『風、薫る』見上愛×上坂樹里の主人公は令和ならでは 対照的な2人が探す「This is my life」
NHK連続テレビ小説『風、薫る』が、早くも第4週を迎える。脚本は『広重ぶるう』(NHK総合)、『あなたのことはそれほど』(TBS系)の吉澤智子。看護がまだ職業とされていなかった時代に、トレインドナース(正規に訓練された看護師)となった二人の女性、大関和と鈴木雅をモチーフにした一ノ瀬りんと大家直美を、それぞれ見上愛と上坂樹里が演じている。
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片や、“うさぎ”こと清水卯三郎(坂東彌十郎)に誘われ、娘・環(宮島るか)と共に文明開化真っ只中の東京を凝縮したかのような最先端の店「瑞穂屋」に迷い込んだ「不思議の国のアリス」のようなりん。片や、大山捨松(多部未華子)の口添えで鹿鳴館のメイドとなり、海軍中尉・小日向栄介(藤原季節)と首尾よく恋に落ちた、したたかな「シンデレラ」のような直美。
対照的なようで実はよく似た2人は、女性の人生の「上がり」は「奥様」だと言われていた時代に、その先にある「This is my life」と胸を張って言える自分の人生を探して、日々模索している。恋愛より「自分がこの先どう生きていきたいか」を優先して考える主人公たちの物語は、ある意味、『虎に翼』(2024年度前期)の寅子(伊藤沙莉)に続く、「感情に流されず合理的な結婚観を持つ」令和ならではの朝ドラ主人公と言えるのではないだろうか。
第1話は、「時計の針が急速に回る」ところから始まった。研ナオコのナレーションが1882年(明治15年)当時を解説する中で、至るところに「時計」のモチーフがちらばっている。
例えば、「坂田時計店」の店先で展示されている柱時計。その前に佇む男性は懐中時計を手にしている。その光景は、すぐそばに貼られている「時計無くして開化無し」と書かれた広告絵そのままだ。そんな「浮かれた時代」に対して憤慨する本作の主人公の1人・大家直美の、後ろ姿のみの登場を印象づけると共に、新しい時代の到来を「時計」の流行の変容で物語っている。
このように、本作は変化を通して「明治維新後の人々」を描き出す。奇しくも前作『ばけばけ』(2025年度後期)と同時代スタートである本作は、『ばけばけ』が描いた没落士族の悲哀にも触れつつ、主だって描こうとするのは「新しく何が生まれたか」であり、それによって主人公たちが何を思うかだ。
例えば、「society」の訳語としての「社会」という概念の登場。現代において何気なく使用する言葉が、明治初期に生まれた言葉なのかと驚かされた。
さらにそれは、「誰かが負けた者、弱った者の傍に立ち、手を差し出せる世でなければ寂しい」と語っていた父・信右衛門(北村一輝)の思いを継ぐ言葉としても登場する。りんが卯三郎に放った「この国を、女が、男も、双六の目から外れた人も生きていけるように変えてください」という願いを変換した言葉であり、また「何者でもない変わり者」の青年・島田健次郎(佐野晶哉)との会話の中にも出てくるのだから、今後の彼女たちの人生を物語る上で重要なキーワードとなっていくに違いない。
また、りんが見ている双六が「江戸娘一代双六」から「新双六淑女鑑」に変わることを通して、女性の人生の選択肢が、少なくとも建前上はアップデートされていることを分かりやすく示してもいた。
第1話のりんと妹・安(早坂美海)の双六遊び中の会話が象徴しているように、第3週を終えた現時点の主人公たちの人生設計には、当時の常識である「女の双六の上がりは奥様である」という理論が念頭にある。第12話で「どんな手を使ってでも生きてやろう」とする直美が、そのために「まともな結婚」をすることが私の「This is my life」だと宣言する描写がまさにそうだ。
でも、あくまで「戦略的に」自分の人生に「結婚」を取り入れようとしているということが、本作の主人公たちの面白いところだろう。
何より第1週終盤において、りんが初恋の人・虎太郎(小林虎之介)ではなく、会ったことのない18歳年上の亀吉(三浦貴大)の「奥様になる!」と宣言したのは、偶然出会った18歳年の差婚の大山捨松と夫・巌(髙嶋政宏)の対等な関係に惹かれたからであり、そこに「こうありたい自分」を見たからだろう。
そして第15話で捨松自身が、自身の結婚を「ゴールではなく、その先の“my life”、私の人生を生きるための手段」であると直美に解説して見せることで、当時のりんがぼんやりと心に抱いていた捨松への憧れの内訳が言語化されたのだ。
しかし、2人の主人公・りんと直美の物語は、正反対の女性2人を描いているようで、不思議とリンクしていて面白い。
栃木県那須で、偶然捨松の馬車にぶつかり運命の出会いをするりん。片やチャンスを掴むため、自ら捨松の馬車の前に飛び出す直美。のほほんとしていたら「運命」が勝手に転がり込んでくるタイプのりんに対し、「運命」は自分で作るタイプの直美。そんな対比に見えるが、前述したように第1週の時点でりんは「こうありたい自分」を大山夫婦の関係性の中に見出しており、一筋縄ではいかない。
また、第2週後半の展開も見事な対比だった。インドに旅立つメアリー(アニャ・フロリス)についていこうとするのを「逃げ」だと指摘される直美の姿。一方りんは、「私が魔法で外国へと連れていって差し上げましょうか」という卯三郎の言葉に対し、外国に行くのではなくこの国そのものの構造を変えてくれと返す。この対比は、「士族」という出自に関係なく、卯三郎に見込まれるだけの底知れぬ力をりんが持っていることの証明でもあった。
第4週の予告では、いよいよ「トレインドナース」という言葉が登場した。しっかりと2人の人生が交差したその先には、現代の私たちの人生にも繋がるヒントが隠されているかもしれない。(文=藤原奈緒)
