『イグナイト -法の無法者-』©TBS

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 6月13日に放送された『イグナイト -法の無法者-』(TBS系)第9話は、ここまでのエピソードで宇崎(間宮祥太朗)たちが追ってきた5年前のバス事故の前後に何が起きていたのかという前日譚が、轟(仲村トオル)を中心にして展開していく。

参考:『イグナイト』正義と情で揺れる間宮祥太朗たち 医療ミスに潜む真相と“決戦”への布石

 第1話の冒頭にも登場したバス事故の様子がより克明に描かれているわけだが、当時の国交大臣・石倉(杉本哲太)が推し進めていた自動運転プロジェクト“モビリティ・シティ計画”の存在が明らかにされたうえで観ると、また違った印象のものとして見えるだろう。

 妻に先立たれ、娘の佳奈(藤粼ゆみあ)と2人きりで暮らしていた轟。大手法律事務所に勤め、多くの依頼をこなすやり手の弁護士である一方、仕事に没頭するあまり同期の桐石(及川光博)や刑事の浅見(りょう)からは父親としての振る舞いかたに苦言を呈されるほど。そこで轟は、数日後に迫った佳奈の16歳の誕生日を父娘2人で祝うことを思い付く。プレゼントに悩み、迎えた3月19日。佳奈は友だちとの約束を断り、学校の目の前のバス停に停まっていた一台のバスに慌てて乗り込むのである。

 突然愛する娘を失い、憔悴しきった轟のもとを訪ねる桐石と浅見。ここで繰り広げられるやりとりは、まさにこの物語の原点といえよう。偶然にも暴走するバスを見つけ、それが爆発する瞬間を目撃していた浅見は、警察内部で起きた不可解な様子から、事故の背後に大きな陰謀が渦巻いていることを直感する。所轄が集めた証拠がすべて本庁に回収され、運転手であった宇崎の父・裕生(宮川一郎太)の過失となるように改竄されたこと。市長の音部(髙島政伸)が事故直後に対応に動いていたこと。

 この時点ではまだ、“モビリティ・シティ計画”にも石倉にもたどり着いていない。事故の真相を追及し、裏にある黒幕に正義の鉄槌を下す決意を固める轟の表情は、一貫して娘の無念を晴らそうとする父親のものでありつづける。彼は大手事務所を辞めて「ピース法律事務所」を立ち上げるのだが、そのモットーともいえる“争いは起こせばいい”は、先の長い戦いに臨むための、ある意味で事務所の延命のための策。もちろん強い正義感で金にならない案件に向き合ってきた轟の弁護士としての生来の気質が反映されているが、宇崎の母・純子(藤田朋子)がそのきっかけになったと考えても間違いないだろう。

 純子からの手紙で宇崎家を訪れた轟は、そこで誹謗中傷の落書きを目撃する。事故の加害者とされた者の遺族として十字架を背負い、誰にも相談できずにいる純子に対し、轟は被害者遺族として、弁護士としての両面から救済の手を差し伸べる。「事故と誹謗中傷は別」「やられたら、ちゃんとやり返しましょう」、そして「お願いですから、生きてください」。法律という明文化された正義に則り、声をあげられないで苦しむ人のためにそれを行使する。これこそが、真っ当な“逆襲”のやり方だ。

 その後、浅見の紹介で伊野尾(上白石萌歌)が加わり、高井戸(三山凌輝)を言葉巧みに仲間に引き入れた轟は、宇崎が司法試験に合格したことを知って久々に宇崎家へと向かう。そこでの純子とのやりとりは、第1話の序盤へと繋がり、宇崎が初めてピース法律事務所にやって来た際のドアの開閉をもって現在の時間軸へと引き戻す。エピソードの構成としても、人物の関係図としても、すべてが循環していることが、この“最終決戦”を目前に控えたエピソードで示されたのだ。

(文=久保田和馬)