『北斗の拳』のモヒカンかと思いきや……人気映画『トワイライト・ウォリアーズ』ウォン・ガウ兄貴の存在感

写真拡大

 香港のアクション映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の勢いが止まらない。公開から三週が経過しようというのに上映館や上映回数が増えたことがニュースになり、SNSには本作を絶賛する投稿らファンアートが続出。ごく局地的ではあるものの、ちょっとした社会現象めいた状態になりつつある。

参考:『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』SNSトレンド「緑のおじさん」とは? 某キャラが急に大人気になったワケ

 『トワイライト・ウォリアーズ』は、余兒の小説『九龍城寨』とそのコミック版を原作とする香港映画。出演者としてルイス・クー、サモ・ハン、リッチー・レン、アーロン・クオックといった香港出身の(リッチー・レンは台湾出身)大御所たちと、レイモンド・ラム、テレンス・ラウ、トニー・ウー、ジャーマン・チャンら同じく香港出身の若手が集結。さながら現代の香港アクション映画界が総力戦を仕掛けたような出演陣である。

 舞台は80年代の香港。この街にたどり着いた身元不明の流れ者チャン・ロッグワン(陳洛軍)は、偽造身分証をめぐって地元のギャングの大ボスとトラブルを起こす。逃げ回った末に九龍城砦に潜り込んだチャンは、大ボスと並ぶ香港の実力者ロン・ギュンフォン(龍捲風)が仕切るこの巨大スラムに居着くことになる。

 追い詰められ、どこにも行き場のないチャンに対して、ロンは城砦の内部に住む場所を探してやり、なにかと面倒を見る。九龍城砦での生活の中でロンの右腕であるソンヤッ(信一)、ロンとならぶ香港の実力者タイガーの舎弟であるサップイー(十二少)、マスクをつけた巨漢の闇医者セイジャイ(四仔)らと友情を育んだチャンは、社会から爪弾きにされた者たちが共同生活を送る九龍城砦での暮らしに安らぎを見つける。

 しかし、身元不明の流れ者だったチャンの出自をめぐり、ロンと並ぶ香港の大物たちの間で思惑が交錯。さらに1997年に迫った香港返還に伴って取り壊しが予定される九龍城砦に、新たな危機が迫る。九龍城砦に暮らす人々、そしてチャンと仲間たちの運命やいかに……というお話だ。

 実のところ『トワイライト・ウォリアーズ』は「金はなくてこすっからいけど根は善良で、助け合って暮らしている人々」「そんな人々のところに悪徳ヤクザが出現」「主要登場人物の出自に秘密が」「善良な人々が立ち上がって悪徳ヤクザを迎え撃つ」みたいな要素が並ぶ作品であり、ストーリーの構造的には吉本新喜劇っぽいところがある。が、本作ではベタな素材の持ち味を殺さずエモーショナルにガツンと分厚く増幅し、激しいアクションでスパイシーに味付けしながら起伏をつけ、最後はしっとりした余韻を残しながら客を満腹にさせてくれる。王道の物語に九龍城砦というロケーションならではの要素を盛り込みながら走りきった作品であり、「『ベタなストーリーと奇抜な要素の組み合わせ』に真摯に向き合えば、ここまで面白い映画が撮れるのか!」という驚きがあった。

 奇抜な要素という点で言えば、登場人物のキャラクターの濃さがある。主役のチャンは坊主頭で、ある意味で最もニュートラルな外見となっているが、同時にどこか不安げな佇まいと心を許した相手と接する時のチャーミングさが印象に残る。クールで頼れる好漢ながら微妙に雑なところもあるソンヤッ、等身大の若者っぽさを漂わせつつ信義に厚いサップイー、マスクをつけた見た目からしてキャラ立ちしまくっているセイジャイと、九龍城砦の若手チームはいずれも見事なキャラクターだ。

