観光業が地球温暖化にもたらす深刻な影響が明らかに

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●想定していた数値の4倍以上の影響

 オーストラリアのシドニー大学の研究によると、観光業が原因となる温室効果ガスの総排出量は、これまで想定していた数値の4倍以上に上ることが判明した。これは、温暖化の原因となる温室効果ガスの総排出量の8%に相当する。数値には、旅行者が移動の手段として使用する交通手段以外のさまざまな商業活動も含まれているという。

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●飛行機での移動がもはや日常となった生活がもたらした変化

 西洋社会、および新興国の富裕層が、休暇や仕事のために飛行機を利用することはもはや珍しいことではなくなった。

 この生活スタイルの変化が地球の環境にどのような影響を及ぼしているのか、シドニー大学が行った研究が雑誌『Nature Climate Change』に掲載された。研究により、観光業を原因とする温室効果ガスの具体的な数字が明らかになったのである。

●世界の観光業が排出する温室効果ガスは44億トン

 シドニー大学の発表によると、世界の観光事業によって排出される二酸化炭素相当量は44億トンにのぼる。これは、地球全体の排出量の8%にあたり、これまでの研究で推測されていた2.5〜3%を大きく上回る数字となった。

 また、観光客の移動に関連する交通手段にとどまらず、インフラストラクチャー、小売業、飲食業界の輸送手段なども考慮に入れた現実的な数字である、とシドニー大学は説明している。

●居住国と旅行先における温室効果排出量

 研究者は、旅行者の自国内での移動と旅行先での移動や活動を分けて調査したという。居住国内の旅行の場合は、一国内での一旅行者の排出量が算出された。

 この双方の排出量を計算したところ、トップはアメリカ合衆国であった。アメリカ人が、旅行のために国内で排出する二酸化炭素は10億6千万トン、また旅行先の国での排出量が9億9900万トン。アメリカのあとに、中国(国内5億2800万トン・目的地5億6100万トン)、ドイツ(3億500万トン・3億2900万トン)、インド(2億6800万トン・2億4千万トン)が続いている。

 ちなみに、この数値は居住国と目的地での排出量が加算されたものである。1人あたりの排出量を見ると、トップの観光地はモルディブ、モーリシャス、キプロス、セーシェルといった島ばかりとなる。これらの島々は、住民の数が少ないにもかかわらず、観光業に関連する二酸化炭素の排出量が多いことを示している。

●排出量多量国の数値が示す意味

 排出量が多いトップの国々のふたつの数字を比べると、それぞれの国の事情の相違が見えてくる。

 アメリカとインドは、居住地での排出量が目的地を上回っている。つまり、国外や目的地に到着するまでの排出量のほうが、旅行先でのそれをしのぐということになる。中国とドイツは逆で、旅行先での排出量のほうが大きくなっている。

 さらに、国内旅行よりも海外旅行での一人あたりの温室効果ガス排出量が高い国は、カナダ、スイス、オランダ、デンマーク、ノルウェーとなっている。

 一方で、クロアチア、ギリシア、タイは、外国人旅行者がもたらす排出量の影響を最も多く被っている国々という結果が出た。

●急がれる「脱炭素化」

 今回の結果は、経済における脱炭素化が早急に必要であることを示している。つまり、人間のさまざまな活動において、温室効果ガスを排出しない技術の開発が急ぐ必要がある。今後も、エネルギーを大量に消費する人間の移動は、需要が増えることが予想されるからである。