「他人事じゃない」遺された2羽の鳥を救出も…保護団体が見た過酷な環境
ペット(伴侶動物)として身近な存在である鳥類。犬や猫などと同じように、家族として暮らしている人も多い。一方で、やむを得ない事情から手放さざるを得なくなるケースも少なくない。
埼玉県羽生市にある認定NPO法人『TSUBASA』は、飼い鳥を専門とした保護団体だ。「とり村」と名付けられた保護施設には、文鳥やオカメインコなど約103羽(2026年5月15日時点)が暮らし、それぞれのペースで新しい飼い主との出会いを待っている。
鳥たちが施設に来る理由は、生活環境の変化や鳴き声(騒音問題)、多頭飼育崩壊などさまざまだが、近年は飼い主の急病や高齢化によるレスキューが増えているという。
その一例が、これから紹介する「爽」と「蜜」の2羽のセキセイインコだ。2羽の身に起きたことは、犬や猫、そのほかのペットと暮らしている人にとっても、決して他人事ではない。
筆者自身、インコ・オウムと暮らす愛鳥家の1人。TSUBASAが開催する「人・鳥・社会の幸せのために」をテーマに掲げたセミナーにも、たびたび参加している。
そこで幾度となく話題に上がるのが、「もしも」の備えについてだ。
家族や愛鳥たちのために健康であり続けたいと願っていても、いつ何が起こるかはわからない。
「もしも」が起きたとき、鳥たちをどう守るのか。そのために、どんな備えが必要なのか──。
TSUBASAの方から聞いた2羽のエピソードをお届けするとともに、「もしも」の備えについて改めて考えたい。
※犬や猫だけでなく、鳥を含むすべてのペットを捨てることは犯罪です。飼育できなくなったからと外に放つケースを耳にすることがありますが、飼い鳥の多くは野外で生きていくことができません。また、生態系への影響などさまざまな問題にもつながるため、絶対に行わないでください。
※本記事は、認定NPO法人TSUBASAへの取材および提供資料に基づき作成しています。また、表現上「ペット」と記していますが、一般的に伝わりやすい言葉として用いているものであり、動物を軽んじる意図はありません。
名前も年齢も分からない、放し飼いのセキセイインコたち
2023年6月15日。とある市の福祉課からTSUBASAに電話があった。生活保護を受けていた高齢の飼い主(以下Aさん)が亡くなり、自宅に遺されたセキセイインコが2羽いるという。
市の職員(以下Bさん)によると、Aさんは家族と絶縁状態だったようだ。しかし、「自分に何かあったときに」と、誰かに鳥たちの世話を託していた形跡もなかった。
胸を痛めたBさんは、数日ごとAさんの自宅訪問を続けた。「元気でいて」と願いながら、水と餌を交換し続けた。しかし、部屋の明け渡しが迫る……。鳥たちをこのままにしておくわけにはいかなくなった。
TSUBASAでは、引き取りの前に健康診断と感染症検査を受けてもらうことを原則としている。結果に問題がなければ引き取り、治療が必要な場合は、まず自宅で療養してもらう。
だが今回は事情が違った。飼い主はすでに他界している。世話を続けているのは、行政の立場で関わっているBさんだ。これ以上任せきりにはできない。
検討の末、「まずは感染症検査のみ実施し、結果を確認したうえで2羽を引き取ろう」という意見でまとまった。検査までの約1週間は、引き続きAさん宅でBさんが世話を続けることになった。
「引き取ったあとに感染症検査をすれば済む話では?」と思う人もいるかもしれない。しかし、犬や猫と同じように、飼い鳥同士で伝染する感染症がある。それらへの有効なワクチンは、通常無い。多くの飼い鳥たちが暮らすTSUBASAでは、引き取り前の感染症検査が重要なプロセスなのだ。
電話があった翌日の6月16日。感染症検査に必要な検体を採取するため、スタッフはAさん宅へ向かった。
猛烈な暑さが「レスキュー」に変えた
Bさんとともに、Aさん宅へ足を踏み入れた瞬間、部屋の中にこもり、停滞していた重い熱気が一気に押し寄せた。温度計を見ると38度を示している。夏日が続いていたとはいえ、想像をはるかに超える室温。健康な大人でも体調を崩してもおかしくないような過酷な環境だ。
これでは2羽の小さな体は耐えられるはずもなく、1日たりとも留めたくない、と即座に思った。
「今すぐ連れて帰ります」
とり村に残ったスタッフに状況を伝え、受け入れ準備を依頼した。あとは一刻も早く連れて帰るだけ──のはずが、肝心の鳥たちが見当たらない。ケージはあるが、開け放たれたまま。Aさんは2羽を放し飼いにしていたのだ。
何回か世話に来ていたBさんの想像どおり、2羽はサンルームの片隅にいた。水色と黄色のセキセイインコだ。この暑さのなか、よく無事でいてくれた。
スタッフはようやく息をつき、名前も年齢も分からない2羽をケージに入れ、とり村へ連れ帰った。
とり村に来た2羽は、新しい名前を付けてもらった。水色の子は爽(そう)、黄色い子は蜜(みつ)。きれいな羽根の色が、そのまま名前になった。
気がかりだった感染症検査と健康診断は、幸いなことに問題無し。45日間の検疫期間を終えると、ほかの保護鳥たちが暮らす部屋へ移った。
