左から塩貝、小川、佐野のNECトリオ。積み重ねてきた英語レッスンの成果を惜しげもなく披露した。写真:中田徹

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 11月28日、NECの小さな記者会見場は14人もの報道関係者で満席になった。そこに日本人3選手が入ってくると、佐野航大が私を見つけ「ああ、良かった。質問が分からなかったら通訳してくださいね」とホッとしたように声をかけてきた。しかし、彼らは1時間30分もの記者会見を自分たちの力で見事に乗り切った。
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 日本のメディアに対して試合後のインタビューに応じてきたNECの日本人三人衆。しかし、本人たちに英語への苦手意識があること、オランダ人メディアも「彼らは英語ができない」という思いがあることから、これまで小川航基、佐野、塩貝健人の肉声がオランダのサッカーファンに届くことがなかった。

 しかし、NEC公式が日本代表の小川と、インドネシア代表のケルビン・フェルドンクの英語インタビューをYouTubeチャンネルでポストしたように、小川と佐野の英語力はグングン伸びており、地元メディアでは「小川と佐野は、塩貝の通訳を務めることもある」と報じられるようになってきた。

 そこでNECは今回、全国紙、地方紙、サッカー専門誌、テレビ局に声をかけ、日本人選手たちと英語で直接話す機会を設けた。通訳はなし。週1回、クラブで英語レッスンを受けてきた彼らの力が試された。

 前列右端に座る記者を皮切りに、一人ひとりたっぷり質問する時間を与えられた。まず、オランダでサッカーすることについて、小川が「ティーンエイジャーの頃から、将来は国外でプレーしたいと思ってました。オランダでプレーすることで夢が叶いました」、佐野が「言葉の違いが大きいですね。でもヨーロッパでプレーしたかった」と答えると、記者が塩貝に向かって「オランダに慣れるのは難しい?」と問いかけた。

 塩貝「はい。英語がしゃべれませんし、オランダリーグはインテンシティーがとても高い。僕はひとり暮らしなので自炊もしないといけない」
 
――航大と航基は生活を助けてくれますか?

塩貝「彼(小川)の家に食事に行きます」

――航基は料理が上手?

塩貝「はい」

――航基、君の得意料理は?

小川「俺、料理したことないし」

ここで、この日最初の笑いが室内に広がった。

小川「ときどき、みんなで街に出て外食します。アムステルダムに住む寿司職人を家に招いたりして、みんなで食べることもありますね。でも僕は料理しない(笑)。ときどき、日本料理が恋しくなりますね」

 小川の「I never cook」というフレーズは定番のジョークとして何度も記者たちの笑いを誘った。

――このなかで最初にオランダに来たのは航基だよね。最初の練習を覚えてますか?

小川「とてもよく覚えてます。監督が『時差ボケがあるだろうし、初日だから、君は今日、休みだ』と言ったので自転車をこいでました。ところが監督が『ピッチに来い!』と言い出したんです。僕は身体を温めてませんでしたが、プレーしたかった。そしてラッセ・シェーネのアシストから僕はゴールを決めました。合流初日に決めた初ゴール。『ナイス、コウキ』『ナイス、スシ』(一同笑)。それが僕の最初の日でした」

――航大、NECに来る前に、航基とNECについて訊きましたか?

佐野「ノー」

小川「彼は僕にメッセージを送ってこなかった」

佐野「NECからオファーをもらったとき、航基はすでに最初の試合でゴールを決めたので、NECというクラブのことを少し知った。赤いユニフォームが印象的でしたね。僕はオランダでプレーしたかった。ドイツ、ベルギー、イングランドはフィジカル寄りのリーグで、エールディビジはよりテクニカルで戦術的なリーグです。だから、僕のプレースタイルが生きる。オファーを受けたときは嬉しかったです」

――昨夏、健人から相談を受けたとき、なんて答えた?

佐野「健人にはたくさんの選択肢がありました。まだ大学生でしたし、彼は自分の人生のことも考えないといけませんでした。僕は、NECがどういうサッカーをするか、人びと、言葉、文化といったすべてのことを彼に伝えました。しかし、『最後に決めるのは自分自身だよ』と伝えました。そして彼は自分でここに来ることを決断しました」
 笑みを浮かべながら、小川と佐野は堂々と質問に答え続ける。しかし塩貝の口数は少ない。

 そこで何度か小川はトークの途中で塩貝に話題を振った。例えば「日本とオランダの違い」を尋ねられ、佐野が「オランダは右側通行、日本は左側通行。ラウンドアバウトにも慣れないといけなかった」と答えると、小川は「彼はとても危険な運転手なんですよ」と言って、塩貝を指差す。

佐野「彼は時速80キロで高速道路(日中は100キロ、夜間は120キロから130キロ制限のところが多い)を走るんです」

塩貝「最初、僕は疲れてたんです」

 この日、最も大きな笑いが起こったのは、「オランダに来て、もっともクレージーに感じた経験は?」という質問に対して、佐野と小川が返した答えだった。

佐野「マリファナは日本で違法です。アムステルダムに行ったとき、『これはなんの匂いだ』と訊いたところ、代理人が『これはマリファナの匂いだ』と」

――試してみましたか?

佐野「いいえ(一同笑)」

小川「マリファナ入りのアイスクリームを知ってますか?」

――はい

小川「レストラン、専門ショップ、カフェテリアなどで簡単に買えますよね。娘と散歩してたら『アイスクリームが食べたい』と彼女が手にしたアイスクリームを買ってあげたんです。僕は本当にただのアイスクリームだと思ったんです。そしたら誰かが『ちょっと待て。なにをしようとしているんだ』と止めてくれました(一同笑)。それはマリファナの成分が入ったアイスクリームだったんです。これがもっとも危なかったことです」
 
 口数こそ少ないが、塩貝もオランダ人を笑わせるコツを掴んでいた。

――健人、今季の目標は?

塩貝「今季は5ゴール。来季、航基はステップアップする」

 小川がNECからいなくなれば、俺がこのチームのエースだという思いがありありと見える塩貝の一言に、オランダ人たちは咳こむほど笑い転げた。そしてボソリと塩貝は「来季、僕は20ゴールを決める」と付け足した。

 宴もたけなわだが、いよいよ会見もお開きだ。オランダ人記者が「試合後のインタビューにも応えてくれますか?」と尋ねる。

小川「映像なしならね! ちゃんと英語が喋れるか自信がないけれど、僕たちは試合後インタビューにもトライするよ。ただし勝ったときだけね!」

――じゃあ、今度の日曜日にね!

佐野「オッケー!」

 今度の日曜日はホームのアヤックス戦。そこで勝てば3人の英語インタビューを楽しむことができるかもしれない。そして、この会を催したNECの広報は「3人は今日、本当によく頑張った。こうして実戦で英語を喋ることが大事なんだ」と心底嬉しそうだった。

取材・文●中田 徹