時が止まってる!?4月、スペシャルイベントのために来日したメリル・ストリープ(76)とアン・ハサウェイ(43)

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 5月1日に日本公開予定の『プラダを着た悪魔2』。4月初旬にはメリル・ストリープとアン・ハサウェイがグローバルプロモーションツアーの2つめの訪問先として日本を訪れた。前作の公開から実に20年ぶりという異例の続編だが、当時のファンはもちろん、リアルタイムで公開時を知らない若い世代にも傑作として名高い。『プラダを着た悪魔』がなぜに愛され続け、なぜ今、改めて続編が制作されたかを語りたい。

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 まず前作の時代背景からひもといていこう。原作は、2003年に刊行されたローレン・ワイズバーガー作のベストセラー小説「プラダを着た悪魔」。2006年に映画化されたものだ。

時が止まってる!?4月、スペシャルイベントのために来日したメリル・ストリープ(76)とアン・ハサウェイ(43)

「プラダ〜」を制作・配給した20世紀フォックス(現在ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下の20世紀スタジオ)は1990年ごろから、毎月のようにコメディジャンルの映画を公開していた。理由は単純。好成績が見込める夏やクリスマスシーズンに公開されるビッグムービーの間をつなぐ、いわば大作不在の時期に、比較的低予算で好成績を弾き出すジャンルだったからだ。『プラダ〜』もその文脈で制作が進んでいた作品のひとつで、予算は3,500万ドル、米国公開は2006年2月の予定だった。

 だが、作品の出来栄え、マーケティング・リサーチなどの結果をみて、公開は独立記念日の連休を迎えた時期である「6月末」に変更された。ライバル作は、アクション超大作『スーパーマン リターンズ』。原作ファンや女性向けのコメディ映画枠ではなく、いわゆる“夏休み映画”として、大きくポジショニングを変えたのだ。

 その結果、公開初週の全米映画ランキングでは『スーパーマン〜』には及ばなかったものの、次ぐ2位の成績で、オープニング成績は約2,753万ドル(約32億円・2006年当時レート)、最終興収は約1億2,474万ドル(約143〜150億円・2006年当時レート)を稼ぎ出した。最終的な世界興収、72の国と地域の合計では約3億2,659万ドル(約380億円・2006年当時レート)となっている。

日本の女性らも虜に!

 一方、日本では本国とは違い、女性をメインターゲットに絞り、ファミリー作品など大作がない11月に公開。本国での大反響を受け、日本でもさらなるヒットが求められたために、まずは10月末に開催された「第19回東京国際映画祭」の招待作品としてプレミア上映し、話題作りを行うという、手堅くターゲットに当てる戦法がとられた。

 PRにあたっては、同作のスタイリングを担当したパトリシア・フィールドが来日招聘された。ドラマ『SATC』で知られるカリスマスタイリストである彼女と、同ドラマのエピソード演出を務めたデヴィッド・フランケルの監督作、またファッション好きなら知らぬ者のいないベストセラー小説が原作……ということで、ほぼすべての女性誌が彼女を取材、もしくは関連イベントに参加していたことを筆者もよく覚えている。

 結果、興収は約17億円を記録した。当時の洋画の大ヒットラインの指標が50億円とされていたので、スマッシュヒット、というレベルではあるが、女性に絞り込んだターゲットでの洋画としてはかなり高い成績を残した。

あの名作にも並ぶ…!

 普通の大ヒットコメディ映画だったら、これで「懐かしの傑作」入りして終わる。が、『プラダ〜』が素晴らしかったのは、ホームエンターテインメントになってからだ。北米で同年12月にリリースされたソフトのセールスは約9,845万ドル。これだけでも特大ヒットといえるが、当時はNetflixがDVD郵送レンタル業者だった、レンタル市場最後の全盛期である。その市場での回転数はセルソフト以上だったと思われる。

 日本でも2007年にDVDがリリースされ、当時のレンタル市場で大人気を博したばかりか、今もなお廉価版DVDが都度ジャケットを変えて発売されるほどである。

 女性主人公、コメディ、実在するハイブランドが多用された衣装などなど、キャッチーな要素がふんだんに盛り込まれていることから、ジェンダーを問わずメディアの映画特集などで必ずタイトルが上がるようになり、やがて色褪せない名作の仲間入りを果たした。女性ターゲットで時代を超えて愛されている洋画は『ローマの休日』と本作くらいではないだろうか。