多くの仲間に囲まれながら、ケージの中で遊ぶ楽しさや、豆苗が意外と美味しいことなど、さまざまなことを吸収していく。ずっと2羽で暮らしていた爽と蜜にとって、刺激ある日々だったに違いない。
そして、レスキューから約2年後の2025年8月。2羽一緒に迎えてくれる里親と出会った爽と蜜は、「ずっとのおうち※」で今も仲良く暮らしている。
※ずっとのおうち:保護動物が一時的な預かり先を経て、安心・安全に生涯を過ごす「正式な里親さんの家(終の棲家)」を指す言葉。もうこれ以上移動することなく、二度と手放されないでほしいという願いが込められている。
爽と蜜は「運がよかった」だけなのか
これまでの流れを読めば「爽と蜜は運がよかった。Bさんのおかげで命がつながった」と感じる人もいるだろう。それ自体は間違っていない。運もあったし、Bさんの存在も決定的だった。
ただし、これだけは忘れないでおきたい。市の職員であるBさんの本来の業務は、市民(=人)への対応であり、ペットの世話ではない。仮に爽と蜜のもとに行けていなかったとしても、Bさんを責めることはできない。
ここで、Aさんの話に戻りたい。
Aさんは生前、爽と蜜のことをよくBさんに話していた。天候に合わせて部屋を移動させていることなど、Aさんなりに気を配っている様子が伝わってきたという。
TSUBASAのスタッフは、こう振り返る。
「爽と蜜がいたサンルームには、立派な物干し竿が2本吊り下がっていました。Aさんはおひとりで暮らしていたので、洗濯物もそう多くないはず。きっと2羽のために設置したのでしょう。本来、鳥の放し飼いは望ましくありません。ですが、Aさんなりの愛情はあったと思います。爽も蜜も積極的に手に乗るタイプではなかったですが、極端に人を怖がることもありませんでした」
適切な飼育ができていたとは言いがたい面もあった。しかし、日頃からBさんと良好な関係を築き、鳥たちを大切に思う気持ちが伝わっていたことが、今回の保護につながったのではないだろうか。
TSUBASAのスタッフは、そう願うように話していた。
どんな事情であれ、その影響を受けるのはペットであり、彼らに責任はない。しかし、最初から「手放す未来」を想定してペットを迎える人は殆どいないだろう。
自分が元気なうちから周囲とつながりを持ち、いざというときに頼れる関係をつくっておく。その大切さを、改めて感じさせられる一例だった。
すべてのペットと暮らす人に「自分ごと」として考えて欲しい
今回紹介したのはセキセイインコのケースだったが、どんなペットと暮らす人にとっても他人事ではない。
爽と蜜は、新しい飼い主と出会うまでに2年以上の時間を要した。10年前後の寿命と言われるセキセイインコにとって、年齢が分からないことを不安に感じる里親候補は少なくない。
年齢、病歴、与えられていた食餌や好みなど、基本的な情報が分からないことは、想像以上に大変なことだ。
「もしも」に備えるため、今すぐできること
では、私たちにできることは何だろうか。
比較的取り組みやすいのは、エマージェンシーカード(緊急連絡先カード)やペットの履歴書を用意しておくことだ。
自治体や動物関連の団体が配布(もしくはダウンロードできる様式を公開)しているほか、さまざまなデザインから選べる市販品も含めて、いくつかの入手方法がある。
また、普段のできごとや健康状態を記録するために、ペット専用のSNSアカウントや専用アプリを活用する人も増えている。
TSUBASAのスタッフはこう話す。
「診察券が見つかったおかげで基本情報や食生活が分かり、適切なケアにつながったケースもありました。病院に情報を残すというのは、備えになります。『見た目が元気そうでも健康診断を受けておく』という選択が、当たり前になればと思います。
飼い主さんご自身が『ひとりぼっちにならない』ことも大切です。SNSや地域の交流会など、ご自身が使いやすい方法で、人とのつながりを持ってみませんか。鳥さんとの暮らしで困ったことがあれば、いつでもご相談ください」
まずは自分にできることから。小さなことでもいい。「備えたい」という思いが芽生えたばかりのうちに始めたい。
その「小さな備え」の重みは、わずか35グラムのセキセイインコたちが教えてくれたはずだ。
取材協力:認定NPO法人TSUBASA
〒348-0052
埼玉県羽生市東7-14-8
TEL:048-580-4328(13:00〜17:00)
※電話相談は月・火・木・金の13時〜15時。回線1本のため、30分以内の相談にご協力ください。
※犬や猫だけでなく、鳥を含むすべてのペットを捨てることは犯罪です。飼育できなくなったからと外に放つケースを耳にすることがありますが、飼い鳥の多くは野外で生きていくことができません。また、生態系への影響などさまざまな問題にもつながるため、絶対に行わないでください。
※本記事は、認定NPO法人TSUBASAへの取材および提供資料に基づき作成しています。また、表現上「ペット」と記していますが、一般的に伝わりやすい言葉として用いているものであり、動物を軽んじる意図はありません。
