「つり具」の看板をドデカく掲げながらも営業実態は「大衆そば屋」…!? 葛飾区金町にある“ナゾのそば屋”が誕生したヒミツを探ってみた
立ち食い・大衆そば屋を始めたきっかけを取材でよく聞くことがある。ぞれぞれの理由がある。
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「介護センターを経営していてやり切ったので好きなそば屋を始めた」(東京都清瀬市の「まるすそば・うどん立ち食いセンター」)
「自分の店のためだけに製麺したそばを使ったそば店を出したくなった」(東急多摩川線矢口渡の「まる美」)
「兄妹で名代富士そばの店長をしていて、家族で店を出したくなった」(板橋区役所前の「蕎麦食堂いけち」)
「外食産業で長年働いてきたので、定年を機に好きなそば屋を始めた」(相鉄線鶴ケ峰の「立ち喰いそば食堂一味」)
「和食のプロだったが、大衆的なそばを提供したい」(平和島の「えび天かき揚げそば にはち」、板橋区役所前の「立ち喰いそば・うどん えんば」)
共通するのは、そばが好きなことである。
JR常磐線金町駅から15分ほど歩いた水戸街道沿い
令和8(2026)年4月22日、JR常磐線金町駅から15分ほど歩いた水戸街道沿いに「ふたば亭」という古風な名前の大衆そば屋がオープンした。この店、「つり具店の中にできたそば屋」として注目されている。いったいどんな理由で開業したのか、訪問して探ってみることにした。

JR常磐線金町駅に降り立つ
JR常磐線、金町駅に5年ぶりに降り立つ。駅南側にあった「そばっ子」がなつかしい。駅南側の再開発地区を抜けて、金町三丁目交差点を右折して水戸街道を都心方向へと進んでいく。金町二丁目交差点、一丁目交差点と進んでいくと、徐々に大きな施設が現れてくる。葛飾新宿郵便局はデカいし、金町消防署もある。トヨタモビリティ東京、いすゞ自動車葛飾支店、それに東日本三菱自動車販売葛飾店、日産東京販売の葛飾金町店と自動車会社が目白押しだ。遠くに東京かつしか赤十字母子医療センターもみえてきた。亀有警察署がもうすぐというところで、大きなマクドナルドがみえてきた。そしてそのとなりに「そばうどん」のノボリが揺れている。
つり具店なのにそばうどんの看板が
「つり具」という大きな看板の下に緑地の布にそばうどんの白い文字がくっきり浮かぶ。ここで間違いない。「ふたば亭」である。
入り口にはランチセットメニュー、土祝限定の大人1人につき就学前のお子様2名まで半玉うどんが無料になる「お子様うどん無料サービス」のポスターが貼られている。
午前11時の開店直後なので先客はまだいなかった。すぐにつり具の販売コーナーがあって、その数メートル奥に「立ち食いそばうどん」のノボリが鎮座している。
「いらっしゃい、さあどうぞ」
奥から店主の直江由光さん(62歳)がにこやかに迎えてくれた。
中央に6人掛けのテーブルが1つ。そのまわりをカウンター立ち席がぐるっと取り囲んでいるレイアウト。明るくゆったりとした、まさにイートインコーナーという雰囲気だ。
一番奥に注文コーナーがあってそこでメニューを吟味して注文し、番号札をもらって待機するという方式である。
あらゆる単品がワンコイン以内…格安すぎる値段設定
メニューをみてみよう。「かけそば」320円、「わかめそば」370円、「たぬきそば」400円、「とろろそば」500円と破格の安さだ。
天ぷら系も豊富なメニュー。「ちくわ天そば」「なす天そば」430円、「舞茸天そば」「春菊天そば」450円、「げそ天そば」「かき揚げ天そば」500円とワンコイン以内。本当にありがたい価格設定だ。そば屋さんの味「カレーライス」500円とこれもお得。さらにお得なランチセットが人気のようだ。
直江店主に人気メニューを聞くと、日によって変わるそうだが「かき揚げ天そば」「げそ天そば」「春菊天そば」などとのこと。さっそくランチメニューの中から、「春菊天そば(普通サイズ)+ミニ麻婆豆腐丼セット」650円を選択した。しかしこの値段設定は格安すぎる。ちょっと心配だ。
厨房は直江店主の実姉さんと姪っ子の3人で切り盛りしている。天ぷらは少数の揚げ立てを提供して足りなくなると追加で揚げる方法のようだ。
