ドラマ『時すでにおスシ!?』が描く鮨の世界――“リアルな鮨アカデミー”を支える監修陣が大切にしてきたもの【ドラマTopics】
国内外で鮨文化への関心が高まる中、近年は鮨職人を目指す人や、趣味として鮨を学ぶ人も増えている。実際に、幅広い世代や職業の人々が通う“鮨アカデミー”では、短期間で技術を学ぶ人も少なくない。
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そんな鮨アカデミーを舞台に、永作博美さん演じる主人公が新たな人生を踏み出し、仲間たちとともに成長していく姿を描いているのが、TBS火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』だ。
本作で監修・協力を務める「銀座おのでら」が運営する「GINZA ONODERA 鮨アカデミー」の川澄健先生と、「銀座おのでら」統括総料理長・坂上暁史親方は、俳優たちへの技術指導だけでなく、所作や道具の扱い方まで細かく監修。“リアルな鮨の世界”を支えている。
そんな二人が鮨職人を志したきっかけや、鮨アカデミーで大切にしていること、そして鮨を通して広がる人とのつながりとは――。
「食べたい」から始まった鮨職人の道
坂上親方が鮨職人を目指したきっかけは、意外にも「鮨を食べたい」という憧れからだったという。
「当時はまだ回転寿司もそんなになくて、家でお鮨を食べる機会も少なかったんです。来客の際のお鮨の残りを食べるくらいで。だから、お鮨への憧れがすごく強かったんですよね」
自宅で酢飯を作るほど鮨に興味を持っていた坂上親方は、「お寿司屋さんに入ったら、お鮨が食べられるだろう」と思い、この世界へ入った。
実際に鮨の世界に入ってみると、「休みの前の日は、余ったネタでちらし寿司を作るのですが、『こんなに鮨を食べられるなんて最高』と思っていました。つらい修業と言われますが、僕自身はあまりつらいと感じたことがないんですよ」と回想する。
一方、川澄先生は、中学時代に始めた「釣り」がキャリアの原点だった。
「防波堤釣りから始まって、磯釣りが好きになって、魚も好きになりました。その頃、いとこが東京でお寿司屋さんを開業していて、土日に出前持ちのアルバイトをしていたのがきっかけです」と語る。
「もともとは宮大工になりたかった」とも口にする川澄先生。「前の山の竹を削って武器を作ったりしていたので、今の仕事にもどこか通じているのかもしれないです」と笑う。
「学校は失敗する場所」――鮨アカデミーが大切にしていること
川澄先生は、講師として生徒と接する中で、「失敗できる場所を作ること」を大切にしていると言う。
「学校は失敗できる場所。実際の現場へ行ったら失敗はできないからこそ、『失敗してもいいから』と、とにかく練習してほしいんです」と、その立ち位置を大事にしている。
その一方で、最も重視しているのは衛生面だ。
「うまく作ることよりも、安全に食べてもらえる環境にすることが大切です。特に生ものなので、食中毒や事故を起こしてはいけない。そこは結構うるさく言いますね」と気を引き締める。
技術は数を重ねれば身につくが、衛生面への意識は最初にしっかり教える必要がある――それが、川澄先生の考えだ。こうした“基礎を徹底する姿勢”は、ドラマの監修でも大切にしてきたという。
また、鮨店ごとにやり方やルールが異なるからこそ、「ベースを作ること」が学校の役割だとも考える。
「僕らが教えたことも、お店に入ればそのお店のやり方がある。“郷に入っては郷に従え”なので、そこまでの土台を作って送り出してあげたいなと思っています」
さらに、鮨職人には技術だけでなく、「人との距離感も大切」とも。
「昔、親方さんに『7つ聞いて、2つ教えて、1つ褒める。それがいいバランスだよ』と言われたことがあるんです」と、その教えを振り返る。
話しすぎず、聞き役に回ること。そんなコミュニケーション術も、カウンターに立つ職人に必要な力なのだ。
