港区内格差:港区内で格下とされる芝在住の女が、バーキンを持つ前にやるべきこと
港区であれば東京の頂点であるという発想は、正しいようで正しくはない。
人口約25万人が生息するこの狭い街の中にも、愕然たる格差が存在する。
港区外の東京都民から見ると一見理解できない世界が、そこでは繰り広げられる。
これはそんな“港区内格差”を、凛子という32歳・港区歴10年の女性の視点から光を当て、その暗部をも浮き立たせる物語である。
港区内で頂点を極めた者に与えられるキングとクイーンの称号。クイーンとなり、港区女子を卒業した凛子は、港区内で有名な男の誕生会に呼ばれ、そこでクイーンにのし上がろうとする女たちを観察した。

デートよりも手強い港区女子会
-明日のランチ、綾乃とその友達も呼んでいい?
港区女子友達・美奈子から、凛子のスマホにLINEが届いたのは、週に2回ほど通っている『ザ・リッツカールトン 東京』のフィットネスエリアで心地よく汗を流している時だった。
いつもと同じ5kmを走り終えると、ランニングマシーンを降り、スパへ移動する。
ジャグジーに入り、大きな窓から見える東京タワーを見下ろしながら、凛子は心の中で小さくため息をついた。
正直に言うと、女子会は苦手だ。
気の置けない女友達との食事は楽しい。しかし“女子会”となると、どこから湧いてくるのか、“友達の友達“として数珠つなぎに新顔が現れるのが港区の女子会だ。
しかも無駄にみんなどこかで誰かと繋がっているため、迂闊にウワサ話もできない。
昨日、表参道のクリニックでレーザーを当ててきたばかりの肌は光輝いている。女友達も良いけれど、こんなに肌の調子が良い日は、どちらかといえば男性に会いたい。たとえ愛する婚約者がいても、だ。
それでも美奈子に押され、しぶしぶ女子会に参加することにした。
-この前買ったマックスマーラの白いワンピースをおろそう。
港区の女子会は、ある意味ファッションショーである。そしてそれは、女同士のマウンティングに直結する。
いざ、港区女子会へ。そこで繰り広げられる静かな戦いとは?
ラ・トゥール以外認められないのが芝エリア!?
「初めまして、綾乃です。」
「はじめまして、美穂です。」
美奈子の友達だと言う二人は、名乗ると同時に凛子の頭の先から足下まで舐めまわすように見てくる。
昔の凛子がそうだったように、彼女たちは他人を持ち物でしか測ることができないようだ。
二人の視線が突き刺さり、こんな場所に来てしまったことを凛子は早々に後悔した。
「はじめまして、凛子です。」
二人とも、凛子と同じ30歳前後に見えるが、ふと昔の自分を思いだして、胸が締め付けられた。自分に自信が持てず、虚勢を張り、物に頼っていた日々を思い出したのだ。
「凛子さん!一度でいいからお会いしたかったんです〜!」
綾乃と名乗るその女性は、ヴァレンティノのスタッズ付きパンプスに、ストライプ柄のパンツ、手元にはカルティエの時計。
そして30cmのバーキンを持っていた。
一つ一つの小物は良い。しかしどこか統一感に欠ける。とっさにそう感じたのは見当違いなのだろうか。
軽く挨拶を済ませ、港区らしい、上辺だけの会話が繰り広げられる女子会開始のゴングが鳴った。
美奈子が女子会に指定してきた『ル スプートニク』は季節を感じられる料理が評判で、一皿一皿が芸術作品のように美しく、女性ならば嫌いな人はいない店だ。
まるで絵画のように美しい、ビーツで作られたバラの花が乗った一皿に心を奪われていると、美奈子が嬉々として皆に住んでいる場所を聞き始めた。

