“続編は配信で”施策はアリかナシか? 『ゴールデンカムイ』『教場』などから紐解く
映画・ドラマの続きを配信(有料プラットフォーム)へ引き継ぐ展開が、最近ではすっかりお馴染みになってきた。
参考:『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』にみる、メディアミックスとしての挑戦と課題
2024年『ゴールデンカムイ』劇場公開2024年『ゴールデンカムイ-北海道刺青囚人争奪編-』配信(WOWOW)2026年『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』劇場公開
2020年『教場』放送(フジテレビ系)2021年『教場II』放送(フジテレビ系)2021年『風間公親-教場0-』放送(フジテレビ系)2026年『教場 Reunion』配信(Netflix)2026年『教場 Requiem』劇場公開
2021年『君と世界が終わる日に Season1』放送(日本テレビ系)2021年『君と世界が終わる日に Season2』配信(Hulu)2022年『君と世界が終わる日に Season3』配信(Hulu)2023年『君と世界が終わる日に Season4』配信(Hulu)2024年『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』劇場公開
2023年『沈黙の艦隊』劇場公開2024年『沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』配信(Prime Video)2025年『沈黙の艦隊 北極海大海戦』劇場公開
2026年『東京P.D. 警視庁広報2係 Season1』放送(フジテレビ系)2026年『東京P.D. 警視庁広報2係 Season2』配信(FOD)
2026年『パンチドランク・ウーマン -脱獄まであと××日- Season1』(日本テレビ系)2026年『パンチドランク・ウーマン -脱獄まであと××日- Season2』(Hulu)
ビジネスの視点で見ると、この流れは避けて通れない必然的な戦略と言える。この稿では、激変する業界の裏側を読み解いてみたい。
かつての映像業界で必勝パターンとされていたのは、1990年代後半から2000年代にかけて隆盛を極めた「テレビ局主導」のモデルだ。地上波ドラマで火をつけ、高まった熱狂をそのまま映画館の動員へとつなげる。この流れこそが、ヒットを生む王道だった。
■『踊る大捜査線』『HERO』が築いた巨大ビジネスモデル その代表例は、やはり『踊る大捜査線』(1997年)だろう。初の劇場公開作品となった『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)は興行収入101億円を叩き出し、第2作の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)では173.5億円という、実写邦画史に残る金字塔を打ち立てた。
この成功に続けと、各局が同じ手法を取り入れ始める。平均視聴率34.3%を記録した『HERO』(2001年)は、映画版『HERO』(2007年)で81.5億円を記録。人気ドラマ『ごくせん』(2002年)も、映画『ごくせん THE MOVIE』(2009年)で34.8億円。テレビで広くファンを集めて映画へ導き、DVDでさらに稼ぐ。そんな盤石な収益構造が、当時は完成されていた。
ところが、スマホの普及や動画配信サービスの浸透によって、業界の潮目は大きく変わることになる。楽しみ方が多様化したことで、地上波だけではヒットを作るのは難しくなり、頼みの綱だったDVD市場もしぼんでしまった。日本映像ソフト協会の統計によれば、DVDやブルーレイといったビデオソフトの市場規模は、2004年の約3753億円をピークに右肩下がりを続け(※1)、2025年は800億円台にまで落ち込んでいる(※2)。「地上波で集客し、映画とDVDで回収する」という黄金の方程式は、次第に通用しなくなっていったのだ。
そこで代わって登場したのが、配信主導型モデル。面白いのは、かつてと今では「入り口」と「出口」の役割が逆転していることだ。以前は「ドラマの熱を映画のチケット代に変える」仕組みだったが、今は「映画の熱をサブスクへの加入・定着に変える」ことを狙っている。
その象徴となる作品が、『ゴールデンカムイ』だ。