 その理由は時代を切り取った作品でありながら、時を経ても古臭さを感じさせないことだといえる。

リアルな業界の考察

『プラダ〜』のモデルとなったのは、米Vogue誌編集部とその名物編集長だったアナ・ウィンター氏とされている。今もVogue誌は形を変えながらファッションメディアの権威であり続けているし、アナ・ウィンター氏は米版編集長を退いたものの、より高いポジションであるコンデナスト社CCO兼Vogue誌グローバル編集長に君臨している。

 また、欠かせないキャラクターである“セレブリティ”や“ファッショニスタ”といった当時のファッションリーダーたちは、インフルエンサーに形を変えて健在。ファッション業界と世間一般に対して影響力を与える者は、姿形を変えても根本は変わっていない。

 さらに、ファッション市場のあり方を学べるエピソードを取り入れたのも『プラダ〜』が初めての試みだったといえる。今回の続編プロモーションでも相当数オマージュされた、かの有名な「セルリアンのセーター」のシーンがそれだ。パリをはじめとするファッション・ウィークで披露される「誰も着ないドレス」(劇中セリフママ)が、ゆくゆくはファストファッションの市場にコピーされ巨大なファッション市場を動かしていることを、たった数分のセリフの応酬で語っているのだ。

 ファッション業界の仕組み自体は今もなお変わっていないが、前作が公開された20年前よりもスピード感をもって情報は拡散され、一流ブランドのコレクションからインスパイアされたお手頃価格の商品を一般人の我々が手にするタイミングは早まっている。

こじゃれたビジネス教科書

『プラダ〜』は社会人として仕事をする人全員に向けた「仕事とモチベーション」を学ぶことができる作品ということが、傑作たるゆえんだろう。

 その象徴として、アン・ハサウェイが演じたアンディと彼女のメンターとなるナイジェル(スタンリー・トゥッチ)の1シーンが挙げられる。

 メリル・ストリープ演じるミランダの仕事についていけず、慰めの言葉をかけられたいアンディに対して「ミランダは仕事をしているだけだ。甘ったれるな」とナイジェルは喝を入れ、そこからアンディはミランダのアシスタントとしての仕事がどういうことなのかを理解する。

 部下に対してはパワハラ上等なミランダの仕事の仕方はさておき、たしかに彼女は仕事をしているだけ。審美眼を持った彼女が、世界のファッション業界を牛耳り、彼女にしかできない仕事を全うしている。編集会議のシーンでも「流行なので花柄を」という編集者に対し「花柄? 春の号に? 斬新だこと」とぶった切る(ちなみにモード誌をはじめとするメディアは「今」を切り取るのではなく、次のシーズンの流れを見越した編集をするのが主たる仕事)。

 この仕事に専念してもらうために、アンディを含めたアシスタントを雇っているのだから。しかも、この仕事を一人前にできるようになれば、他のどんなメディアにも転職し成功もできる、という、夢の仕事でもある。その本質も映画で語られているという親切設計。

 パリのラストシーンでミランダのセリフで語られる通り、「周囲が求めていることを理解して動ける人間」が仕事の本質だ。

 犬の散歩や買い物代行などのミランダの私生活のサポートまでやらせるのは人使いが荒すぎで、パワハラになっていると今では断言できる。とはいえ、ファッションメディアに限らず、どんな職種であっても、“人が求めていることを考えて行動する”という姿勢は共通するのではないだろうか。

今見ても最高!の前作

 06年の『プラダ〜』が、時を経ても色褪せないのは、仕事と社会人としてモチベーションをどこに持つか、という普遍性をといた作品だから。

 色褪せた……というか「今、これはないでしょ」というのは、せいぜい登場キャラ全員が持っている携帯電話くらいだ。

 むしろ仕事のあり方や職種が当時よりも多様化した今のほうが、このテーマは映画とは別のところで語られる機会が増えているのではないだろうか。だからこそ、続編となる『プラダを着た悪魔2』が、同じキャスト、同じ役柄で、20年の時を経た舞台設定にしていることに期待が高まっているといえるだろう。

 そんな『プラダを着た悪魔2』は、NY時間20日にワールドプレミアが行われ、5月1日に全世界同時公開を迎える。

 SNSをはじめとするメディアの変容、そしてそれに伴って変わったファッション業界の変化によって、ランウェイ誌、そしてミランダの立ち位置は急変。そこに報道の世界で夢を叶えたアンディが助け舟として帰ってくる。鍵となるのは媒体の広告主であるハイブランドを有するファッション企業だ。そこには、かつてアンディと共に働いたエミリーが……というストーリー。彼らが20年を経て再集結するだけの物語と理由は明確。2020年代にアップデートされた「お仕事映画のマスターピース」となるか、スクリーンで確認していただきたい。

取材・文/よしひろまさみち

デイリー新潮編集部