 本作の大きな見どころであるアクションシーンでも「ナイフ使いのソンヤッ」「スピード系でトリッキーなサップイー」「寡黙なパワーファイターのセイジャイ」と、キャラクターと戦闘スタイルが密接にリンクしており、このあたりはアクション監督を務めた谷垣健治の功績も大きいだろう。また本作の登場人物は主人公のチャンら若手世代と、ロンをはじめとするボス格大物世代にわかれているが、大物世代のアクションも凄まじい。「この人この年齢でまだこんなに動くの!?」と誰もが驚くサモ・ハン、そもそもアクションスターではないものの一撃必殺の説得力を顔面と佇まいからで発生させるルイス・クー、武器を使った格闘の面白さを表現した「殺人王」のアーロン・クオックと、全員けっこういい年なのに画面狭しと戦いまくる。

 狭い部屋や細く曲がりくねった通路など、九龍城内の変則的なロケーションを生かした動きも満載。殺陣はいいんだから、正直もうちょっとカメラを引いて全体がわかるようにどっしり撮ってほしい……と思わないでもなかったが、なんせ場所が九龍城を再現したセット内なので、カメラの引きじりがなかったのかなという気もする。なんにせよ、さまざまな戦闘スタイルと撮影技術が交錯するアクションシーンは、本作の大きな見どころである。

 さらにいえば、本作のエンドロールの美しさは特筆ものだ。かつて存在した九龍城砦での生活に想いを馳せ、長い年月の中で変わっていくものと変わらないものについて、静かに訴えてくるようなエンドロールとなっている。自分はこのエンドロールを見て、「この映画の真の主役は、かつて存在した九龍城砦、そしてそれが象徴するかつての香港そのものだったのではないか」と感じてしんみりしてしまった。現在の香港の状況を考えると、本作がストーリーとエンドロールで語った物語は、香港映画界からの静かなレジスタンスなのではないかという気さえしてくる。単に熱くて濃厚なアクション映画にとどまらない、香港人の気高さや意地や誇りを感じさせる作品だ。

 そしてもうひとつ、本作の巨大な見どころが、ウォン・ガウ兄貴である。名前を漢字で書くと「王九」。なんですか、その生まれながらに九龍城砦の王になることを運命づけられていたような名前は……。この先には本編の重大なネタバレを書くので、未見の方はご注意ください。

 ウォン・ガウ兄貴は、平たく書くと「ヒャッハー系のチンピラ」である。ファッションも品がなくド派手、そしてメンタリティはほとんど『北斗の拳』のモヒカンであり、劇中でも実際終始「ヒャ~ッハハハハハ!」みたいな感じで笑いまくっている。画面に初めて出てきた瞬間から完全に「大物ヤクザの取り巻きのチンピラ」「組織のナンバーツーっぽいけど、それにしては大物感がなさすぎる」という感じが漂っており、重鎮・若頭的な重さとは無縁。「こいつ、すぐ死ぬんだろうな……」と思っていた。

 しかし映画の冒頭、サモ・ハン演じる大ボスの元から逃げたチャンを追跡するシーンから、ウォン・ガウ兄貴はただならぬ動きを見せる。チャンが逃げ込んだ二階建てバスに走って追いつき、車体に飛びついてバスに飛び込み、チャンを狙ったその拳はバスのシートを貫通したのである。あれ? ただのヒャッハー系チンピラにしては妙に強くない? 疑惑は残ったが、そのままチャンが九龍城砦の中に逃げ込んだので、この時点ではそれ以上ウォン・ガウ兄貴の異常なフィジカルは披露されなかった。

 完全に流れが変わったのが、中盤のアクションシーンで見せた「硬直!」以降である。実はウォン・ガウ兄貴は気功の使い手であり、「硬直!」と叫びながら気を体内に巡らせることで刃物や打撃による攻撃が全然効かなくなる。そんなのありかよ……と思うが、あちらの武侠ものではよく見る能力らしい。ただのチンピラヤクザではなく、手練れの気功使いであったことが判明したウォン・ガウ兄貴は、この後映画全体の流れと九龍城砦を支配。元々九龍城に住んでいた面倒な連中を駆逐したのちには親分である大ボスを裏切り、自らが九龍城砦に君臨すべく暗躍、ついには物語全体のラスボスになるのである。

