昨秋、大きな被害をもたらした台風24号。国際的には「チャーミー」(2018年9月、AFP=時事)

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 9月に入り、本格的な台風シーズンとなりました。日本のテレビや新聞では、台風のことを「台風13号」のように番号で呼ぶことが一般的ですが、海外では「レンレン」「コンレイ」などの固有名詞で呼びます。すべての台風に固有名詞が付いているにもかかわらず、なぜ日本では番号で呼ぶのでしょうか。気象庁予報課アジア太平洋気象防災センターの笠原真吾さんに聞きました。

1953年から番号で呼び始めた

Q.なぜ日本では、台風を「固有名詞」で呼ばずに「番号」で呼ぶのですか。

笠原さん「台風を番号で呼ぶようになったのは、1953(昭和28)年からです。固有名詞で呼ぶよりも番号で呼んだ方が、後から振り返ったときに順番が分かりやすいメリットがあり、また、調査や研究目的のために整理しやすいと考えられました。

つまり、台風情報を発表する気象庁の都合に合わせて番号で呼んだのがきっかけです。『番号で伝えた方が国民も混乱しないだろう』という気象庁の考えもあったでしょう。それが社会的にも受け入れられて定着し、現在に至っています」

Q.1953年の前は、どのように呼んでいたのですか。

笠原さん「1947年から1952年までは、日本でも台風のことを固有名詞で呼んでいました。軍事上必要な気象情報を集めていた米軍が台風に固有名詞を付けており、その呼び方が(米軍を中心とする連合国軍の占領下にあった)日本国内でも用いられていたのです。1945年以前は固有名詞や番号を付けずに『台風』とだけ呼んでいました」

Q.米軍は台風にどのような名前を付けていたのですか。

笠原さん「よく付けていたのは、アメリカの女性の名前です。例えば『カスリーン』『アーマ』などです。女性の名前を付けた理由は、当時の軍隊が男性社会で女性の名前に愛着を感じたから、など諸説ありますが、はっきりとしたことは分かりません」

Q.日本でも、台風のことを番号ではなく固有名詞で呼ぶケースはあるのですか。

笠原さん「台風に番号を付け始めた後も、大きな災害をもたらした台風は日本独自の固有名詞で呼ぶようにしています。例えば『伊勢湾台風』『第2室戸台風』などです。以前は地域名だけで命名していましたが、2018年から規則が変わり、『令和○年△△(被害の大きかった地域名、あるいは河川名)台風』と表記するルールになりました。今のところ、このルールにのっとって命名された台風はありません」

Q.国際機関「台風委員会」が決める台風の固有名詞は140個、そのうち、日本も10個の固有名詞を命名しており、「ヤギ」「ウサギ」など星座をもとに命名しているそうですが、なぜ星座なのですか。

笠原さん「140個のリストに載せるためには(1)音節が少なくて発音しやすい(2)アルファベットにしたときの文字数が9文字以内(3)発音が他国の感情を害する内容にならない――など、いくつかの条件があります。

そうした中で気象庁が星座名を使っているのは、利害が絡むような特定の個人名や団体名に当てはまらず、台風も自然現象なので同じ自然現象である星座の名前を付ければ、人々にも親しまれるだろうと考えたからです」

Q.年間に発生する台風の数は平均30個弱です。固有名詞が140個も必要なのですか。

笠原さん「台風が大きな災害をもたらした場合、その固有名詞を外して別のものに入れ替えるということを行っています。外して別のものを入れる作業に、ある程度時間がかかるため、多めに固有名詞を登録しています。

台風委員会が台風の固有名詞を決めていますが、この会議は年に1回、台風のオフシーズンに行われます。そこで提案された台風の固有名詞を各国で調整して、登録するという流れで進めるので時間がかかるのです」

Q.台風に関するネットのニュースでは、番号と固有名詞が併記されていることがありますが、テレビや新聞では番号だけで伝えられます。今後、マスメディアでも、固有名詞も併記されるでしょうか。

笠原さん「はっきりとは分かりませんが、テレビや新聞などでは、番号で台風を呼ぶことが国民に広く親しまれていることから、固有名詞の併記が行われていないのではないでしょうか。分かりやすく伝えるという配慮もあると思います。

日本では、固有名詞で台風を呼ぶことが浸透していないため、固有名詞を言われても『何それ』と思う人が多いと思います。ネット上のように併記して伝えると、長くなってしまうデメリットの方が大きいように思います」

Q.これから、台風の本格的なシーズンです。台風が接近してきた場合、どのようなことに注意すればよいでしょうか。

笠原さん「最新の台風情報を確認することを意識してください。気象庁では、台風の最新情報を3時間ごとに更新しており、5日先までの予報は6時間ごとに更新しています。台風は、日本に近づいてくるまでにある程度時間があり、事前に備えられます。台風情報を逐一確認し、事前の備えをしてほしいと思います」