「自社株買い10兆円超」と「M&A33兆円」でさらに高まる日本株の“希少性”…上がり続ける相場の〈構造的トレンド〉【チーフ・ストラテジストが「新TOPIX」を解説】
昨年末、日本のM&A市場が金額・件数ともに過去最高を記録したと報じられました。さらに年間10兆円を超える「自社株買い」により、市場から株券が消え続けています。このような産業の集約化と企業数の減少が、株の“希少性”を高め、企業価値を押し上げる構造的トレンドだと著者は指摘します。広木隆氏の著書『株はずっと上がるもの 誰も書けなかった株式投資の真実』(日経BP)から一部編集・抜粋して解説します。
M&A「過去最高の33兆円」…日本企業に起きている“変革のダイナミズム”
これからの日本は産業内で企業の再編・集約が進み、取引所に上場する企業の数も減っていくでしょう。それはすなわち、企業の価値が高まる方向に向かうということにほかなりません。
2025年の年末に日本企業のM&Aが過去最高になったというニュースが報じられました。日本企業が関わるM&Aは33兆円と、通年で最高だった18年の29兆円を7年ぶりに上回ったといいます。
日本企業のM&Aは3つのパターンに分類できます。1つ目は海外への成長投資、2つ目はトヨタ自動車グループによる豊田自動織機の買収などに代表されるグループ再編です。3つ目はファンドによる上場企業の非公開化です。
こうしたM&Aの動きも日本の産業の集約化、企業数の減少と1社当たりの規模の拡大につながる流れです。
「日本企業の自社株買い」がもたらす企業価値の向上
海外投資家は長らく日本株の取引主体としてダントツのメジャープレーヤーでした。彼らの動向が日本株の方向性を左右するほどの影響力を持ってきました。
その構図に根本的な変化はないのですが、近年の相場で日本株を一番多く買っているのは事業法人、すなわち企業の自社株買いです。
[図表1]自主株買い取得設定額(普通株取締役会決議ベース) (注)取得枠の設定ベース
日銀統計では、上場企業の株式発行額から自社株買い額を引いた値は日本では長らく株式の発行が上回る基調でしたが、2019年以降は一転して大幅なマイナスが定着しています。2024年にはマイナス12兆円でした。
自社株買いは2025年には10月末時点で14兆9,866億円となり年間で過去最高を更新しましたので、このマイナス幅はさらに拡大しているでしょう。つまり日本市場では年間10兆円を超える規模の株券が毎年、市場から消えているのです。
[図表2]発行額と自社株買いの差額 出典:日銀、金融除く
あり余っているものに価値はなく、希少なものは価値が高いので価格が上がるのが道理です。
その伝で言えば、日本の上場企業は、再編等で会社の数が減り、自社株買いで株数も減っていくわけです。これはEPSやROE向上につながり、企業価値が向上する構造的なトレンドだと言えます。
日本株市場をより正確に映す「新TOPIX」
「数」が減って希少性が高まるという意味ではTOPIXの変更も、今後の重要なイベントになります。
新TOPIXは2026年8月最終営業日を基準日として2026年10月最終営業日から導入される予定です。市場における絶対的な企業数や株数が減るわけではありませんが、TOPIXという日本株を代表する機関投資家のベンチマークから、その構成銘柄としてふさわしくない企業が退出を迫られるという意味では、これまで見てきた流れと同じ文脈に位置付けられます。
TOPIXの中身は2022年の市場区分再編を機に、大きく作り直されました。このため市場関係者の間では、従来のTOPIXと区別する意味で「新TOPIX」と呼ばれることが一般的になっています。
新TOPIXの最大の特徴は、実際に市場で売買されている株式価値をより正確に反映する指数へと進化した点にあります。
従来のTOPIXは、東証一部に上場している銘柄を原則としてすべて採用する仕組みでした。そのため、親会社や創業家、取引先などによる固定保有株が多く、実際にはほとんど売買されない企業でも、指数の中で大きな存在感を持っていたことに加えて、流動性や資本効率に課題がある企業も指数に含まれ続け、市場全体の実態を歪めていました。とりわけ海外投資家からは、「TOPIXは投資対象として重く、効率が悪い指数だ」という厳しい評価が聞かれていました。
こうした課題を踏まえ、新TOPIXでは指数設計が見直されました。まず、浮動株比率(フリー・フロート)をより厳格に反映する仕組みが導入されました。政府や親会社、創業家などが長期保有する株式は、指数の計算上、実質的に除外されます。これにより、投資家が実際に売買できる株式価値が、指数により忠実に反映されるようになりました。
また、流動性や市場での存在感が乏しい企業については、段階的に指数ウエイトを引き下げ、将来的には除外される仕組みが整えられています。
もっとも、この移行は一気に行われるわけではありません。指数連動ファンドなどへの影響を抑えるため、数年かけて徐々に調整が進められていきます。
新TOPIXとは、日本株市場の実態をより正確に映し出すために再設計された指数です。上場企業の数を機械的に集めた指標から、実際に投資可能な市場の集合体へと進化したと言えます。
この指数改革は、日本株市場の構造変化を象徴する出来事であり、今後の日本株のリターンや企業行動を考えるうえで、非常に重要な要件です。
広木 隆
マネックス証券株式会社
チーフ・ストラテジスト
