相手に伝わるコミュニケーションはどのようなものか。エグゼクティブ・コーチの林健太郎さんは「ある学説によると、人はまとまった情報を渡されたとき、全体の25%しか受け取れないのだそう。つまり単純計算では、4回言ってやっと100%になる。そのため1度目の会話を土台にして2度目、3度目といった連続性の中で相手の理解度を高めていく必要がある」という――。

※本稿は、林健太郎『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

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■部下の「ミスの報告」は業務改善のチャンス

チームがまとまるリーダーは相手の目線で事情を聞き、
バラバラのリーダーは上から目線で責める。

職場における「聞く」の効用の中で、最も重要なものは2つあります。

1つ目は「自律性が高まる」という、部下側のメリットです。

「話していいんだ」という心理的安全性が高まると、部下は疑問点を正直に話します。疑問がひとつ解けるごとに、ひとつ成長するわけです。アイデアや提案も安心して発することができるので、自発性や能動性も備わります。

2つ目は「情報が集まる」という、リーダー側のメリットです。

部下の現状・課題・可能性・独自の視点。情報は多いほどありがたいものです。

ただし中には、嬉しくない情報もあります。典型例が「ミスの報告」です。

しかしこれも、長い目で見ればメリットになると考えてください。隠されてダメージが広がるよりずっといいですし、再発防止策を備えて共有すれば、業務全体の改善も図れます。

それには、最初の報告を聞いたあと、「さらに聞く」ことが必要となってきます。

そんな場面での残念な対応例がこちら。

「えっ、納期に間に合わない? ○○って指示したよね、そのほうが速いから。なのに△△でやったの? 勝手なやり方をするから失敗するんだよ」

こんな風に「聞く&話す」を混在させると「責める」になります。

■「小さな否定」も積みあがると信頼関係の崩壊につながる

しかもこの言い方、「上から目線」でもありますね。「ほ〜ら、言う通りにしないから」と相手の判断や技量を否定しています。

このとき、上司は少なからず高揚感を得ています。責める行為は、「支配している自分」を感じられて気分がいいのです。

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しかし同時に、相手との関係には少しずつ「ヒビ」が入っています。

あなたは間違っている、未熟だ、下手だ、迷惑だ……という否定のメッセージには、関係を少しずつ壊す作用があります。「小さな信頼」のまさに逆です。

「壺」をイメージしてください。否定するごとに、壺には小さなヒビが入ります。

1回や2回なら大丈夫。10回でも大丈夫。

100回でも、まだ大丈夫かも……。

でもあるとき、ガラガラと崩壊します。そして、決して元通りにはなりません。

これを防ぐには、マインドから変える必要アリ。そのポイントも、2つあります。

その1。「部下の仕事ぶりは未完成で、未熟である」という前提に立ちましょう。

「不十分で当然」と思っていれば、腹は立ちません。

■責めそうになった時は「〜とも言い切れない」と考える

その2。「相手を1人の成熟した人間と信じて関わる」ことを意識しましょう。

「あれ? 今言ったことと違う!」と思いましたね? 大丈夫、矛盾はしていません。「仕事ぶり」は不十分でも、「人格」は完成されています。

その人格は、現時点では未熟な仕事を、改善させる力を持っています。

上司と部下は、「今」の技量に差はあれど、トータルで見れば2人とも成長過程です。対等な人間同士であり、互いに尊重し合うべき存在です。

このマインドで、部下の目線に立って、事情を聞きましょう。

おすすめの方法は、「とも言い切れない」と付け加えること。

先ほどの例で言うと、こうです。

「え、納期に間に合わない? ○○って指示したんだから、指示通りやればいいだけだろう……『とも言い切れない』」

あ、本当に言わなくていいですよ(笑)。責めそうになったとき、脳内で「とも言い切れない」を付け加えよう、という意味です。これにより、「部下にも事情があったはず」という想像力が生まれます。

本当に口に出すときは、こんな聞き方になるでしょう。

「間に合わない? そうか。何か○○ができない事情があったのかな、教えてくれる?」

「責める」が「聞く」に早変わりする裏ワザ、ぜひお試しを!

