「環境DNA」から分析したツキノワグマの生息域を示すマップ

 冬眠から目覚めた「春グマ」の行動範囲が広がる中、山中の川の水から生息域を調べて被害防止を目指す取り組みが始まっている。水中の微細な遺伝情報を読み取る「環境DNA」を使い、従来の手法に比べ大幅に省力化できる。「フィッシュパス」(福井県坂井市)が開発し、秋田県で漁協と調査を進めている。(共同通信=島田早紀)

 環境DNAは生物の皮膚やふんなどに由来する遺伝情報で、水中や土壌に含まれる。分析すると生息の有無や数を推定できる。同社は龍谷大(京都市)や川での漁業を管理する全国約60漁協とともに、魚類の生息調査をしてきた手法をクマに応用。川で採取した約1リットルの水から、上流約1キロの範囲を分析するキットを開発した。

 同社は漁協と提携し、川で釣りをする人にスマートフォンのアプリで遊漁券を販売している。今後、購入者がクマの生息情報を確認できるサービスも計画する。

 環境省によると、2025年度の人的被害は全国で238人(速報値)と過去最多を更新。被害防止には生息域や個体数の把握が重要だ。

 ただ、従来の目視や痕跡による調査は多くの人手や時間が必要になる。環境DNAは水の採取で広範囲を調べられ、西村成弘社長(50)は「大幅にコストを削減できる」と強調する。従来の手法と組み合わせれば、より正確な生息状況を把握できるという。

 開発のきっかけは、関係者がクマに襲われ、釣り人が減ったという秋田県内の漁協からの相談だった。昨年から共同で県内各地の川でキットを使って生息状況を分析し、地図に落とし込む作業を進めている。米代川水系サクラマス協議会(北秋田市)の湊屋啓二会長(69)は「釣り人の命を守る画期的な取り組みだ」と期待を寄せる。

 現在は分析のために水を福井県内に送る必要があり、到着から3日ほどかかるため、釣り人がその場で分析できる簡易キットの開発も目指す。福岡市からはイノシシ、三重県内の自治体からはシカの調査依頼があり、西村社長は「生態系を一挙に数値化できる力がある。全国のニーズに応えたい」と意気込む。

クマの「環境DNA」を分析する作業=2026年4月、福井県永平寺町(フィッシュパス提供)

取材に応じる「フィッシュパス」の西村成弘社長