「そう言えば、みんな港区に住んでるから家が近いかも!凛子は今、有栖川公園の近くだよね?」
港区といえども広い。そしてこの住んでいるエリアで、見えない線引きが静かに行われる。
美奈子は六本木、美穂は麻布十番、そして綾乃は芝に住んでいると言う。
「芝ってことはラ・トゥール?」
美奈子が無邪気な顔で綾乃に尋ねた。
芝と言えばラ・トゥールだ。それ以外、港区内で芝は格下というのが、凛子と美奈子の...いや、港区の共通認識だ。だが、綾乃は平然と言った。
「まさか。芝の普通の一人暮らし用のマンションですよ。」
華やかで高級レジデンスも多い六本木、麻布、白金エリアは港区内でも格上であるのは、疑う余地もない。
しかしそのエリアと微妙に近くて遠いのが、芝というエリアだ。その微妙な距離感こそ、芝が港区内でのランクを落としている要因かしら、と凛子は思っている。
だから凛子は、彩乃の答えに一瞬戸惑ってしまった。
港区でたまに見受けられる、持ち物と住んでいる家のバランスが悪い女性。
綾乃はまさに、典型的なそれだった。
バーキンを買う前にすることがある?港区内での芝のランクとは
格下の烙印を押される芝エリア
芝エリアとは、駅で言うと芝公園、三田、田町、浜松町界隈である。(厳密に述べると、愛宕、新橋エリアも加わるがそこはまた別エリアだと捉えている。)
東京タワーがあり、緑豊かな芝公園、そして徳川家とゆかりの深い増上寺がある。桜の季節の増上寺は、実に美しい。
そんな芝エリアだが、昨今タワーマンションの建設が相次ぎ人気も出ているらしい。
しかし、浜松町や田町の方まで行くともはやビジネス街で特に用はない。そして同じタワーマンションでも“六本木”にあるのか、“田町”にあるのかで大きく異なる。
「芝エリアって同じ港区でも、華やかさがないのよね。」
美奈子が隣でポツンと呟く。凛子は思わず大きく頷いてしまった。
そのエリアへ行くのは、『東京 芝 とうふ屋うかい』『ワカヌイ グリル ダイニング バー』『三田ばさら』などの店へ行く時くらいだ。
オシャレなオープンテラスがあるわけでもなければ、魅力的な買い物スポットがある訳でもない。つまり、行く用がない。
芝エリアに最後行ったのはいつだっただろうか、と凛子は記憶を辿る。
婚約者・雅樹の後輩が住むラ・トゥール芝公園で開催されたホームパーティーが最後だったかもしれない。
麻布エリアから目と鼻の先に位置する芝。しかしその僅かな距離が、二つのエリアの港区内での立ち位置を大きく隔てている。

タクシー代1,000円が物語る、微妙な距離感
「ねぇ凛子。あの綾乃って子、どう思った?」
帰り際、一緒にタクシーに乗り込んだ途端に美奈子が聞いてきた。きっと美奈子も同じことを思っていたのだろう。
「そうね...今の私だったら、バーキンを買う前に違うことに投資するかも。」
世の中には、バーキンが似合う女性と似合わない女性がいる。
混雑する満員電車に乗る女性がバーキンを持っていれば違和感を覚えるように、たまにバーキンだけ浮いて見えるような、バランスの悪い女性が世間にはいるものだ。
「私もそう思った。芝に住んで家賃浮かすくらいなら、少し無理をしてでも港区の中心部に住みたいなぁ。」
同じ港区でも、芝は(一部を除き)麻布や六本木界隈から家賃は2割落ちる。そのことが、芝のランクを物語っているように感じる。
「やっぱり私はこっちエリアの方が好きだわ。」
六本木の高級レジデンス前で美奈子が先に降りようとした時、彼女の心の声は大きく外に漏れていた。
六本木から芝公園まで、タクシーで約1,000円。
しかしこの1,000円の距離感が、なんとも言えない、目に見えぬ港区内格差を物語っているように思えて仕方なかった。
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六本木ヒルズvsミッドタウン。六本木の男の闘いがいざここに。
