「月夜行路」まるで“もうひとつの最終回”――残した深い余韻 物語はここからさらに先へ【第5話レビュー】

次回5月13日(水)よる10時 第6話を放送 日本テレビ系水曜ドラマ「月夜行路 ―答えは名作の中に―」(毎週水曜よる10時放送)。
数々の名作ドラマレビュー記事を手掛ける「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平氏は、5月6日(水・振休)放送の第5話をどう見たか?場面写真とともに紹介する。
本作は、家族から蔑ろにされ寂しさを抱える専業主婦の涼子(麻生久美子)が、文学オタクで洞察力に優れたバーのママ・ルナ(波瑠)と出会ったことから始まるロードミステリーだ。
(※以下、第5話のネタバレを含みます)
<まるで“もうひとつの最終回”――第5話が残した深い余韻>
前回のエピソードを、まるで“良いドラマの最終回”のような満足感があったと評したが、今回待っていたのは、その余韻をさらに上回るような、美しくも哀しい“もうひとつの最終回”のような物語だった。満足感と余韻、その両方を深く残す“良回”である。
本作の主人公は当然、ルナと涼子のWヒロインだ。しかし第4話までを振り返ると、物語を強く牽引してきたのは、間違いなく涼子の“元カレ探し”だった。もちろん毎回起こる事件のミステリーを解き明かすという意味では、主導権を握っていたのはルナである。だが、本編における“ドラマ”を背負っていたのは、むしろ涼子だったのではないか。
結婚していながら、かつての恋人に未練を残している…その設定だけを切り取れば、本来はどこか共感しづらい題材だ。しかし本作は、それを“やり残した青春”として描くことで、驚くほど爽やかな物語へと変換していた。そしてその結末が、決して爽やかでは終わらない、苦みを残した悲恋だったこと。さらに、それを本作の核である“文学”によって美しくひも解いたことで、涼子のエピソードは単なる“縦軸”を超え、まるで彼女こそが主人公であるかのような存在感を放っていた。それほどまでに、涼子の物語は“ドラマティック”だったのだ。
だからこそ今回、その構図が大きく反転する。


<伏線は確かにあった―――ルナの“悲恋”という鮮烈な真実>
前回ラスト、ルナが涼子の夫・菊雄(田中直樹)と繋がっていた!?という衝撃的な“引き”。それがまさか、ルナ自身の“悲恋”へと繋がるとは思いもしなかった。しかも冷静に考えれば、その伏線は確かに存在していた。菊雄は編集者であり、ルナは文学に異様なほど精通し、どこか人生を達観したような振る舞いも見せることから、本来であれば、“ルナ=作家ではないか?”という推測に辿り着けてもおかしくない。しかし私たちは、これまでの道中で描かれてきたカラフルな事件や、その奥にある温かな人情、そして何より涼子の“元カレ探し”によって生まれていたドラマに目を奪われていた。だからこそ、ルナのミステリアスを単なる“キャラクター”として受け止めてしまっていたのだ。
その分、今回明かされた真実は鮮烈だった。ルナの抱えていた秘密が、まさか涼子と同じ人物……菊雄へ向けられた想いだったとは。そして、これまでの道中で築き上げてきた友情が深まれば深まるほど、“同じ人を愛している”という事実が残酷な意味を帯びていく。あの展開には驚かされた。


<ルナと涼子それぞれに訪れた“ドラマ”――物語はここから、さらに先へ>
しかも本作が巧みだったのは、その“ルナの悲恋”を、単なるどんでん返しのギミックで終わらせなかったことだ。ルナの想いは、一歩間違えれば“後出しの設定”になりかねない。なぜならこれまで彼女の内面は断片的にしか描かれてこなかったからだ。文学オタクであること、トランスジェンダー女性であること、豪快なお金の使い方、“ダーリン”の存在…。提示されていたのは、そのどれもがルナというキャラクターを形作る断片に過ぎなかった。
だが今回それらの断片が、かつてのルナ、“颯介”の回想によって一つに繋がっていく。私たちはそこで初めて、ルナの人生を追体験することになる。そして気づけば、彼女の感情に深く引き込まれていた。つまり本作は、“情報”ではなく、“構成”によってルナの悲恋を成立させてみせたのだ。
さらに印象的だったのは、ルナが営むバー「マーキームーン(MARQUEE MOON)」という名前に込められた意味である。「誰もが主人公であることを忘れないでほしい」。これまでの流れだけを見れば、本作は涼子を中心に据えた物語にも思えた。しかし第5話によって、その見え方は大きく変わる。ルナにもまた、涼子に負けないほど濃密な人生と感情があった。ルナにもまた、大きな“ドラマティック”があったのだ!
前回と今回で、涼子とルナ、それぞれの“ドラマ”にひとつの区切りが描かれた。だが、それでも物語はまだ続いていく。だから面白い。“同じ人を愛してしまった”二人が、それでも友人として旅を続けていく――その先にどんな物語が待っているのか? ますます楽しみになってきた。


<番組情報>
原作:秋吉理香子『月夜行路』(講談社)
脚本:清水友佳子
音楽:Face 2 fAKE
チーフプロデューサー:道坂忠久
プロデューサー:水嶋陽、小田玲奈、松山雅則
トランスジェンダー表現監修:西原さつき、若林佑真、白川大介
演出:丸谷俊平、明石広人
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
番組公式SNS、ホームページ
・X:@getsuyakouro
・Instagram:@getsuyakouro
・TikTok:@getsuyakouro
・ホームページ:https://www.ntv.co.jp/getsuyakouro/
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<原作情報>
『月夜行路』
四十五歳の誕生日、孤独な主婦の沢辻涼子は家を出た。偶然出会った美しいバーのママ・野宮ルナは、深い文学知識と洞察力を活かした推理で、かつての恋人への涼子の思いを言い当てる。最愛の彼はなぜ涼子のもとを去ったのか?二人が始めた元彼探しの旅先で、明らかになる秘密とは。涙のサプライズエンディング!
発売中 講談社文庫
『月夜行路 Returns』
元彼探しの旅から戻った涼子が再びルナを訪ねたとき、店に届いた古いノートパソコン。誰が、何のために送ってきたのか。涼子は、パソコンを開くパスワード探しを手伝うことに。行く先々で事件に巻き込まれながら、パスワードを試していく二人。願いを込めた仕掛けに挑めるチャンスは、5回。鍵を握るのは、1冊の本。
発売中 講談社
【秋吉理香子 プロフィール】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学大学院にて映画・TV番組制作修士号取得。2008年、第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞し、2009年に『雪の花』でデビュー。主な著作に『月夜行路』『悪女たちのレシピ』『終活中毒』『無人島ロワイヤル』『暗黒女子』などがある。
