「冷たい靴」を備えたLUMIX S9が物語る、カメラメーカーの苦悩と決断
Lumix S9は、35mmフルサイズセンサーを搭載するレンズ交換式のミラーレス一眼カメラだ。ライカやシグマも採用する「Lマウントレンズ」が使える。形はデジカメだが、ストロボが使えないことからもわかるように、動画撮影により重きを置いている。コールドシューにはマイクやLED照明を載せ、動画撮影時に使うという想定だ。さらにS9のシャッターは電子シャッターのみ。メカシャッターがないため、そもそもストロボをつなげたとしても、相当遅いシャッタースピードでしか同期できず、使い勝手はとても悪くなるだろう。そこで、部品点数を減らすため、ほぼ無意味なホットシューはやめ、外付け機器を取り付けるベースとして、コールドシューを残した、ということだ。
S9が強烈に意識しているのはスマートフォン(スマホ)との差別化だ。パナソニックは、いわゆる「撮って出し」(=撮影したデータを加工せずそのまま使用すること)で使えることを目指している。それはグローバルの製品ビジュアルの中で表現されているキーコピー「SHOOT. EDIT. SHARE.」に表れている。真ん中の「EDIT.」を取り消すかのように赤々と横線が引かれているのだ。編集の技術がなくても、撮ってすぐ、例えばインスタグラムやTikTokに上げられる素材を提供できる、というわけだ。そのためにリアルタイムLutという機能も付けた。Lutは、Look Up Tableの略で、映像の色調(色味)を自在に変更できる仕組み。S9では独立した「LUTボタン」を備え、撮影段階で色調設定の変更がしやすい。
S9は小型軽量もコンセプトの一つだ。しかし、それなら同社が展開する小型カメラのフォーマット、マイクロフォーサーズのほうがはるかにふさわしい。なぜあえて大きなフルサイズセンサーを採用したのか。その理由はスマホとの分かりやすい差別化だ。パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションの副社長執行役員で、イメージングソリューション事業部の津村敏行 事業部長は「明らかに理解しやすいのはボケやすくノイズが少ないフルサイズセンサーのカメラ。まずフルサイズでスマホにない体験をしていただきたい。マイクロフォーサーズの利点を理解していただけるのは、むしろカメラに詳しい方々」と話す。また、パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部 商品マーケティングセンター イメージマーケティング部 商品マーケティング課の塩見記章 課長は「カメラのリテラシーが低い人たちにとっては、マイクロフォーサーズは使いこなしが難しい。ボケる、ノイズが少ないフルサイズセンサーであれば、そうした方々にも乗りこなせる」と話す。
S9ボディーと同時に発表したパンケーキレンズ、LUMIX S 26mm F8は、絞り値固定のマニュアルフォーカスレンズ。あえて面倒なマニュアルフォーカスを採用し、スマホでは得られない撮影体験を味わえる。9月1日まで実施するLUMIX S9の発売記念キャンペーンでは、このパンケーキレンズをプレゼントするという大盤振舞だ。カメラメーカーは、いかにスマホとカメラを共存させつつ、カメラとスマホの違いを際立たせるか、に苦慮している。巨大なスマホというライバルが存在する以上、カメラには、これまでの常識を飛び越るような大胆な進化と変化が求められている。「冷たい靴」(コールドシュー)を備えたLUMIX S9にも、その苦悩と決断が投影されていた。(BCN・道越一郎)