 超かっこいいキャラクターや熱い友情、激しいアクションに九龍城砦を完全再現したセットと見どころ満点の『トワイライト・ウォリアーズ』だが、一番びっくりしたのはこの「ヒャッハー系チンピラヤクザが、ヒャッハー系のハイテンションのままラスボスになる」という展開だった。ウォン・ガウ兄貴は貫禄でいえばサモ・ハンには遠く及ばず、チャンたち九龍城砦組とちがって頼れる仲間もいない。気功でめちゃくちゃ硬くなる体ひとつと、ヒャッハー系のハイテンションで九龍城砦の天下を取ろうとしたのである。すごすぎる。こんな奴初めて見たよ。

 恐ろしいのは、ウォン・ガウ兄貴は「勝負に勝てれば別に気功は使っても使わなくてもどっちでもいい」と思っているっぽいところである。気功使いならば、あくまで気功を使った格闘でケリをつけようとするもの……みたいなこだわりが、ウォン・ガウ兄貴には毛ほどもない。なんせ、最終決戦に持ち込んだ武器がAK47である。しかも2丁。気功を使って体をめちゃくちゃ硬くできるのに、アサルトライフルを腰だめで乱射しまくって主人公チームを射殺しようとするのだ。ウォン・ガウ兄貴はただ単に気功を使えるというだけあり、根っこの部分はどこまでも「勝つために手段を選ばないヒャッハー系チンピラヤクザ」なのである。なんと清々しい悪役だろうか。感動した。

 終盤戦では、そんなウォン・ガウ兄貴に対して九龍城砦側の四人組がまとまって立ち向かうことになる。1対4だが、それまでの見せ方がうまいので九龍城砦四人組が和に任せた戦い方をしている印象に全くなっておらず、むしろ「こんな奴、どうやってやっつけるんだよ……」という気持ちになってくる。なんせ外からの攻撃が全然効かないため、自然と戦闘は「なんとかしてこいつの弱点を見つけろーッ!」という流れになっていき、ハラハラドキドキの展開を辿る。そういえば『トワイライト・ウォリアーズ』のソイ・チェン監督が10年前に撮った『ドラゴン×マッハ!』でも、最終戦は「強すぎる敵に対して善玉側が2人で一緒に攻撃を仕掛ける」という展開になっていた。こういうのが好きなんでしょうね、きっと。

 そんなウォン・ガウ兄貴の死因は、「体内に飲み込ませた刀が原因」というものだ。外からだと硬すぎるから、内部から破壊したのである。なんだそれ。やっつけ方がほとんどデス・スターと同じ。プロトン魚雷じゃん……! こうして、史上最強のヒャッハー系、手段を選ばない戦いぶりと気功でチンピラからのしあがったウォン・ガウ兄貴は、超巨大宇宙要塞並みのタフネスを見せつけつつ、チャンたちの努力と友情の前に散ったのだった。お疲れ様でした……!

 このウォン・ガウ兄貴のインパクトがすごすぎて、自分は見たあとしばらくウォン・ガウ兄貴のことしか考えられない状態になってしまった。聞くのは当然、吉川晃司の『モニカ』(劇中で兄貴が歌っていた)である。まったく根拠はないのだが、ジード団のモヒカンみたいなメンタリティのままあそこまで上り詰めた悪役は、ウォン・ガウ兄貴くらいではないだろうか。

 自分は香港映画をくまなく見ているわけではないが、乏しい鑑賞経験の中でもこのタイプの悪役は見た記憶がない。「舐めてた相手が殺人マシン」を裏返したキャラクターというか、ザコっぽいキャラがザコっぽいまま気がついたらラスボスになっていたというキャラクターは、かなり斬新なものだと思う。この画期的悪役像を生み出したという点だけでも、『トワイライト・ウォリアーズ』は傑作と言えるのである。