カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のDavid Jewittさんは、木星族彗星の一つである「41P/Tuttle-Giacobini-Kresák(タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星、以下41P)」において、観測史上初となる彗星の自転の反転を確認したとする研究成果を発表しました。


ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が2017年に取得したまま未解析になっていたデータを分析したところ、41Pの自転速度が急激に遅くなった末に、逆方向へ回転し始めていたことが明らかになったというのです。Jewittさんの研究成果をまとめた論文は学術誌「The Astronomical Journal」に掲載されています。


【▲ ガスを噴出する彗星「41P/Tuttle-Giacobini-Kresák(タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星)」の想像図(Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Ralf Crawford (STScI))】

噴出したガスによる自転速度の大幅な低下

41Pは、約5.4年の周期で太陽の周りを公転する彗星です。


2017年初頭に太陽に接近した際、NASA(アメリカ航空宇宙局)の天文衛星「Neil Gehrels Swift(ニール・ゲーレルス・スウィフト、以下Swift)」などの観測データをもとに、41Pの自転速度が大幅に遅くなっていることが発見されていました。2017年3月時点では約20時間だった自転周期が、わずか60日後には46時間から60時間へと長くなっていたのです。


この急激な速度低下の原因は、彗星の表面から噴き出すガスや塵(ダスト)だと考えられています。彗星が太陽に近づくと、熱によって表面の氷が昇華して、宇宙空間に向けて物質が噴出します。この現象があたかもスラスターのように働いたことで、彗星の自転にブレーキをかけて減速させる方向の回転力(トルク)を生み出したとみられています。


ハッブル宇宙望遠鏡のデータをもとに自転が反転したと推測

今回の発見は、ハッブル宇宙望遠鏡が過去に取得したままになっていたデータからもたらされました。


NASAによると、Jewittさんが公開されているハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータを閲覧していたところ、2017年12月に取得された41Pのデータが未解析のまま残されていることに気づいたといいます。このデータを分析したところ、ハッブル宇宙望遠鏡による観測の時点で41Pの自転周期は約14.4時間(0.60日)まで短くなっていたことがわかりました。


遅くなっていた41Pの自転速度が再び速くなった理由について、Jewittさんは、ガスの噴出によるブレーキが掛かり続けて自転がほぼ完全に停止した後も同じ力が加わり続けたことで反対方向への回転が始まった、つまり自転方向が反転したと推測しています。


Jewittさんはこのプロセスを「回転しているメリーゴーランドを逆方向から押し続けて止めて、そのまま逆回転させるのと同じ」と表現しています。


小さな彗星核は今後崩壊する可能性も

このような劇的な変化が起きた背景には、41Pの本体である核(彗星核)の小ささがあります。


41Pの核の有効半径は約500メートルと彗星の中でも小さく、したがって核の質量も小さいため、ガスの噴出によるトルクの影響を極めて受けやすい性質を持っています。この強力なトルクが今後も働いて自転が加速され続ければ、41Pの核は遠心力によって崩壊(自己崩壊)する限界に達してしまうことが推定されるといいます。


Jewittさんによると、41Pが現在の軌道を力学的に維持できる期間(約1万年)に対して、自転速度の上昇によって彗星核が崩壊に至るまでの物理的な寿命は数十年単位と短いことから、現在の41Pはたまたま活動的な時期を迎えているか、あるいはもっと大きかった彗星が物質を失った後の残骸のような天体である可能性が示唆されています。


次回の太陽接近に向けた観測に期待

天文学者たちは、この小さな彗星が辿る運命に注目しています。


論文によれば、41Pが次に太陽へ最も近づく(近日点通過)日は、2028年2月16日と予測されています。この時の地球からの観測条件は、大接近となった2017年ほど良好ではないと予想されていますが、Jewittさんは、彗星核の自転状態の理解をさらに深める上で、41Pの新たな観測は大きな価値をもたらすと期待を寄せています。


人間のタイムスケールで劇的な変化を見せる41Pから、今後も目が離せません。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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