(※写真はイメージです/PIXTA)

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子ども家庭庁「ひとり親家庭等の支援について(令和7年)」によると、ひとり親世帯の母親の平均年間就労収入は236万円でした。こうしたなか、特に子が小さい場合など、離婚後に親を頼るケースも少なくありません。ただし、場合によっては「親子共倒れ」の危機に瀕することも……。36歳シングルマザーと60代両親の事例をもとに、離婚前後の経済的備えと、支援制度の活用ポイントをみていきましょう。

“出戻り娘”に頭を抱える60代夫婦

マミさん(仮名・36歳)は半年前に離婚し、4歳の息子リオちゃん(仮名)を連れて実家に戻りました。以来、両親と4人で暮らしています。

当初は親子二人の生活を立て直すための一時的な同居のつもりでしたが、つい実家の居心地のよさにあぐらをかいてしまい、気がつけば半年が経ってしまっています。

父・ワタルさん(仮名・66歳)は1年前に定年を迎え、現在無職。夫婦の収入源は自身の年金月17万円と、妻(63才)のパート収入9万円(計26万円)です。

マミさん親子が戻ってくるまではこの収入で十分生活ができていましたが、同居後は食費や雑費がかさみ、毎月4万円の赤字が出ています。

また、負担は金銭面だけではありません。マミさんは家事のほとんどを母親に任せ、リオちゃんの遊び相手まで両親に頼ることが日常茶飯事でした。

いくらかわいい孫とはいえ、毎日の世話となると体力的にもきついのが本音。お客様扱いもそろそろ限界だなと思いながらも、「離婚の傷が癒えるまでは仕方がないか」と、マミさんに強く言えないままズルズルと過ごしていました。

このままだと共倒れだ…ついに堪忍袋の緒が切れた父

ある日、夫婦がリオちゃんを連れて公園へ遊びに行ったときのこと。途中で雨が降り出し急いで帰宅すると、リビングで一人くつろぐマミさんの姿が目に入り、温厚なワタルさんも怒りを抑えることができませんでした。

「いい加減にしろ! 洗濯物くらい取り込めないのか!」「お前は毎日なにもしないで、いったいこれからどうするつもりなんだ!」

マミさんは初めて聞いた父の怒鳴り声に驚き、思わず号泣してしまったそうです。

そんなマミさんに向けて、ワタルさんはこう続けます。

「このままだと、父さんたちもお前たち親子も共倒れになるぞ。いつまでも甘えていないで、生活の基盤を作る努力をしなさい」

父が娘に突きつけた“現実”

その日の夜、冷静さを取り戻したワタルさんはマミさんを呼び出し、こう言いました。

「昼は突然怒鳴ってすまん。でもな、少しだけこれからのことを冷静に考えてほしいんだ」

そして家計の現状を淡々と話しはじめます。

・同居をはじめてから、毎月4万円前後の赤字が続いていること

・赤字分は老後資金を取り崩して補填しているため、このままでは自分たちの生活が危ういこと

「不安になって、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談したんだ。そうしたら、『収入が増えずにいまの支出が続くと、最短で15年後には資産が尽きる可能性がある』と言われた」

「それにこの先、リオの教育費も必要になるだろう。家を出て行けとは言わないが、なるべく早く経済的に自立してもらわないと心配だよ」

マミさんは、うつむいたまま父の言葉を黙って受け止めました。これまで目を背けてきた現実を、ようやく自分ごととして痛感したようです。

「自立支援制度」を活用

後日、ワタルさん夫婦はマミさんを連れて、改めてFPのもとへ相談に訪れます。

そこで、シングルマザーには「母子家庭就業・自立支援センター」で職業訓練を受けて資格を取得できる制度や、自治体によってはひとり親家庭の在宅就業推進事業で在宅ワークを支援してくれる仕組みもあると知りました。

人と接することは嫌いではないマミさんは、早速「自立支援教育訓練給付金」を活用して、「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級相当)」の資格を取ることに。

両親には、「資格が取れるまで実家に住まわせてほしい」とお願いし、ワタルさん夫婦も「そういうことなら」と快諾。娘の自立を応援することにしたそうです。

実家を出て「再スタート」を切ったマミさん

そして約3ヵ月後、マミさんは無事に介護職員初任者研修を修了しました。自立支援教育訓練給付金を利用したことで、対象講座の受講料の6割(上限20万円)が支給され、安心して勉強に集中できたそうです。

マミさんが介護業界を選んだ理由は、慢性的な人手不足で就職先に困らないと考えたことに加え、「一人っ子である自分が将来両親の介護に直面しても、慌てず対応できるように」という思いもあったからだと教えてくれました。

「あのとき父に怒られなかったら、まだ両親に依存したままだったかもしれません。迷惑と心配をかけた分、これからは親孝行したいと思っています」

いまではワタルさんの叱責に、心から感謝しているそうです。

シングルマザーの平均収入は236万円…困窮を防ぐには?

離婚後、とくに小さい子がいる場合は実家に頼らざるを得ないと考える人も多いでしょう。しかし、親を過度に頼りすぎた結果、双方が疲弊し、親子関係が悪化してしまう悲しい事例も少なくありません。

本来であれば、離婚前に仕事を含めた収入源の確保や、子どもの養育環境を整えておくのが理想ですが、現実には難しい場合もあります。

実際、子ども家庭庁「ひとり親家庭等の支援について(令和7年)」によると、ひとり親世帯の母親の平均年間就労収入は236万円でした。子育てと仕事の両立は容易ではなく、母子家庭の母親の就業率は86%ですが、そのうち正社員は5割弱、4割弱はパートやアルバイトとのこと。労働時間の短さが収入の低さにつながっているようです。

また同調査では、離婚時に養育費の取り決めをした母子家庭は半数に満たず、また取り決めをしても約4割が実際には受け取れていないという結果が出ています。

そこで知っておいてほしいのが、児童扶養手当や医療費助成、教育支援などの離婚後に子どもが受けられる公的支援です。公的支援をしっかり活用することはもちろん、養育費についても専門家を交えてきちんと取り決めをしておきましょう。

なお、2026年4月1日付で養育費に関する法律が改正されます。これまでは「養育費の額の取り決め」がなければ請求できませんでしたが、改正後は取り決めがなくても一定額の「法定養育費」を請求できるようになるようです。

母子のよりよい未来を描くためには、支援制度を知り、活用することが欠かせません。わからないことがあれば、行政や専門家に積極的に相談し、情報を集めるようにしましょう。

山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表