「お金はもういらないから…」〈年金6万円〉70歳母が仕送りを拒否。心配した43歳息子が久々の帰省で見た「信じられない光景」
高齢の親を支えるため、子どもが仕送りをする――そうした関係は珍しくありません。一方で、親の側が「もう送らなくていい」と支援を断るケースもあります。経済的な問題だけでなく、気遣いや遠慮、あるいは別の事情が背景にあることも少なくありません。見た目には落ち着いている生活の裏側で、親が何を抱えているのかは、離れて暮らしていると見えにくいものです。
「もう送らなくていい」…母の言葉に違和感
都内で会社員として働く謙介さん(仮名・43歳)は、地方で一人暮らしをする母・春子さん(仮名・70歳)に、毎月5万円の仕送りを続けてきました。
「父が亡くなってから、母の収入は年金だけになりました。金額は月6万円くらいで、とてもそれだけでは生活できないと思っていたので」
春子さんは持ち家で家賃はかかりませんが、光熱費や食費、医療費などの負担は避けられません。謙介さんにとって、仕送りは「当然のこと」でした。
「母も最初は遠慮していましたが、“助かるよ”と言って受け取ってくれていました」
しかし、ある月を境に、様子が変わります。
「突然、“もう送らなくていいから”と言われたんです」
電話越しの母は、いつも通り穏やかな口調でした。
「大丈夫だから。自分で何とかするから」
その言葉に、謙介さんは違和感を覚えたといいます。
「母は、何かと我慢してしまうタイプなので…」
理由を尋ねても、「心配しなくていい」の一点張り。仕送りを止めること自体は経済的に助かる面もありましたが、納得できないまま数ヵ月が過ぎました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、高齢単身無職世帯の可処分所得は月約11.8万円、消費支出は月約14.8万円で、年金だけでは赤字になる傾向があります。年金月6万円という状況で、外部からの支援を断るのは、一般的に見ても無理のある選択です。
「どう考えても生活できるはずがない。何か隠しているんじゃないかと思いました」
不安が募り、久しぶりに帰省することを決めた謙介さん。実家に着くと、まず玄関先で違和感を覚えました。
「郵便受けにチラシが溜まっていたんです。前はそんなことなかったのに」
家の中に入ると、さらに言葉を失いました。
「大丈夫」は本当だったのか…帰省して目にした現実
冷蔵庫の中はほとんど空で、入っていたのは賞味期限間近の豆腐と、数本のペットボトルの水だけ。食器棚には同じ種類のカップ麺が積み重なっていました。
リビングにはエアコンがあるにもかかわらず、電源は入っていませんでした。話を聞くと、電気代を気にして極力使わないようにしているといいます。
「“夏でも扇風機で大丈夫だから”と。でも、その日はかなり暑くて…」
さらに驚いたのは、通院の頻度が減っていたことでした。
「“最近は行ってない”と言われて。理由を聞いたら、“お金がもったいないから”って」
謙介さんは、その場でようやく気づきました。
「母は、“お金はいらない”わけじゃなくて、“もうこれ以上迷惑をかけたくない”と思っていたんだと」
高齢単身世帯の中には、経済的理由から医療機関の受診を控えるケースもあります。生活の制約が、健康面にも影響を及ぼす現実があります。
「仕送りを断ったのも、私に負担をかけたくなかったからなんでしょう。でもその結果、生活の質がここまで落ちてしまっていた」
その夜、謙介さんは母と向き合って話をしました。
「“遠慮しないでほしい”と伝えました。お金の問題だけじゃなくて、ちゃんと生活してほしいと」
春子さんはしばらく黙っていましたが、やがて小さくこう言ったといいます。
「自分のことは自分で何とかしないと、って思ってしまったの」
親にとって、子どもに頼ることは簡単ではありません。とくにこれまで家族を支えてきた立場であればなおさらです。
その後、謙介さんは仕送りを再開するだけでなく、定期的に帰省する頻度を増やしました。また地域包括支援センターに相談し、見守りや生活支援サービスの情報も集めたといいます。
「お金を渡すだけでは足りないんだと分かりました。生活の中身まで見ないと、本当の意味で支えていることにはならないんですね」
「お金はもういらない」という言葉の裏にあったのは、単なる遠慮ではなく、親としての意地と不安でした。離れて暮らす家族にとって、そのサインを見逃さないことの難しさと大切さが、あらためて問われています。