相手を否定しそうになったら
「とも言い切れない」と頭の中で付け加えよう。

■1回では覚えないのは当たり前

チームがまとまるリーダーは会話の回数を重ね、
バラバラのリーダーは1回で済ませようとする。

「1回しか言わないから、よく覚えろよ」と、昔のリーダーはよく言いました。

コーチングをしていても、世代が上の方ほど、「部下たちは何度言っても、全然理解しないんだよね〜」と愚痴を言います。

そこで私が「何度言っていますか?」と聞くと、「まあ、2回くらいかな」。

それ、かなりシブチンです。……え? シブチンがわからない?

ケチを意味する、昭和期の言葉です。いわゆる死語でしょう。

彼らの価値観も、同じくらい古びています。

1回では覚えないのは当たり前。会話は、回数を重ねるのが当たり前です。

ある学説によると、人はまとまった情報を渡されたとき、全体の25%しか受け取れないのだそう。つまり単純計算では、4回言ってやっと100%になるわけです。

4回とは言わずとも、3回言えば、万全に近くなります。

それに基づいた、「RCRA」というフレームワークがあります。

?リクエスト(Request=お願い・指示)
?クラリファイ(Clarify=確認)
?リフレーズ(Rephrase=復唱)
?アクション(Action=行動)

■「育てたいなら、繰り返せ」を、心の標語に

この順番で、「夫に牛乳を買ってきてもらう」をやってみると、こうなります。

妻:ごめーん、牛乳買ってきてくれる?(?リクエスト)
夫:いいよ。いってきま〜す。
妻:待って、本数とかどの牛乳とか、わかる?(?クラリファイ)
夫:あー……。
妻:○○牛乳じゃないと、あなたお腹ゴロゴロするでしょ。あれを2本ね。
夫:そっか、わかった。
妻:何を何本だっけ?(?リフレーズ)
夫:えっと、○○牛乳を2本。
妻:OK! ありがとうね、よろしく!(?アクションにつながる)

具体的な言葉回しはそれぞれの夫婦によって異なると思いますが、なんとなく流れはご理解いただけたかと思います。

そして、部下にはじめての仕事を任せる際も、同じ流れを意識しましょう。

「めんどくさ〜」と思った方、いますよね? なんとなくお気持ちわかります。

その感情は受け止めつつ敢えてお伝えしたいこと。それは、この「繰り返し」こそが育成を成功させるカギだということ。

写真=iStock.com/chachamal
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「育てたいなら、繰り返せ」を、心の標語にしてください。

1回の会話内で繰り返すだけでなく、会話そのものの回数も重ねましょう。

コーチングの世界では、会話を「連続体」と捉えます。

■後々の「ラク」を得るため、今「めんどくさ〜」と思うことをする

1度目の会話を土台にして2度目、3度目。こうした連続性の中で理解度が高まる=育成ができる、という考え方です。

林健太郎『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)

このときの理解は、右肩上がりの「直線状」ではなく、繰り返される中で「らせん状」に高まっていくイメージです。似た内容の会話を何度もしているようで、実は単純な繰り返しではなく、相手の中で、解像度は着々と上がっています。

ということは、1度目はRCRAでみっちり伝えても、2度目はもっとシンプルで済むかもしれません。いずれは、わざわざ指示しなくとも「来週の営業先の資料、揃えておきました!」と部下のほうから伝えてくれるようになるでしょう。

まさに、阿吽の呼吸です。

そのために、今、「めんどくさ〜」と思うことをしましょう。

後々の「ラク」を得るための地道な繰り返しを、今日からはじめましょう。

会話を何度も重ねて、
部下の「らせん状の成長」を促そう。

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林 健太郎(はやし・けんたろう)
否定しない専門家/コーチ
2 万人以上を指導したコーチ。リーダー育成家。ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイNTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。これまでに大手企業などで2万人以上のリーダーに指導してきた。否定しないコミュニケーション術をまとめた『否定しない習慣』(フォレスト出版)が14万部を超えるベストセラーになる。このほか『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(いずれも三笠書房)、『いまを抜け出す「すごい問いかけ」』(青春出版社)など著書多数。
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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)