“3か月で鮨職人”は可能なのか
ドラマでも描かれている、「3か月で鮨を学ぶ」というテーマについて、川澄先生は「個人差がある」と、現場から見た実感を口にする。
「全く包丁を握ったことがない人なのか、調理経験がある人なのかでも変わりますし、どんな鮨店を目指すのかによっても違います」と、その“差”について説明。
鮨業界には、高級店だけでなく、立ち食い寿司、チェーン店、テイクアウト、宅配寿司、仕込み場など、さまざまな働き方がある。
「例えば、調理経験がある人なら、3か月という期間で、お店で鮨を提供できる場合もあります。高級店なら見習い、大衆チェーン店なら裏のスタッフなど、その人の技量によって選択肢はいろいろあります」
現在の鮨業界については、「やる気さえあれば挑戦しやすい時代」だとも語る。
鮨職人は“若くして始める世界”という印象もあるため、「30代や40代になってからだとハードルが高いと思われがちですが、今はそんなことはありません。どこも人手不足なので、やる気があれば、いくらでもできると思います」と、一歩を踏み出せない人たちの背中を押す。
永作さん演じる主人公の待山みなとも、50歳になり飛び込んだ“鮨アカデミー”という新たな場所。「いくつになっても挑戦できる」というメッセージは、ドラマが投げかけるテーマともつながっている。
18歳から82歳まで――鮨アカデミーに集う多様な生徒たち
川澄先生が講師を務める「GINZA ONODERA 鮨アカデミー」には、幅広い世代・職業の人たちが集まってくる。
「下は18歳から、上は82歳まで。本当にいろいろな方がいらっしゃいます」
以前は週5日・3か月のコース制だったが、現在は1コマごとに自分が受講したい授業を選択できるスタイルへ変更。自動車学校のように、自分で授業を組み合わせられる仕組みにしたことで、より多様な人が通うようになったという。
「趣味の人もいますし、商売を目指す人もいる。海外から一時帰国している人も結構いますね。自分で釣った魚をおろしたい人や、鮨パーティーをやりたい人もいます」
医師、看護師、社長、カメラマンなど、職業もさまざま。生徒同士で情報交換をする場にもなっているそうで、「皆さん、話が面白いんですよね」と川澄先生は笑う。
年齢や国、目的や経験も異なる人たちが集まり、それぞれの形で鮨を学んでいることが、教室に独特な空気感を生み出す。それは、ドラマの中で描かれる“鮨アカデミー”の空気感にも、反映されている。
「楽しかった」が一番うれしい――鮨を通して広がる人との出会い
37年にわたり鮨の世界に身を置いてきた坂上親方には、「おいしい」と言われる以上にうれしい言葉があるという。
「『楽しかった』と言われるのが一番うれしいですね」と、その言葉に力をもらっている。
「食べ物自体は残らないですが、『どんな時に、誰と食べたか』という記憶は残るじゃないですか。その中で『楽しかった』と言っていただけるのは、その時間が充実していたということなので」と、その理由を明かし、目を細める。
料理そのものだけでなく、「誰と、どんな時間を過ごしたか」が記憶に残るのが「食の世界」だと、鮨職人としての思いをにじませる。
また、鮨店のカウンターは、人との出会いを通して「自分自身を成長させてくれる場所」でもあるという。
「普段会えないような方々との出会いが日々あるんです。そういう方たちとの会話を通して、人生観を学ばせてもらっている、という感覚があります」と、日々“学び”を続けている。
鮨を通じて人とつながり、その積み重ねが人生を豊かにしていく――。坂上親方は「そういう人とのつながりが、お寿司屋さんならではの魅力なのかなと思います」と、長年カウンターに立ち続けてきた中で感じた鮨の“持ち味”を、穏やかに語る。
鮨を通して生まれる出会いや成長――。川澄先生と坂上親方の言葉からは、技術だけではない“鮨アカデミー”の魅力が見えてきた。その魅力は、ドラマ『時すでにおスシ!?』で描かれる人と人との温かなつながりとも、重なっているようだ。
