「緑の回廊」。中央はオーギュスト・ロダン《アダム》1880年 京都市美術館蔵

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「最後の盗みに出て留守中の、大どろぼうの屋敷に忍び込む」というユニークな設定の体験型展覧会「大どろぼうの家」が京都市京セラ美術館(京都市左京区)で開かれている。物語に入り込むような新感覚の展覧会で、昭和の懐かしいアイテムから世界的な美術作品、あっと驚く意外なものまで、興味深い品々が謎解きを促すように鎮座する。6月14日(日)まで。

京都市京セラ美術館(京都市左京区)

 会場は回廊や応接室、隠し部屋など8つの空間で構成。それぞれ趣向の異なる部屋には、歴代のどろぼうの肖像画や変装道具、美術品や書物など、謎めいたコレクションが並ぶ。来場者は展示品を手がかりに「この家の主は誰か」を推理しながら進む仕掛けで、まるで物語の登場人物になったかのような体験が楽しめる。

 最初の部屋「緑の回廊」中央には同美術館がリニューアルした2020年春以来、“消えていた”世界的な彫刻作品、オーギュスト・ロダンの「アダム」(1880年、同館蔵)が誇らしげに飾られている。同展は巡回展だが、「アダム」の展示は京都のみ。改装前の同美術館玄関にあった逸品だ。作品を取り囲むように戦後の迷宮入り事件「三億円事件」や映画の本編上演前でおなじみの啓発CM「NO MORE映画泥棒」をモチーフにした絵画が並ぶ。小さい子ども向けに低い位置に掛けられているのが心憎い。

「緑の回廊」。中央はオーギュスト・ロダン《アダム》1880年 京都市美術館蔵

 続く「青の応接室」「赤の隠し部屋」には窃盗に関する専門書や道具類など、泥棒をテーマにした絵本や書籍、映画作品などをディスプレー。本を手に取って読書できる椅子もあり、居心地の良い空間となっている。

「青の応接間」
「赤の隠し部屋」

 大どろぼうが、実は詩人の谷川俊太郎さんのファンであることが分かるのは「銀の庭前室」と「銀の庭」だ。「銀の庭前室」には谷川さん直筆の詩のノートや愛用していた楽器「カリンバ」が大切そうに飾られている。そして「銀の庭」には、代表作の一節が記された円筒状のオブジェが点在、本人が朗読する音声も流れ、空間全体が谷川ワールドそのものに。

「銀の庭」

 後半の「白の部屋」には、さくらもももこさん、酒井駒子さんら有名作家の原画に加え、ピカソやルノワール作品もさりげなく陳列されている。さらに大どろぼうは、人気絵本作家ヨシタケシンスケさんに「泥棒を育てる絵本」として新作「まだ大どろぼうになっていないあなたへ」をつくらせた。「トリコロールの廊下」には同作の原画が並ぶほか、どろぼうに扮装して撮影できるスポットも登場。

「トリコロールの廊下」には、ヨシタケシンスケさんの絵本の原画が並ぶ (c)ヨシタケシンスケ
ヨシタケシンスケさんの新作「どろぼうを育てる絵本」(c)ヨシタケシンスケ

 大どろぼうはたぶん若くない。そう思わせるのは、最後の部屋「光の蔵」だ。カセットテープやアナログゲーム、観光地のペナント、レトロな足拭きマットなど、昭和世代がピンとくるさまざまなアイテムがケースの中でひしめき合う。京都市内にある別の美術館の、採用されなかった告知ポスターもあり、大どろぼうの趣味も見て取れる。そして展示を見終わった後、世の中での価値とは別に、自分の心に残ったものが最高の「お宝」であることに気付かされる。

「光の蔵」。レトロなグッズがずらり

 展示を担当した陳鶯学芸員は「本展は単純なエンターテイメント企画ではなく、あまり公開されていない美術コレクションを見てもらえる貴重な機会でもある。子どもも大人も美術ファンも楽しめる幅広いラインアップとなっているので、それぞれの作品の中に宿るテーマを自由に解釈し、想像力を存分にふくらませて味わってほしい」と話した。