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大阪府八尾市内の整骨院で2024年9月、当時18歳だった女性の胸を触るなどのわいせつ行為をしたとして、柔道整復師の男性院長(40代)が不同意わいせつ罪で在宅起訴された。

この事件では当初、警察が不同意わいせつ致傷の疑いで書類送検したものの、大阪地検は不起訴処分とした。これに対して、被害女性は検察審査会に不服を申し立てていた。

その後、大阪地検は独自に「再起」と呼ばれる手続きを取り、自ら再捜査に着手した。

通常は、検察審査会の「起訴相当」議決を経て判断されるが、今回は審査を待たずに検察が自ら判断を覆した異例の対応だった。(ライター・渋井哲也)

●突然の電話「再捜査をすることになりました」

2025年6月、被害女性側が開いた記者会見には、在阪テレビ局や新聞社の記者が集まった。しかし、実際に報じたのはテレビ局1社と筆者の記事だけだったという。

「新聞は記事にしにくいと言われ、報道されませんでした。でも、検察官は(この事件を報じた)記事を知っていました。世間の声が届いたのかもしれません」(被害女性の母親)

記者会見の後、被害女性のスマートフォンに見慣れない番号から電話がかかってきた。

「何回か同じ番号から着信がありました。調べたら『大阪地検』でした。なんやろうと思って、数回目で電話を取りました。検察官は淡々としていました。

『この事件は、また捜査したら起訴できるかもしれない。私が捜査させていただきます。よろしくお願いします』と言われました。最初は『どういうこと?』と思いました」

母親にも連絡があった。代理人の弁護士に母親が電話すると、「どういうことですか?」と驚いた様子で、まだ事情を把握していなかったという。

●「一度不起訴になっているので、ハードルが高かった」

その後、被害女性は月1回ほどのペースで大阪地検に出向くことになった。

「深く話を詰めていこうというものでした。『こういう証拠はありますか?』『こういうときにこんなことがあったと聞いていますが、どんな状況だったのですか?』といったことを細かく聞かれました。

事件のあと、一度、加害者を見たときに一緒にいた家族も検察に行きました。検察官は信用性や一貫性を大事にしていて、以前の説明と変わっていないかなどを確認していました」(被害女性)

母親はこう振り返る。

「当初は『起訴するか不起訴にするか、8月ごろまでに結論を出したい』と言われていました。

でも、結論は延びて、延びて…。一度不起訴になっているので、ハードルが高かったのだと思います。

そのための対策として準備をしていたようです。(被害女性が)自傷行為をした写真もありましたので、それも見せました」

●徹底された「証言の信用性」の検証

母親は、記者会見後の報道やSNSでの反響が検察の再捜査につながった可能性もあると感じている。

大阪地検による被害女性への聞き取りは5〜6回に及び、関係者への聴取もおこなわれた。。

「以前言っていたことと矛盾がないか、かなり深く詰められました」(母親)

被害女性によると、事件は次のような経緯だった。

女性は整骨院で施術を終えた後、院長に呼び止められ、ハグされたまま施術室に連れて行かれた。

施術室で院長は女性の首にキスをし、服の上から胸を触ったという。女性が拒否してもやめず、ズボンの中に手を入れようとしたため、「生理中です」と伝えたところ離れることができたという。

物証はほとんどない。防犯カメラ映像はあったが、整骨院を出た時間が確認できるだけで、犯行の場面は映っていなかった。その日に着ていた服もすでに洗ってしまっていたという。

こうした状況の中で、証言をいかに積み上げるかが焦点だった。

●「最初からこの検事さんだったら」

大阪地検は2025年12月、院長を不同意わいせつ罪で起訴した。

「起訴してもらえると聞いたときは本当にホッとしました。これでやっと泣き寝入りしなくて済むんだと、喜びが一番でした」(母親)

一方で、割り切れない思いも残った。当初の容疑に含まれていた「致傷」が外されたことだ。PTSDとの因果関係の立証は、身体的なケガに比べてハードルが高いとされている。

被害者にとっては、心に負った深い傷が「致傷」と認められなかったことが気がかりだ。

被害女性は「最初からこの検事さんだったら、こんなに時間をかけずに済んだのに」と語り、一度目の不起訴によって生まれた空白の時間への悔しさをにじませた。

●初公判での衝撃「否認」

2026年1月、初公判が開かれた。

被害女性は被害者参加制度を利用し、遮蔽措置(ついたて)を設けたうえで検察官の隣の席に座った。傍聴席は満席だったという。両親も傍聴席から見守った。

「公判に行けば加害者がいる。本当に怖かった。ハニートラップだと言う人もいると思うんですけど、本当に(性暴力を)されている。本当に人生潰されたと思っているから行ったんです。

私から見えないように、加害者からも私が見えないように時間差で連れてきてくれるんですが、『今、加害者がこの場にいる』と実感しました。名前や住所を言ったときに声が聞こえて、本当に息が詰まるようでした」(被害女性)

検察官が起訴状を読み上げた。

「起訴状朗読では、出来事を想像しながら聞いていました。間違っていないか、検察官が何を言ってくれるのかと思っていました。

(被告人は)『そのような事実はございません』と否認しました。本当に腹が立ったのと、やっぱり怖い。反省していないので、厳罰を望んでいます」

公判中、弁護士に支えられながら涙を流す場面もあった。

「すごく不安でした。精神科には通っていますが、体調を崩して高熱が出たりして、精神的だけではなく身体的にも大きな負担がかかっていると思います」

●就活と裁判の両立、被害者の苦難は続く

事件の影響は、いまも彼女の日常生活に影を落としている。

被害女性は就職活動を控えているが、事件後の精神的不安定により、1月はほとんど大学に通えなかった。学校で人と話すことさえつらいときがあるという。

「声をかけられても、『性犯罪にあった』とは言えないですから…」

パニックを抑えるために薬を服用し、動物の動画を見たり料理に没頭したりして、かろうじて日常を保っている。

「春から始まる国家試験や就職活動と裁判のスケジュールが重なります。裁判にいつ呼ばれるのか、どうなるのかという不安が常に頭の片隅にあって、勉強に集中できない日も多いです」

安心して生活できる環境には、まだ戻れていない。

「加害者とは近所なので、出会わないようにしていますが、加害者の家族を見かけてしまうことはあります。そんなときは精神的不安定になります」

母親もこう語る。

「就職活動という人生の岐路に立っているときに、まだ裁判が続いています。裁判と就活の同時進行は本当に大変です。

でも、不服申し立てをしなかったら再捜査は絶対にされなかったと思います。記者会見をして、ニュースになり、反響が広がったことも大きかったと思います。

『致傷』が外されたことで判決が軽くなるのではないかと心配しています。私たちは刑事責任をきちんと問われてほしいと望んでいます」