直江店主が語る「店を始めた経緯」が少し切ない
完成を待つ間、店を始めた経緯などを直江店主に聞いてみたのだが、随分と深い事情があったようだ。
直江つり具店は創業45年続いている古参人気店。懐かしく珍しいルアーが沢山あったり、ヘラ鮒やタナゴ用品もお手頃な値段で販売していたという。店は1、2階にびっしりとつり具が配置され、3、4階は倉庫として利用していた。
近所の小学校の生徒たちが社会見学でつり具の歴史などの勉強をしに来たり、壁新聞を作ってその学習結果を報告したり。つまり、地域に大いに貢献していたつり具店でもあったようだ。
ところがちょうど1年前、卸問屋が解散となり、つり具店としての営業は時代の流れと共に縮小していくことになった。大量にある在庫を日本各地の同業店にお願いして、廉価で販売処分していったという。悲しい日々が続いていた。
そして在庫がはけてくると、スペースがどんどん空いてくる。ただ空きのままにしておくのはもったいない。そして身内による経営会議を行った結果、「立ち食いそば屋をやろうじゃないか」という結論に達したというわけである。
直江店主はそばも好きだし、実姉さんは料理が得意だった。元々料理が好きで今回お店を始めるにあたって沢山出汁の研究をしたという。
店前には駐車スペースもある。近隣には大企業のオフィスも多く、隣のマクドナルドはいつも混んでいるし、昼食を提供する飲食店は意外と少ない。そんな背景を考慮して、準備期間を経て今年の4月にプレオープンとしてスタートしたというわけである。
節系出汁が十分に香るとてもおいしいつゆと香りがよい春菊天
そうこうしているうちに注文品ができあがった。中央のテーブルに座ってさっそくいただく。「春菊天そば」はきれいに揚げられた春菊天、わかめ、ねぎがのる。
「ミニ麻婆豆腐丼」はミニとは思えないどんぶりに豆腐とひき肉が十分に入った一杯だ。まず「春菊天そば」のつゆをひとくち。鰹節などの節系出汁が十分に香るとてもおいしいつゆである。これにはちょっとびっくりした。沁みわたるうまさである。麺は茹で麺だが太麺でコシがしっかりしていてすごくマッチしている。そして春菊天はホロホロとつゆに崩れていくタイプで香りがよい。とてもレベルの高い一杯になっている。
ミニ麻婆豆腐丼の辛みは少なくあっさりしたタイプで、七味唐辛子をかけるとちょうどいい具合である。
次から次へとお客さんが…
自分が入店してから、次から次へとお客さんが入ってくる。開店から20分で10人が来店した。ジワジワと人気が出てきているのだろう。
一心不乱になってそばを食べていると、誰かが私の肩をトントンとたたいた。なんと、金町界隈に住む友人のU氏。実に10年ぶりの再会である。「ふたば亭」は地元でもおいしくて使い勝手が良い店と評判になっているとか。
今度は「冷したぬきそば」を追加注文。U氏が頼んだのは「げそ天そば」。げそ天はやや小ぶりだが、げそがぎっしりと入っている。かなりうまいとのこと。
「冷したぬきそば」は、赤いうつわで登場した。わかめ、ねぎ、天かすがきれいに配置されている。つゆはやや濃いめでキリッとしたタイプ。
そばは冷しでも十分にうまい。これからの季節にはピッタリな一杯であった。
「ふたば亭」は自分の地元に欲しい居心地の良い店だった
「ふたば亭」は地元で人気だったつり具店の縮小に伴い、空いたスペースを有効活用するべく、そば好きの直江店主が始めた家族経営の大衆そば店だった。
店名はお母さんの名前を拝借したという。ゆったりとした店の雰囲気も含め、ほっと温かさを感じる居心地の良い店だった。
直江店主によると、つり具がもっとはければスペースはさらに広くなるので、今後のビジネス展開をどうするかも含め、まだプレオープン状態だという。ジワジワと人気化して、今度はそばの作り方を近所の小学生が取材に来るような店になって欲しいと願っている。次回は「冷しなす天そば+ミニカレー丼」を食べようと思う。
写真=坂崎仁紀
INFORMATIONアイコン「ふたば亭」
住所 東京都葛飾区新宿4-23-13 直江ビル1階
営業時間 月〜金 6:00〜9:00、11:00〜14:00/土 11:00〜15:00
定休日 日
https://x.com/Futabatei422
(坂崎 仁紀)
