レコード店やレーベルに大打撃、音楽業界で起きている流通システム破綻の実情
「僕らの知り合いのほぼ全員が影響を被ってる」Direct Shotと契約しているあるインディレーベルのエグゼクティブはそう話す。「商品の紛失や管理ミス、それに深刻な納品遅れ。信じがたいけど、多くの人が名前を耳にしたこともない会社が、アメリカの音楽業界全体に深刻なダメージを与えているんだ」
ストリーミングサービスの利便性と急速な成長の恩恵を受けているカジュアルリスナーの多くは、フィジカル版の販売ビジネスの動向に無関心に違いない。CDとレコードの売上が下落しているのは事実だが、American Association of Independent Music (A2IM)の代表Richard Burgessによると、2019年のアメリカの音楽市場におけるフィジカル版の総売上は10億ドル近くに上ったという。

ニューヨーク州ポキプシーにあるレコード店のオーナーによると、わずか4枚のレコードを届けるために貨物トラック1台が使用されていたという。(Courtesy of Justin Johnson)
音楽業界では過去何十年にもわたって企業の統合が進められてきたが、その結果としてWarnerがDirect Shotとタッグを組んで以来、同社は市場におけるフィジカル版全体の8割以上の流通業務を担うことになった。その中にはメジャー3社(全てコメントを拒否)からのリリースのほか、時代の変化とともに流通業務をメジャーのネットワークに依存せざるを得なくなったインディレーベルの作品も含まれている。
「Direct Shotは明らかに、処理しきれない量の仕事を請け負っていた」Coalition of Independent Music Storesのエグゼクティブディレクター、Andrea Paschalはそう話す。「1インチのパイプに、10インチパイプ分の水を流し込むようなものだ」数年前にWarnerが所有するAlternative Distribution Alliance (ADA)を脱退したインディレーベルBetter Noise MusicのCEO、Allen Kovacはそう語っている。
本誌はDirect Shotにコメントを求めたが、先方からの返事はない。しかし、昨年夏に交渉の末Direct Shotを買収した在庫管理および物流に特化した企業、Legacy Supply Chain Servicesのマーケティング&コミュニケーション部門を仕切るKyle Krugは、同社がDirect Shotの流通システムを再編成するために「多大な投資を行った」と主張している。
Krugによると、既に何百万ドルもの費用をかけているというLegacy Supply Chain Servicesの取り組みには、「回収が容易な場所で膨大な量の商品を保管すること」や、「一流のサプライチェーンコンサルタントを雇い、優れた商品管理システムを新たに確立する」ことなどが含まれているという。Direct Shotの在庫管理システムは現代の音楽業界のニーズにかなっていなかったのかという問いに対し、Krugはこう答えた。「そういうことになります」
しかしDirect Shotが現在でもうまく機能していないことから、関係者たちの多くはLegacyによる「改革」の効果についても疑念を抱いている。レコード・ストア・デイの共同考案者であるMichaerl Kurtzはこう語っている。「まともなディストリビューターは、長くても1カ月か2カ月のうちに問題を解消するものだ。それでも長すぎるくらいさ」
さらにKurtzはこう続ける。「彼らは問題を解決できていないし、その見込みもない」
流通業務をサードパーティーの企業に委託していたメジャー3社は、現在打つ手がほとんどない状況に陥っている。「Direct Shotのような会社は他にないんだ」Krugはそう話す。「ニッチなビジネスだから寡占状態なんだよ」
各販売店によると、UniversalはDirect Shotへの負担を軽減するため、一時的に流通業務の一部を他に回しているという。また同様の目的で、最近メジャー3社は小規模なレコード店との直接取引を停止した(店によっては過去数週間のうちにSonyと取引をしたところもある)。各販売店は仲買人となる流通業者を通すしかない状況だが、それは商品の値上がりに繋がっている。ある2人のレコード店経営者によると、メジャーレーベルはかつて直接取引をしていたショップには仲買業者によるディスカウントを適用させることで、コストをできる限りニュートラルに保とうとしているという。
