赤沢経産相も大目玉を食らって…早期利上げを目論む日銀の前に立ちはだかる「高市首相という壁」

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緊迫する中東情勢の影響で、原油価格の高騰が収まらない。「有事のドル買い」が広がり、さらなる円安がインフレを助長する負のスパイラルを危惧する日銀は、政策金利(0・75%)を早期に引き上げたいのが本音だ。

植田和男総裁は、次回会合(4月27―28日)での追加利上げも排除しないタカ派的メッセージを発信し続けてきた。だが、利上げによる景気の低迷を懸念する高市早苗首相には、「為替介入」などで何とかなると思い込んでいるフシがある。

前編記事『「口先介入」だけでは円安は止まらない…日本の「通貨マフィア」が繰り出した「奇策」が空振りだった当然の理由』より続く。

スタグフレーションの悪夢

「原油先物市場に加えて、為替市場においても投機的な動きが強まっているという声が聞かれる。この状況が続けば、そろそろ断固たる措置も必要になる」

円相場が一時、1ドル=1600円台半ばと1年8か月ぶりの安値を付けた3月30日、三村淳財務官は24年7月の就任以降初めて「断固たる措置」という表現を使い、口先介入のボルテージを上げた。

これを受けて、円相場はやや円高方向に振れたが、前述のように為替市場にせよ、原油先物市場にせよ、実弾介入は難しいのが実情だ。

必死の口先介入もいずれは賞味期限が切れる。その上、日銀が追加利上げを先送りすれば、円安進行に歯止めがかからなくなる。際限のない円安が原油高と相まってインフレを煽り、それが消費者や企業の心理を冷え込ませて景気後退に至るスタグフレーションの悪夢が現実味を帯びる。

実際、欧米の中央銀行は、新型コロナウイルス禍が収束した後の経済活動の再開とロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとしたエネルギー価格高騰による物価上昇圧力の強さを見誤った結果、2022年春以降、急激な利上げを余儀なくされた。

スタグフレーションを回避するため、目先の景気を多少犠牲にしてでもまずはインフレを抑え込む必要性に迫られたからだ。

「説得しても埒が明かない」

潜在成長率が高い欧米では、インフレが落ち着くまで高金利政策を講じても経済が何とか持ち堪えられたが、潜在成長率が1%をはるかに下回る日本の場合、日銀が欧米中銀並みの急激な金融引き締めに動けば、企業も国民も耐えられず、経済そのものが瀕死の状態に陥りかねない。

これまでは異次元緩和の後始末としての金融政策の正常化路線にこだわってきた植田日銀だが、足元では利上げが遅れることにより、円安インフレ地獄に嵌ることを何よりも恐れているのだ。

最大の問題は「日銀に対してサナエノミクスへの貢献を求める信念に揺るぎはない」(霞が関筋)という首相の容認をどう取り付けるかだ。「真正面から説得しても埒が明かない」(植田総裁周辺筋)と考えた日銀は、市場に早期の利上げを織り込ませ、外堀を埋める戦略を進めてきた。

日銀が公表した3月の決定会合の「主な意見」では、中東危機による原油高騰下でも「経済環境や賃上げスタンスが大きく崩れる兆しが見られなければ、躊躇なく利上げに進むことが必要だ」とか、「従来に想定よりも利上げを加速させ、金融環境を中立ないし引き締めに持っていく必要性がないかにも注意を払っていくことが適当だ」などとするタカ派の意見がクローズアップされた。

さらに、3月末にかけて経済・物価に関する新指標や論文を相次いで発表。景気を熱しも冷やしもしない中立金利の水準を1・1〜2・5%と推計。中立金利の下限を従来から0・1%切り上げた。現行の政策金利(0・75%)との乖離を強調し、追加利上げの余地が大きいことをアピールする狙いだ。

日銀の描いたシナリオ

教育無償化やガソリン・電気・ガス代補助など、政府の施策による特殊要因を除いた「新たな物価指標」も公表した。総務省の統計では前年同月比1・6%の上昇となり「22年3月以来の2%割れ」と話題になった2月の消費者物価(生鮮食品を除く)について、日銀は特殊要因を除けば2・2%の上昇と説明。日銀の物価安定目標の2%を上回る物価高が続いていることを強調した。

4月1日に公表した3月の全国企業短期経済観測(短観)で企業の景況感の堅調さが確認されたことも重なり、市場では一時、4月の追加利上げを予想する投資家が約7割に達した。

日銀企画局幹部は、そんな市場の後押しも受けて、植田総裁が4月27、28日に開く金融政策決定会合の前の講演などで「予告」メッセージを発し、円滑な追加利上げにつなげるシナリオを描いていた。

実際、昨年12月の前回利上げに際しては、植田総裁が事前に「(次の会合で)利上げの是非について適正に判断したい」と政策変更を示唆していた。

日銀としてはまず原油高の悪影響が広がる前の4月会合で政策金利を1%まで引き上げて円安進行に歯止めをかけた上で、その後は中東情勢の影響を慎重に見極めながら、金融政策運営の方向性を探る腹づもりだったと見られる。

だが、衆院選で大勝し「無双」状態にある首相の壁は想像以上に厚かった。

赤沢大臣も大目玉

象徴的なのが、赤沢亮正経済産業相が4月12日のNHKの番組で追加利上げに理解を示す発言をした途端、高市首相と片山さつき財務相から猛烈な大目玉を食らった一件だろう。

赤沢氏は中東情勢悪化に伴う円安・物価高対策としての日銀の金融政策は「一つの選択肢」と語り、市場では一時「高市政権が利上げ容認に転じた」との見方も台頭した。

しかし、首相の逆鱗に触れたのが実態だったようで、赤沢氏は翌日の経済財政諮問会議の場で高市、片山両氏から「金融政策の担当でもない経産相は発言を控えるべきだ」と厳しくクギを差されたという。

片山氏は、赤沢氏に恥をかかせることも承知で、このやり取りを閣議後の記者会見で暴露。高市政権として早期の利上げを容認しない姿勢を印象付けた。

米国とイランの停戦協議が難航しホルムズ海峡の封鎖が続いていることも手伝って、投資家の4月利上げ予想は15日時点で30%台まで低下。日銀がせっかく市場に織り込ませてきた利上げシナリオは大きく後退した。

首相の壁を破る見通しが立たない日銀は、4月の会合で金融政策の現状維持を余儀なくされる場合でも、原油高を反映して物価見通しを大幅に引き上げることで、早期の利上げを探る構えは崩さない方針だ。

だが、それで為替市場が納得するか。トランプ米大統領と対立してでも金融政策の独立性を貫く米連邦準備理事会(FRB)の姿とは対照的に、政治にからっきし弱い日銀の姿そのものが円安を加速させかねない危うい状況だ。

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