人間は「AI生成画像だ」と言われると人間による芸術作品であっても共感できなくなる

近年は生成AIの発達により、一部のユーザーが絵画や文芸といった芸術作品の作成にAIを利用するようになっています。2026年1月に発表された研究論文では「AI生成画像を人間による作品と偽る」「人間による作品をAI生成画像と偽る」といった実験の結果、「どのように作られたか」という情報が人間の共感性に大きな影響を与えていることが確認されました。同様の傾向は文学作品でも確認されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022103125001210

AI art fails to trigger the same empathy as human works
https://www.psypost.org/ai-art-fails-to-trigger-the-same-empathy-as-human-works/
哲学者や心理学者らは長らく、芸術は単に目を楽しませるだけの存在ではなく、人と人の心をつなぐ心理的な架け橋として機能すると主張してきました。人々は絵画や詩を鑑賞する際、単に視角情報や言語情報を処理するだけではなく、作品を通じて制作者の意図や視点を理解しようとします。
心理学系メディアのPsyPostは、こうした芸術作品を鑑賞するプロセスは鑑賞者に畏敬の念を呼び起こすと指摘しています。畏敬の念とは、自分たちの世界観を揺るがすような壮大なものに出会った時に生じる感情です。心理学の理論によると、畏敬の念は自分への集中を弱め、他者とのつながりをより感じやすくするとのこと。
ところが、近年ではAIが急速に芸術分野へと進出し始めており、今やAIは人間のスタイルを忠実に模倣した絵画や詩、小説、音楽などを生成することが可能です。そこで、コロンビア・ビジネス・スクールの博士課程に在籍するマイケル・ホワイト氏と、コロンビア・ビジネス・スクールのビジネス学助教を務めるレベッカ・ポンセ・デ・レオン氏らの研究チームは、AI生成の芸術作品と人間の芸術作品を比較する研究を行いました。
ホワイト氏らが知りたかったのは、芸術作品の起源を知ることで鑑賞者の感情がどのように変化するのかという点です。ホワイト氏らは、「芸術作品の背後に人間の存在がないと、鑑賞者が作品から受ける畏敬の念が薄れてしまうだろう」という仮説を立てて、合計約1600人の被験者を対象に5つの実験を行いました。

1つ目の実験では、大都市にある美術館で被験者を募集し、鉱山労働者や衣料品労働者、自然災害の生存者といった人間の苦しみを描いた絵画を鑑賞させました。実際には、これらの絵画はすべてAIによって生成されたものでしたが、研究チームは半数の被験者には「ジェイミー・ケンドリックスという人間のアーティストが描いたもの」と伝え、残りの半数には「AIによって制作されたもの」と伝えました。そして研究チームは、鑑賞後の被験者が絵画に描かれた人々にどれほどの共感を抱いたのかを評価しました。
その結果、「AIが制作した絵画を鑑賞した」と信じている被験者は、「人間が制作した絵画を鑑賞した」と信じている被験者と比べ、明確に絵画に描かれた人々への共感度が低いことが示されました。
2つ目の実験では、「AIではなく人間のアーティストによって制作された絵画」を用いて同様の実験を行いました。
実験の結果、「AIが制作した」と伝えられた被験者は、実際には人間によって制作された絵画であるにもかかわらず絵画に描かれた対象への共感度が低下しました。これは、絵画から受ける感情の差が絵画の質ではなく、鑑賞者の信念によって左右されることを意味しています。
3つ目の実験では対象を文学作品にまで広げました。研究チームは被験者に「愛」「自然」「家族」をテーマにした詩を読ませ、どれほどの驚きや感動を覚えたかを尋ねて、詩から受けた畏敬の念を測定しました。その結果、これまでの実験と同様に詩が「AIによって生成されたもの」だと伝えられた被験者は、畏敬の念をあまり感じないことが判明。統計解析では、畏敬の念の欠如が共感の低下につながっていることも示されました。

4つ目の実験では、芸術作品から受ける感情の違いが行動に影響するのかどうかが焦点となりました。研究チームはオフィスビルのロビーに鑑賞ゾーンを設け、通りかかった人々に「災害の生存者を描いた絵」を鑑賞してもらい、その後で慈善団体に寄付する機会を設けました。その結果、絵画がAIによって生成されたものだと信じていた被験者は、畏敬の念と共感の度合いが低いと報告しており、絵画が人間によって描かれたと信じていた被験者より寄付する可能性が低くなりました。
5つ目の実験では、AIアートが畏敬の念を呼び起こさない理由について掘り下げるため、畏敬の念を構成する2つの要素である「vastness(広大さ)」と「need for accommodation(適応の必要性)」について調べました。広大さとは、何かしらが自分自身や通常の経験よりも大きなものだという感覚のことであり、適応の必要性は、新しい経験が既存の精神構造に挑戦するものだと感じることです。
実験の被験者らは津波の生存者を描いた絵画を鑑賞し、絵画から受ける広大さや適応の必要性について評価しました。その結果、絵画がAIによって制作されたものだと信じている被験者は、作品の広大さや適応の必要性について低く評価することが判明。これらの認知的挑戦の欠如が畏敬の念を抑制し、共感度を低くしていたと結論付けられています。

今回の研究結果は、AIの芸術作品に対する人間の反応について調べたその他の研究結果とも合致します。複数の研究データを体系的に分析した研究では、絵画がAIによって生成されたことを知ると、作品の解釈や視覚的認識に影響が及ぶことが示されています。2023年の研究でも、絵画がAIによって制作されたと告げられると好感度や畏敬の念が低下することがわかっています。
なお、今回の研究で使われた絵画は主に苦しみや深刻なテーマを描いたものであり、喜びなどの感情を呼び起こす芸術作品でも同様の効果がみられるかは不明です。さらに、生成AIツールとともに育った若い世代ではAIに対する偏見が弱い可能性があるため、異なる結果が出るかもしれません。
心理学系メディアのPsyPostは、今後の研究では音楽や映画といった異なる芸術作品を調査したり、AIと人間のパートナーシップについて検証したりすることが考えられるとしています。その上で、「現時点でのデータは、創造性の自動化に隠れたコストがあることを示唆しています。画像生成の効率は向上するかもしれませんが、他の人間の表現を目の当たりにすることで得られる深いつながりを失うリスクがあります」と述べました。
