元シンクロ五輪代表・青木愛さん【写真:編集部】

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【短期連載最終回】元五輪代表・青木愛さん明かすシンクロ選手の“意外な個性”とは

 水泳の世界選手権(ブダペスト)で終盤に差し掛かったシンクロナイズドスイミング。種目は複数にわたるが、競技において最も重要な要素の一つとなるのが「統一性」である。チームであれば、8人が水上で手足の先までぴったりとあうんの呼吸で演技を繰り広げなければ、高得点は望めない。

 その「統一性」を生み出すため、シンクロ選手はどんな練習、苦労を経て、華麗に演じているのか。08年北京五輪で5位入賞した青木愛氏に聞いた。

「そもそも同じ化粧をして、同じような顔に見えるかもしれませんが、シンクロ選手といっても、性格は本当に人それぞれです。うまく周りに合わせる人もいれば、周りが見えないくらい集中する人もいるし、本当にマイペースな人もいる。様々な選手がいる中で8人の動きを合わせないといけないので、本当に大変です」

 “八人八色”の個性に、青木氏は「本当はみんなが同じ性格だったら楽ですけど……」と笑う。

 1日10時間以上という練習環境で「意識を合わせるために練習以外で一緒に何かをする時間はない」というが、統一性が求められるシンクロ選手だから、五輪では意外な“職業病”も出ていたという。

他競技の選手との交流は意外に少ない? 選手村では「どこに行くのも一緒」

「自然と常に一緒に動くようになるんです。選手村でも補欠の選手を合わせた9人で、どこに行くのも一緒。2、3人で分かれることもなかったですね。なので、他競技の選手とは意外と交流が少なかったりするんです」

 ブダペストでは連日、日本選手が奮闘している。高度な「統一性」が必要となる分、試合当日の調整も緻密に行う必要がある。

「まずは普段の練習と一緒で、泳ぎ込んで体を動くようにしてから、演技を合わせます。ただ、大会の時は時間がないので、できていないところを重点的にやったり、プールの深さも違うのでリフトの確認をしたりします」

 会場によって、確認ポイントは異なってくるという。

「例えば、室内と屋外で演技の見え方が違ってきます。外だと自分たちの演技がすごく小さく見えたりする。会場に行くと、まず選手はどの時にどのコースに入るという『プールパターン』を確認します。始めはこの位置で、この瞬間にはどの審判を見るようにするなど、すべて決めます」

 場面場面において審判を見るポイントまで確認するという緻密さ。しかし、その審判の印象によって優劣が決まるというのが、採点競技の難しさだ。

審判も演技に好みあり? 採点競技の難しさ「審判は機械じゃないので…」

「泳いでいても、雰囲気でチームの出来はわかります」

 こう話した青木氏。だからこそ、採点が自分の感覚もずれている時もあるという。

「合っている気がしたり、ずれていたり、水中でわかる。ただ、思ったより採点が良い時、悪い時は当然あります。審判は機械じゃないので。人間だから好みがある。演技や曲調の種類、そういうところによって分かれることもある印象です」

 ただ、演技をする条件は全チーム一緒だ。青木氏は「出た点数が実力と思うのがベストです」と言う。昨年のリオデジャネイロ五輪ではチーム、デュエットともに銅メダルを獲得した日本。シンクロ界全体でいえば、王者・ロシア、2番手・中国を追う3番手の立場にいる。

 日本の武器である演技の正確性と統一性を武器として、表彰台を一つでも上るため、鎬を削っている。

◇青木 愛(あおき・あい)

 地元の名門クラブ・京都踏水会で水泳を始め、8歳から本格的にシンクロナイズドスイミングに転向。ジュニア五輪で優勝するなど頭角を現し、中学2年から井村雅代氏(現・代表HC)に師事する。20歳で世界水泳に臨む日本代表選手に初選出されたが、肩のケガにより離脱。その後も補欠に回ることが多く、「未完の大器」と称された。北京五輪代表選考会では劣勢を覆し、代表の座を獲得。欧米選手に見劣りしない恵まれた容姿はチーム演技の核とされた。引退後は、メディア出演を通じてシンクロに限らず幅広いスポーツに携わっている。