広陵野球部・暴力問題「加害生徒」側が「被害者の親」を刑事告訴 双方の主張は… 被害者親は「個人を特定の意図はない」と説明 加害者代理人弁護士は「オーバーキルの状況が生まれた」と主張
昨年夏の甲子園期間中に日本列島を震撼させた広島の名門・広陵高校硬式野球部の集団暴行事件に新展開だ。「加害者のひとり」が、「被害生徒の親権者」によるSNSへの投稿によって誹謗中傷を受けたとして、親権者を名誉毀損で刑事告訴し、広島県警が3月23日に受理していたことがわかったのだ。告訴状が受理されたことを受け、被害者の父親が筆者の取材に対し、冷静に次のように話した。
【写真】「反省してるなら便器なめろ」広陵高校側が被害者の両親に渡した報告書
「当時は同じような被害を防止したいという思いで、息子が受けた暴力の内容や学校などとのやりとりをSNSに投稿していた。加害者とされた生徒を陥れようという意図はなく、個人が特定される情報が結果的にSNS上で拡散されたことはこちらの意図とは異なります。今後は弁護士を通じて対応していきます」
事件が起きたのは昨年1月。当時、1年生だったA君とB君が寮のルールで禁止されていたカップラーメンを食べたところ、複数の2年生部員から注意を受け、集団暴行を受けた。
当時、被害者A君の家族が学校側に質問を投げかけ、学校側が回答した報告書が残っている。そこには、当時の監督であった中井哲之氏がA君に対し、暴行事件に関する報告を「出されては困りますやろ」と迫る会話が記されている。それにA君とその家族は強い不信感を抱き、広島県警に被害届を提出。その後、SNSを通じて被害を告白し、問題が明るみに出たのだが、加害者の名前をさらしたわけではないというのが被害者側の主張である。
そもそも、加害者が被害者の親権者を刑事告訴する意向が明らかになった昨年9月の時点で、加害者の代理人を務める玉井伸弥弁護士(加藤・轟木法律事務所)はこう話していた。
「仮に告訴状が受理されなかったとしても、(告訴状を提出する)行動に出ることでSNSによる誹謗中傷など二次被害の抑止力になりますし、投稿元の情報開示請求はしていくつもりです」
この時点での告訴状の提出先は東京地検だったが、今回、告訴状を受理したのは広島県警となっている。改めて玉井弁護士に聞いた。
「直接、公表はしなくても……」
「東京地検の方から事情に精通した安佐南署(広島県警)に告訴状を提出したほうがいいと薦められたのです。昨年11月に提出はしておりましたが、広島県警としては第三者委員会の関係者への聞き取りも終わったということで、3月23日に受理されました」
既に被害者は転校し、加害生徒らは2月に卒業式を迎えて、現在は第三者委員会(昨年10月に学校が設置)の報告を待つ段階であるが、加害生徒はSNSで名前をさらされたことで進路選択にも大きな影響が出たという主張だ。玉井弁護士が続ける。
「加害者も(暴力事件の)一部は認め、(事件の直後に)既に謝罪したつもりでいました。猛省し、反省し、学校の処分を受けたにもかかわらず、昨年の夏に名前をさらされた。いわばオーバーキルの状況が生まれたわけです。我々としては投稿した親権者に加え、拡散した(インフルエンサーの)方々に対しても問題にしたい」
しかし、親権者が加害者の名前を公表したわけではない。
「直接、公表はしなくても、内部資料等を渡して拡散を共謀したのではないか。その辺りが明らかになれば……」
昨夏に暴行事件が報道されて以降、被害者の父親と連絡を取り合い、広陵の抱える闇を報じてきた筆者のもとには、「被害者(A君)にも問題があった」「A君がもともと先輩に対して反抗的な態度を取っていた」というような声や連絡が相次ぎ、学校関係者も自己弁護するようにそれを拡散していた。
A君は集団暴行事件の被害者なのだ。まさしく多勢に無勢の状況が生まれており、転校を余儀なくされたA君にとって二次被害のようにも受け取れた。
加害者のひとりである生徒と、被害者の親権者の主張が法廷で争われることとなり、学校の受験者や野球部の入部希望者も減少するなか、広陵は「すべては第三者委員会の結果が出てから」と話すのみだ。被害者らが求める中井前監督らの謝罪と再発防止策の徹底を公にすることはなく、だんまりを決め込んでいる。これでは信頼を取り戻すことは難しく、名門野球部の再建にはまだまだ時間がかかるだろう。
■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)
