大阪桐蔭・川本晴大投手

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 第98回選抜高校野球大会、1回戦最後のカードとなった大阪桐蔭と熊本工の一戦で、球場の空気を一変させる投球があった。大阪桐蔭の背番号10を背負った左腕、川本晴大(2年)。新たな“怪物候補”の誕生を強く印象づけた。【西尾典文/野球ライター】

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自分のピッチングができた

 川本は埼玉県出身。小学6年時には年末に行われる12球団ジュニアトーナメントで西武ライオンズジュニアに選出され、中学ではU15侍ジャパンに選ばれ、U15W杯で世界一も経験している。大阪桐蔭では1年秋から投手陣の一角に定着すると、近畿大会でも2試合に先発して12回を投げて1失点と見事な投球を見せ、チームの選抜出場に大きく貢献した。

大阪桐蔭・川本晴大投手

 この日も先発のマウンドを任されると、5回まではノーヒットピッチングを披露。6回ツーアウトからレフト前ヒットを打たれ、9回を一人で投げ切り被安打3、14奪三振、150球の熱投で完封勝利を飾った。

 試合後、川本はこの日のピッチングをこう振り返っている。

「ずっと目標にしてきた甲子園のマウンドだったので、初戦からこのように投げることができて、とてもうれしい気持ちです。初回は緊張もありましたが、抑えていくにつれてだんだん緊張もほぐれて、自分のピッチングができたかなと思います。(150球、14奪三振については)こんなに投げたことはなかったので疲れましたが、最後まで自分のピッチングができたので良かったです」

 川本の特徴としてまず目を引くのが「192cm、95kg」という高校生離れした体格だ。比較的上背のある選手が少ないこともあり、整列した時にも川本が完全に頭一つ抜けているように見える。そしてその恵まれた体格がピッチングにしっかりと生かされているのが、大きな長所である。

今日は最後まで川本に任せよう

 この日、初めて川本の投球を見たというNPBスカウトも興奮した様子でこう話してくれた。

「素晴らしかったですね。投げているボールは3年生も含めて今大会でも1、2でしょう。あれだけ大きいのにバランス良く縦に腕が振れて、右足にもしっかり体重が乗っている。バッターは相当速く感じていると思います。コントロールはまだアバウトですけど、四球で自滅するほどではなく、最後まで球威も落ちませんでした。このまま順調にいけば来年は手がつけられないピッチャーになるかもしれませんね」(セ・リーグ球団スカウト)

 奪った14個の三振のうち、実に11個の決め球がストレートであり、相手打線をいかに球威で圧倒していたかがよく分かるだろう。ストレートの自己最速は146キロとのことだったが、この日は球場表示で最速147キロをマークし、バックネット裏で計測していたNPBスカウトのスピードガンでは151キロもあったという。2年生の春ということを考えるとこの数字だけでも驚きだが、この日のピッチングは、そんな数字以上にインパクトがあったことは確かだろう。

 一つ気になったのは150球という球数で、本人もこれほど投げたことはなかったと話していた点だ。その点をチームを指揮する西谷浩一監督に聞くと、こう答えてくれた。

「どうしても球数が多くなる子なので、当然その点は気にしていました。なるべく球数は抑えたかったのですが、あそこまでいってしまったというところですね。ただ、脚をしっかり使って投げることができていたので、今日は最後まで川本に任せようと思って送り出しました」

 川本も冬の間に重点的に取り組んできたのは下半身のトレーニングと話している。ただ試合展開に任せるのではなく、これまで取り組んできたことや、フォームに乱れがなかった点などの裏付けがあっての150球完投だったと言えるだろう。

新たな怪物候補

 そして、この起用法については川本の成長を促すという狙いもあったようだ。西谷監督はこう続ける。

「生徒には常々、甲子園は一番成長できる場所だということを話していて、川本にもさらにこの場で成長してほしいという思いもありました。キャッチャーの藤田(大翔・3年)とも相談して、まだ大丈夫ということを言っていたので、最後まで任せました。練習でも多く投げることはしてきましたし、秋よりもずいぶん成長したと思います」

 コメントに登場した藤田にも話を聞いたところ、「元々球数は多いピッチャーで、投げていく中でどんどん良くなることも多いので、最後まで行けると思ってリードしていました」と話していた。高校野球では2020年から1週間で500球の球数制限が導入され、プロ野球と同様に100球前後で降板するケースが増えている。しかし状態を見極めながら成長の機会と考えて、あえて多くの球数を投げた経験は川本にとってプラスとなった部分も大きいのではないだろうか。

 甲子園で刻んだ150球の完封は、単なる好投にとどまらない。新たな怪物候補が、その輪郭をはっきりと示した一戦だった。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部