■「出社は今日まで」も法律上は可能

広がる人手不足により、「退職を申し入れても会社が辞めされてくれない」というトラブルが増えている。

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憲法で「職業選択の自由」が保障されているように、労働者は理由の如何にかかわらず、原則は自由に会社を辞められる。例外は雇用期間が決まっている有期雇用の労働者だが、雇用が1年を超えれば正社員と同じように辞めることができ、1年未満でも病気などのやむをえない事情がある場合は退職できる。

なお、正社員でも、申し入れた日に即日退職することはできない。自由に辞められるのは、退職を申し入れてから2週間後だ。しかし、明日から出社したくないなら、有給休暇が残っていれば、出社しないことも法律上はできる。労務問題に詳しい千葉博弁護士は次のように解説する。

「会社は、労働者から有休を申請されたときに別の日に変更できる時季変更権を持っています。しかし、2週間後に退職するのに、有休の時季を2週間以降に変更することは不可能。会社は申請通り有休を認めなくてはいけません」

■「離職票を出さない」と言われたら

このように労働者が辞める権利は法律で強く保護されているが、それを無視して強引に慰留したり嫌がらせしたりするケースが後を絶たない。

よく聞くのが、会社が退職届を受け取らないケースだ。辞表を渡しても安心はできない。「受け取っていない」「退職届だと思わなかった」と言われる可能性もあるからだ。もし退職届を渡していないことになったら、どうなるのか。

「『出社しないのは無断欠勤。懲戒解雇だ』とプレッシャーをかけられるおそれがあります。懲戒解雇になると退職金は出ず、再就職も困難に。そうしたトラブルを避けるには、内容証明郵便で送るなど、証拠が残る形で退職届を渡したほうがいいでしょう」

会社が離職票を出さないケースもある。退職者は離職票をハローワークに提出しないと、雇用保険の失業給付金をもらえない。会社は離職票を発行する義務を負うが、嫌がらせで出し渋るのだ。

「出し渋られたら、ハローワークに相談しましょう。会社に連絡がいって、普通はその段階で解決します」

悪質なのが、「辞められたら業務に支障が出る。損害賠償しろ」と脅されるケースだ。

これは2つの場合に分けて考える必要がある。まず、「会社の承諾なく辞めるときはお金を払う」というルールが事前に定められていた場合だ。労働基準法には賠償予定の禁止という条文があり、あらかじめ違約金や賠償を規定した労働契約を締結することを認めていない。ゆえに、このルール自体が無効だ。

「事前にルールがない場合は、賠償請求する理由が必要になります。しかし、労働者が辞める権利は強く保護されており、権利を行使することが違法になるケースはほとんどない。紛争になれば会社側が不利です」

(ジャーナリスト 村上 敬 答えていただいた人=弁護士 千葉 博 図版作成=大橋昭一 写真=iStock.com)