ゴールデンウィークに車の渋滞…非産油国が消費規制する中、高市首相は「良い情報」だけを流していないか
ホルムズ海峡危機の影響が深刻化し、先行きの石油不足が懸念される。しかし日本政府は高市早苗首相以下、大丈夫という楽観的な情報を繰り返すばかりだ。本当にそうなのか。
日本では4月の花見、5月のゴールデンウィークで、例年と同じように車の渋滞が起きた。昨年末の暫定税率の廃止、3月から行われたガソリン・軽油の補助金で自動車燃料価格の上昇が抑制されたからだ。誰もが積極的に石油を使う。国民生活に悪影響が出ていないのは良いことだ。
しかし、それが政府による見通しの甘さの結果、無理にその状況が作られているのなら危険だ。世界の非産油国では、エネルギーやガソリン・軽油価格が上昇し、消費規制に踏み出している。対照的な日本の光景だ。
高市首相は4月の国会で「心配しなくていい情報をお伝えできる」と繰り返し、石油問題について、楽観的な情報を並べた。高市首相は自らSNSを使い、この問題の広報を積極的に行う。その姿勢は適切だが、「良い情報」ばかりに飛びついているように見える。実際には状況は流動的で情報は良いものと悪いものが入り混じっている。
資源エネルギー庁によると5月1日時点の推計で、日本では官民合わせて石油の備蓄は211日分あるという。イラン攻撃が始まった2月末には254日分だった。輸入が激減したので、着実に国内の石油量は減っている。
5月初頭の段階で米国とイランは停戦しているが、海運の状況は完全に戻っていない。日本は25年まで石油の9割以上を、ホルムズ海峡を経由して輸入していた。
補助金は適切な対策なのか
日本は資源の乏しい国で、過去にその輸入途絶で亡国の危機に直面した。1941年に日本は米英オランダなどから経済制裁を受けて石油や資源が入らなくなった。戦争で南方資源地帯を確保しようとしたことが開戦の一因だ。一時的に資源を確保できたが、海上交通線を遮断されて敗北した。
1973年と79年に、産油国が石油価格を引き上げ、日本と世界の経済が混乱する二度の石油ショックが起きた。この時の日本は官民一体で真剣に対策を行なった。政府は国民に危機を訴え、省エネ、新エネの技術開発を模索した。さらに独自の中東外交を行って石油の確保を目指し、石油備蓄の体制を強化した。それらの結果が今、役立っている面もある。
ところが今の日本政府の石油政策の中心は補助金だ。2022年1月から、電力、ガス、ガソリン・軽油価格を抑えるため、補助金が出された。一時的なものとされたが、延長が続く。その総額は、24年末までに累計約12兆円になる。
この巨額の補助金が日本と国民生活に役立ったのか検証のないまま、政府は今回の危機で再び補助金を出した。財政は痛み、技術革新もない。官民ともに危機意識がなくなった。
また海上交通線は容易に遮断できることが、今回のホルムズ危機で明らかになった。イランは安価なドローンで攻撃し、被害を恐れて世界の保険会社は保険から手を引いた。日本の海上交通線はぜい弱なままだ。
日本政府の行うべき政策は、原子力など石油以外のエネルギーの活用、省エネ、状況が悪化した場合の石油使用抑制の準備と、海上交通線の安全対策の強化だ。ところが、それらは国民生活に負担を加え、政治的に実行が難しい。そのために目先の楽な補助金の支給に政府は逃げている。
2026年2月の総選挙の勝利と高支持率で、高市首相の政治力が高まっている。首相がこの問題で「波風を立てたくない」という意向を示し、与党の政治家たち、役人、専門家が忖度(そんたく)してその意向になびいてしまったようだ。悪い情報を首相に上げなくなっているのだろうか。
「事実は無視されたからといって、存在をやめたりしない」
「事実は無視されたからといって、存在をやめたりしない」と英国の作家オルダス・ハクスリーは言った。今回の石油の供給問題は、事実が動き続け、未来を完全に予測するのは難しい。
ただし危険な方向に状況が転がった場合の対策を、現政権と日本政府はしっかり準備していない、事実を直視していないように思えてしまう。
私たちができることは、準備が無駄になる可能性を念頭に置きながら、石油やその精製品が遮断されることを想定し、できる対策を自分の仕事、そして身の回りの生活で進めることだ。
高市首相支持の声が強い中で、彼女の行動と真逆の行動は批判を受けるかもしれない。しかし社会の雰囲気につられ、彼女と日本政府の失敗に巻き込まれる必要はない。
文/石井孝明 内外タイムス