正常な状態には程遠いにせよ、販売店の中には商品の発注と入荷をめぐる状況は改善されているとしているところもあるが、多くはその変化を実感できていない。「最近お気に入りのジョークがあるんだ。『切り落とした部分には絆創膏を貼っとけ。どうせ痛くなもなんともない』っていうやつさ」オースティンのレコード店Waterloo RecordsのJohn Kunzはそう話す。
Kurtzは交流のあるレコード店オーナーたちを対象に、独自に調査を行なった。「2019年の最初の4カ月で、大半のショップの売上は前年比20パーセント増だった」彼はそう話す。「でもその時点から年末にかけて、売上はトントンかマイナス4パーセントくらいまで下がった」。Paschal曰く、現在の状況によって閉店を余儀無くされる店が出てくるのは間違いないという。
販売店以外で甚大なダメージを被っているのは、膨大なストリーミング回数が望めないインディレーベルや中堅クラスのアーティストたちだ。「音楽で生計を立てているミュージシャンたちにとって、ライブ会場やショップでのレコードやCDのセールスは、彼らの経済面における命綱となっています」Warnerに務めた20年の間に、考案されたばかりだったレコード・ストア・デイの発展に尽力したTom Grover Bieryはそう話す。
ADAに加盟しているあるインディレーベルの代表は、Direct Shotが引き起こしている混乱は「約9カ月にわたって私たちのビジネスを脅かしている」と話した上で、こう付け加えている。「状況が改善されることを期待して、私たちは作品のリリース予定を見直したのに」。メタルバンドOpethのマネージャーを務めるAndy Farrowによると、フィジカル版の納品遅れはバンドのチャートアクションに悪影響を及ぼしたという。
XLや4ADを含む一部のインディレーベルは、メジャーレーベルが所有する企業との流通契約を解消し、インディペンデントのRedeye Distributionと提携している(両レーベルを抱えるBeggars Groupはコメントを拒否している)。Direct Shotとのトラブルに巻き込まれている先述のインディレーベル社長は、現在代替案を模索しているという。Legacy Supply Chain ServicesのKrugは、現在の状況を「憂慮すべき事態」としている。

オレゴン州ポートランドのレコード店Music Millenniumに届けられた、CDが1枚入ったダンボール箱1つを運んできたパレット(Photo by Terry Currier)
破綻した流通システムの被害者であるインディレーベルの多くは、自分たちの経験を公にしようとはしない。「そういったことを口にする人々に目を光らせてる奴らがいるから、皆ビビってるんだ」ADAに加盟しているレーベルの代表を務める人物はそう話す。「契約を解消することで、インディレーベルは自社のネガティブな評判が広まることを恐れているんです」Burgessはそう話す。「それでも契約を解消する場合は、秘密保持契約を結ぶよう迫られます」現在の状況が続いている背景にはそういう事情がある。
インディのコミュニティが懸念を口にできない状況が何カ月も続き、その傷口が化膿し始めている現在、メジャーレーベルが意図的にフィジカル版のビジネスを終わらせようとしているという陰謀説が現実味を帯び始めている。「俺たちは需要があることを知ってる」ポキプシーのレコード店オーナーJohnsonはそう話す。「それでも奴らはビジネスを終わらせようってのか?」
Krugはその陰謀説について、「残念な憶測」と語っている。「彼らが被害を受けていることは、私たちも把握しています」彼はそう続ける。「フィジカル版のビジネスを存続させるため、私たちはこの事業に投資しているのです」Direct Shotの流通システムが再び機能するのはいつなのかという問いに対し、「具体的な時期について言及することはできない」とした上で、彼はこう答えている。「エンドユーザーまで影響する、様々な大きな変化が控えています」
ネブラスカ州オマハにあるレコード店Homers MusicのゼネラルマネージャーMike Frattも、メジャーレーベルがCDとレコード供給の息の根を止めようとしているという説を耳にしている。しかし、彼は異なる見方をしているという。「誰かが俺たちを痛めつけようとしているなんて思わないよ」彼はそう話す。「強欲さとお粗末なマネージメント、それに無能ぶりが今の状況をもたらしたんだ」