■映画で広げ、配信で深めた『ゴールデンカムイ』 『ゴールデンカムイ』は第1弾を映画として公開し、その続きをWOWOWで独占放送・配信。映画でファンになった人々をそのまま自社のサブスクへと引き込み、さらに完結編の映画へとつなげる。「映画で広げ、配信で深め、再び映画で盛り上げる」という最強サイクルを作り上げている。
この戦略がもたらしたものは極めて大きい。ドラマ版の配信が始まった2024年10月、WOWOWの月間正味加入件数は約4万4,000件という大幅な純増を記録(※3)。加入者の減少傾向が続いていた同局にとって、この数字はまさに異例のV字回復といえる。劇場公開という“祭”によって火がついたファンの熱量を、一過性の現象で終わらせることなく、自社プラットフォームへの定着につなげてみせた。
WOWOWの井原多美氏が「今のメディアにとって放送や配信はゴールではなく、むしろファンとの付き合いが始まるスタートだ」(※4)と語るように、映画を最強の広告として機能させ、コアなファンを囲い込んで LTV(顧客生涯価値)を高めることが、現代的な生存戦略といえる。
また、このモデルはクリエイティブな面でも大きな恩恵をもたらした。一番のメリットは制作規模の拡大。通常の地上波プライム帯ドラマの制作費は、1話あたり3,000万~5,000万円程度が相場とされてきた(『VIVANT』は1話1億円近くかかったと言われているが、これは例外中の例外)。しかし、劇場公開と配信をセットにし、グローバル展開まで視野に入れた連動型プロジェクトでは、その数倍の予算が投じられることも珍しくない。
『ゴールデンカムイ』の場合、映画とドラマをまとめて作ることで、約8カ月という異例の撮影期間を確保(※5)。これにより、アイヌの集落といった大規模なセットをじっくり作り込み、両方の作品で使い倒すことが可能になったのだ。2時間の映画では描ききれないディープな魅力を、劇場版と同等のクオリティを維持したまま、連ドラの尺で描き切る。結果として、作品のIP価値を長期にわたって維持することに成功している。
この流れを加速させているのが、地上波とFODが連動した『東京P.D. 警視庁広報2係』(2026年)。地上波で放送された Season1は、誰でも気軽に視聴できる巨大な玄関口。だが本当の目的は、放送直後にFODで配信されるSeason2へと視聴者を導くことだ。ドラマが終わって数年後に映画をやるようなのんびりした展開ではなく、熱気が最高潮のうちに有料配信へとつないでいる。
■『教場』が採用した“前編・後編”構造 木村拓哉が主演を務めた『教場』(2020年)のアプローチも非常に戦略的だ。もともとはフジテレビのスペシャルドラマとして強固なブランドを築いた作品だが、最新作の展開はさらに一歩踏み込んでいる。2026年に発表された『教場 Reunion』をNetflixでの独占配信し、その完結編となる『教場 Requiem』を劇場公開するという、「配信が前編、劇場が後編」という二段構えを採用したのだ。
このように見ていくと「続きは配信で」という手法は、目の肥えた現代の視聴者を納得させるだけのクオリティを担保し、膨大な制作予算を健全に回収しながら、作品を長く深く愛されるIPへと育て上げるための、現代における最適解といえる。
今後、地上波、配信、劇場を縦横無尽に横断するプロジェクトはさらに加速していくはずだ。その成否の鍵は、入り口で掴んだビギナー層を置いてきぼりにせず、高まった熱狂をいかにシームレスに次のステージへとパスできるか、そして誘導した先でどれだけ濃密な体験を提供できるかにある。
単発の興行成績に一喜一憂する時代は終わり、ファンとプラットフォームが作品を通じて長く寄り添い続ける、新しいエンタメの形が今、完全に定着しようとしている。
参照※1.https://www.jva-net.or.jp/report/https://www.jva-net.or.jp/bulletin/data/jva-repo_109.pdf※2.https://www.jva-net.or.jp/report/annual_2025.pdf※3.https://corporate.wowow.co.jp/news/info/6213.html※4.https://corporate.wowow.co.jp/features/detail/ihara02.html※5.https://corporate.wowow.co.jp/features/detail/6265.html
参考資料※ https://www.kogyotsushin.com/(文=竹島ルイ)
