この記事をまとめると

■売れなさそうなのに大ヒットしたクルマをピックアップ

■乗り換え需要が高まっている時期にリリースするのがヒットの理由のひとつだ

■使い勝手より見た目重視で成功したモデルもある

ジャーナリストは「?」でも市場で大人気になったクルマたち

 販売の好調な車種は、多くの人達が使っている以上、優れた商品と判断される。良いクルマが、市場のニーズに合わず売れ行きを低迷させることはあるが、商品力の乏しい車種が好調に売れることはない。

 しかし稀に、総合的に見て、売れ行きが実力以上に達する車種はある。そこにはいくつかの条件があるから考えてみたい。

 実力以上に好調に売られる車種でもっとも多いのは、従来型は商品力が高く順調に売られながら、フルモデルチェンジを受けて商品力を下げた場合だ。従来型の人気が高かったから保有台数も多く、発売直後は実力以上の売れ行きになる。

 この典型が最終型の3代目トヨタ・ヴィッツだ。1999年に登場した初代モデルは、欧州車風のクルマ作りが共感を呼んで好調に売れた。2005年に発売された2代目も、初代の路線を踏襲しながら各部の質を高め、高人気を保った。

 ところが2010年に登場した3代目は、2008年に発生したリーマンショックの影響で、内装の作りが粗くノイズも大きい。乗り心地も悪化した。販売店からは「新型(3代目ヴィッツ)はコストダウンが激しく、先代型のお客様に、新型への乗り替えを提案できない」という悲痛な声も聞かれた。

 それでも発売当初の売れ行きは堅調で、2011年には、東日本大震災に見舞われながらも1カ月平均で1万台以上が届け出された。その後に登録台数が下がり、5年後の2016年の1カ月平均は約6000台になった。5年間で40%の需要を失ったが、発売直後は堅調だった。

 このほか、日産マーチも初代と2代目は商品力が高く、3代目も悪くなかったが、現行型の4代目はリーマンショックや生産工場の変更が災いして商品力を下げた。ただし、発売直後は乗り替え需要が多く堅調だった。

 同様にbBも初代の商品力は悪くなかったが、2代目で後席の居住性と乗り心地が下がった。最終的にbBは廃止されたが、発売当初の売れ行きは堅調だった。

使い勝手抜きで見た目のインパクトでヒットを飛ばしたモデルも

 販売台数が実力以上に伸びるふたつ目の理由は、そのカテゴリーがブームになって注目された場合だ。古くは日産セフィーロワゴンが挙げられる。初代スバルレガシィが1989年に発売され、ステーションワゴンがブームになり、1997年に発売されたセフィーロワゴンも堅調に売られた。

 セフィーロワゴンは、ワゴンブームに乗り遅れないように短期間で開発され、カーブを曲がる時には後輪の接地性が削がれやすかったが、日産ステージアよりも広い荷室で人気を得た。1995年には、登場して3年を経過した初代トヨタ・カルディナが前年の1.6倍も登録されるなど、短期間ではあったがステーションワゴンが絶好調に売られた時期だった。

 トヨタC-HRも、2016年12月に発売され、2017年には1カ月平均で約1万台が登録された。同年の小型/普通車販売ランキングは、プリウス、ノート、アクアに続いて4位に入った。SUVが急速に人気を高めた時期で、C-HRは外観もカッコ良く、トヨタ車でもあったから絶好調に売られた。

 しかし、2年後の2019年には、コロナ禍の前ながら、1カ月平均の登録台数は4640台で半数以下に落ち込んだ。C-HRは、SUVなのに後席と荷室が狭く、後方視界も悪い。開発者が「C-HRは視界に関するトヨタの社内基準をギリギリでクリアした」と語ったほどだ。つまり2017年の約1万台に達する登録台数は、実力以上だった。

 このほか、2022年上半期(1〜6月)の小型/普通車販売ランキングで1位になったルーミーも、実力以上の売れ行きだ。ルーミーは軽自動車の好調な売れ行きにストップを掛けるべく短期間で開発され、エンジンやプラットフォームはパッソと同じだから、動力性能、ノイズ、走行安定性、乗り心地に不満がある。後席は床と座面の間隔が不足して、足を前方へ投げ出す座り方になり、座り心地の柔軟性も乏しい。走りに問題を抱えるが、積載性や収納設備の使い勝手が優れ、「N-BOXやタントのようなコンパクトカーが欲しい」と考えるユーザーから高い支持を得た。2020年にはトヨタの全店が全車を販売する体制に変わり、姉妹車のタンクを廃止して、需要がルーミーに集中したことも高人気の理由だ。

 以上のように、実力以上に好調に販売される車種には、トヨタ車が目立つ。トヨタ車は長年にわたり大量に売られてきたから、トヨタの新車に乗り替えたいユーザーも多い。販売店舗数も4600箇所だから、日産やホンダの2倍以上で、スバルと比べれば10倍だ。そのためにトヨタ車では、販売力で売れ行きを保つこともある。