観終わった後、清々しい気持ちになる正統派のジュブナイルSFだ。キャラクターや小道具・大道具のデザインが個性的なので、日本アニメしか知らない人は尻込みをするかもしれないが、お話は「未来からやってきた少年と少女の出会いと別れ」ととてもシンプル。映画『ドラえもん』を楽しんでいる小学校中学年以上なら楽しめる内容なので、親子で鑑賞するのもいいだろう。

【画像】映画『ARCO/アルコ』の場面写真を一気に見る


©2025 Remembers / mountainA / France 3 CINEMA

 本作は2025年のアヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞のクリスタル賞を受賞。世界最大のアニメーション映画祭で、このシンプルなジュブナイルはいかに評価されたのか。

コロナ禍から着想したSF物語

 物語の主な舞台は、気候変動が進んだ2075年の地球。大嵐や山火事など気候変動の影響に対し、人々は必要に応じて建物を透明なドームで覆うという仕組みを導入することで対応している。10歳の少女イリスがある日、授業をサボってスケッチをしていると、空から虹色の光とともに落下してくる謎の物体を目撃する。それは、2932年というはるか未来からやってきた少年アルコだった。イリスはアルコを自宅にかくまい、未来へと帰る手段を一緒に探すことになる。しかしそんなふたりを、3人の怪しげな男たちが付け回していた。

 イリスの両親は仕事で遠方にいて、必要に応じて立体映像で現れる。普段の身の回りの世話は、幼い頃から一緒の家事手伝いロボット・ミッキーが担当している。イリスは、両親に甘えたくても甘えられない孤独な気持ちを抱えている。つまり2075年の世界は、清潔で便利だけれど、人々は自然からも互いの交流からも切り離されて生きていて、イリスはその代表として描かれている。

 こうした世界観について、ウーゴ・ビアンヴニュ監督は企画の段階で、新型コロナウイルス感染症の世界的流行があり、「くだらないSF映画の世界で生きているような気がした」とその発想の源を語っている。映画では、こうした設定は後景に過ぎない。しかし、こうした現実と地続きの感覚が映画の根底にあり、作品に奥行きを与えている点が、本作が評価された理由のひとつだろう。

未来への願いが込められた正統派ジュブナイルSF

 このような現実を描いた上で、ウーゴ・ビアンヴニュ監督は、SF作品がしばしばシニカルであることを問題視している。むしろ「可能性を想像し始めることが、物事を改善する唯一の方法かもしれない」というのだ。そして映画はその姿勢の通り展開していく。

 アルコは自分がやってきた2932年の未来の様子をイリスに語る。そこでは家にドームはもう不要で、家族はともに暮らし、自宅の畑でとれたものを食べて暮らしている。そこは自然と科学が調和したひとつの理想郷だ。

 映画終盤、孤独なイリスは、ロボット・ミッキーから「思い出」をもらう。そしてそれがきっかけとなり、アルコが語った「未来」が本当のことであることを理解し、少し大人になる。その彼女の変化が、より多くの人の幸福な未来へと繋がっていく。

 少年少女の時空を超えた出会いというシンプルな物語の中に、よりよい未来への願いが込められているのが本作なのだ。

ふじつ・りょうた 1968年静岡県生まれ。アニメ評論家。新聞記者、週刊誌編集を経て、2000年よりアニメ関連の原稿を本格的に書き始める。雑誌、パンフレット、WEBなどで執筆を手掛け、ラジオ・TVにも出演。東京工芸大学芸術学部アニメーション学科で教鞭もとる。主な著書に『富野由悠季論』(筑摩書房)。

INTRODUCTION

本年度アカデミー賞長編アニメーション映画賞にノミネートを果たし、アニー賞、ヨーロッパ映画賞、アヌシークリスタル賞ほか名だたる映画賞を席巻する感動の冒険ファンタジー。ナタリー・ポートマンが製作総指揮を務め、CHANELが協賛に名乗りを上げ、気鋭NEONが配給権を獲得。「この10年で最高のアニメーションの映画の一つ」などと絶賛されている。近未来を舞台にどこか懐かしく温かい物語を、鮮やかな色彩のアニメーションで表現したのは、本作が長編アニメーションデビューとなるウーゴ・ビアンヴニュ。

 

STORY

気候変動により荒廃が進んだ2075年の地球。10歳の少女イリスは、ある日、空から虹色の光を放ちながら落ちてくる謎の物体を目撃する。それは、タイムトラベルが可能になった遥か未来(西暦2932年)から不時着した少年、アルコだった。 未来へ帰る手段を失ったアルコと、閉塞感のある現代を生きるイリス。二人はアルコの「虹色のスーツ」に隠された謎を解き、未来への帰還ルート=“虹の道”を探す旅に出る。

 

STAFF & CAST​

監督・脚本:ウーゴ・ビアンヴニュ/製作:フェリックス・ド・ジブリー、ソフィー・マス、ナタリー・ポートマン/アニメーション監督:アダム・シラード/編集:ナタン・ジャカード 音楽:アルノー・トゥロン/2025年/フランス/88分/配給:AMGエンタテインメント ハーク/©2025 Remembers / mountainA / France 3 CINEMA

(藤津 亮太/週刊文春CINEMA)