「子供が通っていた幼稚園が、この近くにあったんですよ。前を通るたびに、『あそこ、うまそうだなぁ』と気になって気になって。それであるとき入ってみたら、これが大当たり(笑)。もう25年ほど前の話になります」

 店に入ってくるなり、満面の笑み。その表情が、ここ「東海苑」が宮川一朗太(54)にとってどんな場所なのかを、物語っている。

「僕はもちろんですけど、娘たちもこの店が大好きなんですよ。小さいときから『今日は何食べたい?』って聞くと『東海苑、行きたい!』って、合言葉みたいに。誕生日祝いもこの店でやったことがあるなー。

 今日も『東海苑で取材があるよ』って娘に言ったら、『私、ついこの前、行ったよ』だって。もう大人なんで、自分のお金で来てるんです」

 すでに社会人となった2人の娘がいる。かつてはここで、家族4人で賑やかに食事を楽しんだが、妻とは10年以上前に離婚している。

「別れたあとも時々、元かみさんと娘と、一緒にここへ来たりしてたんですよ。う〜ん……“家族の場所”、なのかな。だからなのか、ここはいつ来ても、家に帰ってきたような感じがするんですよ。“家族に戻れる場所”、なんでしょうね」

 絶対に外せない、というのが「チョレギ」。

「絶品ですよ。この、なんともいえない絶妙なタレ。いったいどうやって作っているのか、20年以上ずっと探っているんだけど、謎なんですよ」

 そして「特別なメニュー」というのが、「特上カルビ」だ。

「これはですね、毎回食べるものじゃないんです。めちゃくちゃうまいんですけど、値段が値段でしょ(1人前2800円で2人前から)。だから、特別なときしか頼めないです。すごくいい仕事が決まったときとか、万馬券を獲ったときとか」

 ステーキのようなカルビを、ハサミで切って焼く。「さっと炙るだけで十分。火を通しすぎちゃダメ」と言いながら、特別な肉との真剣勝負。ちょうどいい焼き加減のところで、肉をタレ皿へ、タレ皿から口へ。
「う〜ん、これやっぱり最高だ! 早く次の万馬券当てないと(笑)」

 宮川のデビュー作は、1983年公開の映画『家族ゲーム』だ。

「オーディションは高2の秋。それまでオーディションは全敗で、『俺は俳優に向いてないんだ』って思い始めたころです。かなり適当にやっていたはずですけど、その “やる気のなさ” がイメージにぴったりだって、合格しちゃったんですね。

 そのときは、(松田)優作さんが出るなんて知りませんよ。いや、もし知ってたらすごい気合が入って、きっと落ちてたんじゃないかな」

 この作品で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。

「いろんなドラマや映画に出させてもらって、それを優作さんに報告すると、『よかったな』って言ってもらえて。それがたまらなく嬉しかったですね」

 23歳で結婚。25歳から関西の競馬中継番組『ドリーム競馬』の司会を務めた。

「20歳のときですね、競馬と出会ったのは。舞台に出ていて、先輩の役者さんに誘われたんですよ。もうそれからドップリですね。

 しかし、そのおかげで競馬番組の仕事もいただけました。レギュラー番組なんで、安定した収入になるじゃないですか。それですごく助かったんですよ。あの番組のおかげで、なんとか生きていたようなものですから」

 というのも、そのころ俳優としての宮川の仕事は激減していたのだ。

「僕、かなりの童顔じゃないですか。30歳を過ぎても、まだ10代に見えなくもないって感じで。それが役者としての武器だったんですが、逆にウイークポイントでもあったんです。

 年相応に刑事の役、あるいは子供がいるパパ、それじゃあ若く見えてしまう。じゃあ若い役をやるかというと、やっぱり若い人と一緒に映ると、ある程度の年齢が見えてくる。そういうジレンマが、あのころはありましたね」

『家族ゲーム』でデビューした10代のころ

『ドリーム競馬』は2006年、40歳で卒業。その少し前に、離婚も経験した。

「一口馬主をやっていたんですが、なんとか理解は得られていたと思っていたんですよ。でも、一口175万円の馬に投資していたことが、やっぱり許せなかったみたいで……。(離婚の)原因は、それだけじゃないんですけどね」

 その一口175万円の馬・ネオユニヴァースは、日本ダービーを勝つなど大活躍を見せる。種牡馬にもなり、3000万円近くのリターンを宮川にもたらしたのだが……。

「かみさんが出ていったので、自分が娘2人を育てることに。いま思い出しても大変でした。仕事もないですから。あのころは、この店にもあまり来られなかったですね」

 所属事務所を移り、「どんな役でもいいから」と、がむしゃらに働いた。そんななかでつかんだチャンスが、2013年のドラマ『半沢直樹』(TBS系)への出演だった。以後、ドラマや映画への出演が急増、いまやバイプレイヤーとしての地位を確固たるものにしている。

 また最近は、クイズ番組『東大王』(TBS系)にも出演。漢字検定準一級の知識や、オセロの能力を披露し、大活躍を見せている。

「今はありがたいことに、いろんな仕事をいただいていますが、いつも自分の心の中では『油断するなよ』と思っているんです。この世界、山あり谷あり。そういう経験をしてきましたから。

 クイズ番組も、どうしたら自分を使ってもらえるのか、必死なんですよ。オセロも、そのためにイチから勉強しましたから」

 2020年秋には事務所を移り、さらに活動の幅を広げようとしている。

「蒼井優ちゃんと同じ事務所なので、いつか一緒に映画の仕事ができたら、と思ってるんです。賞レースに乗るような作品に出るじゃないですか、優ちゃんは。それで、『自分も何か賞をいただけたらなー』なんて(笑)」

 と、ここまでの冗談めかした口調から一転、真剣な表情に変わった。

「だって、『家族ゲーム』で新人賞をいただいてからもう37年。それっきりなんですから。優作さんは40歳で亡くなっているんで、優作さんが演じることができなかった50代・60代を、僕が演じていきたい、演じなきゃいけないと思ってるんですよ」

 そこまで話すと、少し照れたような顔になり、ジョッキのビールを呷った。
「もし賞が獲れたら、特上カルビでお祝いしなきゃ、ね」

みやかわいちろうた
1966年3月25日生まれ 東京都出身 1983年、映画『家族ゲーム』でデビューし、同作で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。競馬好きで、15年にわたり競馬番組の司会を務めた。一口馬主として二冠馬・ネオユニヴァースなどへの出資歴がある。声優としても活動し、マイケル・J・フォックスの吹き替えを多く務める。現在、クイズ番組『東大王』(TBS系)に出演中

【SHOP DATA/東海苑】
・住所/神奈川県横浜市神奈川区松本町1-2-4(東急東横線「反町駅」から徒歩2分)
・営業時間/16:00〜24:00
・休み/火曜日

写真・野澤亘伸

(週刊FLASH 2021年1月19日・26日合併号)