中島歩、朝ドラで光る“実力派”の風格 『花子とアン』『あんぱん』を経てさらなる高みへ
放送中の朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)では、ヒロイン・朝田のぶ(今田美桜)が次なるライフステージへと突入。女子師範学校を無事に卒業し、母校である御免与尋常小学校の教師となった。子どもたちとにぎやかな日々を過ごしているところである。
参考:『あんぱん』『花子とアン』に共通する“そこで生きる”人間の描写 中園ミホの挑戦的な試み
そんな彼女の元に、縁談が舞い込んできた。のぶとしてはその気はないのだが、ひとり目のお見合い相手と会うことに。そうして登場したのが若松次郎という青年。演じているのは中島歩である。
本作は、誰もが知るあの『アンパンマン』の生みの親である夫婦をモデルに、のぶとその夫となる柳井嵩(北村匠海)の激動の生涯を描いていくものだ。幅広い世代から愛され続ける不朽の名作がどのようにして誕生したのか、私たちはこの作品をとおして知ることとなる。現在ののぶと嵩の間にはすれ違いが生じており、このままでは『アンパンマン』が誕生しない世界線へと進んでしまいかねない。そんなところへ若松次郎は現れたのだ。
この次郎という青年は、商船学校を卒業し、一等機関士として働いている人物である。彼の父はのぶの父・結太郎(加瀬亮)の知人であり、次郎自身も生前の結太郎と船上で会ったことがあるらしい。非常に穏やかな性格の持ち主で、カメラが相棒の好青年だ。
のぶと嵩が幼い頃から見守ってきた私たち視聴者としては複雑な心境だったが、想像以上の好青年の登場に驚いた。演じる中島のセリフ回しはゆったりとしていて気持ちが良く、聞いているこちらまで穏やかな気分になってくる。中島の俳優としての強みである低音ボイスが効いている印象だ。
本作の公式ガイドである『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 あんぱん Part1』にて中島は、「船乗りの次郎は1年の多くを海上で過ごすため、結婚の必要性を感じたことがない。そんな次郎が見合いし、のぶに恋をする。急展開する次郎の心情を理解するため、台本を丹念に読み込みました」と、次郎を演じるうえでの心持ちについて語っている。さらには「撮影初日、のぶを演じる今田美桜さんと対峙するうちにある感情が芽生えたんです。のぶに対する次郎の真の気持ちを見つけた気がして。それは今田さんが心で演じているからこそだと感動しました」とも。
これは第37話で私たちが体験したあの心地良い時間の秘密に迫る発言だ。中島は次郎を演じるうえで彼の心の動きを台本から掴もうとしていたが、現場での今田とのやり取りの中で、自然に心が動いたというのだ。それから中島は「常にポジティブで前向きな次郎ですが、表面的ないい人に見えないよう、不慣れな土佐ことばで、説得力のある表現にする難しさに直面しています」と、次郎を演じることの難しさについても語っている。これもまた面白い発言だ。
■中島歩、『ガンニバル』では『あんぱん』と対極的な役どころに 3月19日よりディズニープラスで配信されている話題作『ガンニバル シーズン2』での彼のパフォーマンスに触れている方々からすれば、同じ俳優が演じているとは思えないのではないだろうか。同作で中島が扮する後藤理は冷酷な人物で、次郎とは対極的な役どころである。 『ガンニバル』での演技は“動的”というよりも、ほとんどアクロバティックなものだといえる。このまったく毛色の異なる2作での中島の演技を目にすれば、彼がなぜこんなにも作り手たちから信頼される存在なのかをたちまち理解できるに違いない。
2020年代に入ってからの中島の勢いには凄まじいものがある。とりわけ映画ファンにとって彼は得難い存在だろう。『偶然と想像』(2021年)や『よだかの片想い』(2022年)、『ナミビアの砂漠』(2024年)、『HAPPYEND』(2024年)といった作家性の強い作品で重宝されるいっぽう、『ラーゲリより愛を込めて』(2022年)などの大きな作品にも柔軟に溶け込んでみせる。現在は鈴木竜也監督が個人で手がけた長編アニメーション『無名の人生』が公開中で、こちらでは中島の声によるパフォーマンスを堪能することができる。演じ手としての彼のまた違う一面に出会えることだろう。
さて、そんな中島が「朝ドラ」に登場するのはこれが2度目のこと。先述したガイドにて彼は「2014年に出演した『花子とアン』は、僕の原点とも言える作品。今作はそれ以来の朝ドラとなるので、再びデビューするくらいの気持ちで、真心を込めて演じます」とも語っている。『あんぱん』での好演が、彼の演技者としての道をさらに拡張することになるのではないだろうか。(文=折田侑駿)

