚労省に照会しています。私は、そのうえで判断したい。いかに速やかに打てるかが皆さんの関心事でしょうが、まずは安全第一、生命第一でと考えています」

 以下の関連リンクでは、前出の岡田氏・宮田氏への取材をもとに、優れた独自施策をおこなっている自治体を本誌がまとめた

取材/文・鈴木隆祐(保坂区長以外)

(週刊FLASH 2021年3月9日号)