平成レトロが大ブーム…なぜイマドキの10代はiPhoneよりガラケーに憧れるのか
※本稿は、原田曜平『シン世代マーケティング』(ぱる出版)を一部再編集したものです。

■Z世代の特徴は、まったりする「チル」
具体的に、現在のZ世代の消費傾向を掘り下げてみましょう。
まずはZ世代を象徴する気質、チルにまつわるもの。ここ数年ほどはサウナブームが来ており、まったりしたいZ世代にとってもうってつけのレジャーになっていますが、普通のサウナはもう飽きられてしまいました。
そこで注目を浴びているのが、サウナプラスαです。ホテルニューオータニのプールサイドに設置されたプライベートテントサウナ、北欧文化を体験できる巨大な複合施設でサウナやグランピングを楽しめる「ノーラ名栗」、蕎麦居酒屋とサウナが合体した「恵比寿サウナー」など。
手間をかけることなく自然に囲まれる気分を味わえる屋内アウトドアも、チル的なニーズを満たします。屋内で焚き火が楽しめる施設、鳥のさえずりなどがスピーカーで流れるカフェもそのひとつですね。
ゆとり世代の若者たちが好んでいたレジャーとこれらが違うのは、肩の力が抜けていること。爆音で音楽を聴き、ウェイウェイして騒ぐ――のではなく、とにかくまったりする。リラックスが目的。あせあせしない。
■食べるのが人より遅くても気にしない
Z世代の特徴「あせあせしない」は私も感じます。
それは、私の研究所でバイトしている大学生たちを昼飯に連れて行く時。私などは若いうちから「速く飯を食えるのが代理店マンだ!」などと言われて育ったものですから、どんな定食屋でも5分くらいで食べ終えてしまいます。それはさすがに早食いが過ぎますが。
しかしZ世代の彼らは、ずーっとしゃべりながら食べていて、1時間経っても食べ終わりません。いい加減戻らなきゃいけない時間なのにまだ食べているので、追い立てるつもりで「先帰るよ」と言ったら、「あ、はい。じゃあ、お疲れさまです」と特に焦る様子もない(ちなみに会計は私持ちですよ)。そういう世代なのです。
■世界の最先端をいち早くライフスタイルに入れる
そしてグローバル化にまつわるもの。彼らは海外で流行ったものを、ほかのどの世代よりも色眼鏡をかけず、自然に受け入れます。
韓国の化粧品は長らくZ世代の女性に人気ですが、昨今登場した「桃セラミド」という桃の匂いがする顔のパックは、剝がす時にベリベリと音がするほどハードで、肌の弱い人は真っ赤になってしまいます。従来のパックのように綺麗に剝がれません。でも、それがむしろ「しっかり効いている」実感となっていて好評です。
同様にこれも韓国発の化粧品である「超刺激プランパー」は、スパイシーな成分(カプサイシン)で唇を刺激してボリュームアップさせるもの。つけるとチクチク・ヒリヒリして痛いのですが、それによる腫れで唇がぷっくりするのです。ちょっと怖いですね。
ちなみに韓国も日本以上に少子高齢化が進んでいますが、それでも積極的に海外市場を狙っているので、こういった若者向け商品を日々研究開発しています。その点、日本のメーカーは一歩も二歩も遅れていると言わざるをえません。
カナダのスキンケアブランドが出したピーリング(肌をつるつるさせる液体状の角質ケア商品)は、ものすごい高濃度ゆえに、つけると痛みを感じる人も多い商品です。この液体が血のように見えるので「血みどろピーリング」と呼ばれました。血=痛みというわけですね。見た目のインパクトもあるので動画投稿でも拡散しました。
これら3商品はいずれも刺激化粧品と呼ばれるジャンルにカテゴライズされます。その先進性、斬新な発想という点では海外が圧倒的に先行しているのは論をまちません。
Z世代はこういった世界の最先端をいち早くライフスタイルに取り込みます。
■中国発のコスメやファストファッションも人気
中国ブームもZ世代に来ています。「チャイボーグ」という言葉をご存知でしょうか。サイボーグのように人間離れした中国美女のメイクを指す言葉で、Z世代の女子の間で普及が進みました。
彼女たちは中国コスメや中国のファストファッションを、ネットの通販サイトで購入しています。
韓国の文字であるハングルをあしらったデザインは人気ですが、それとの差別化で簡体字(中国で使われている、漢字を簡略化した字体)もトレンド。簡体字をあしらったフラワーブーケ(チャイナブーケ)、漢字フィルターを使えるプリクラ、「花」「福」など漢字をあしらって東洋的な雰囲気を醸したアクセサリー、麻雀牌柄のネイルなども登場しています。
■「私たちの知らない平成」が面白い
Z世代が先導するレトロブームも、いくつかのバリエーションがあります。昭和レトロブームはここ数年かなり流行しましたが、2021年後半からは飽きが出てきました。
昭和レトロのエッセンスはシンプルで丁寧な暮らし、庶民的な和み感などでしたが、彼らが次に飛びついたのが大正レトロです。大正レトロは和洋折衷、高級感のあるアンティークを旨としており、洋装のレンタルや大正ロマン風の着付けをしてくれるサービスに注目が集まっています。大正時代を舞台にした『鬼滅の刃』の大ヒットも影響しているでしょう。
Z世代がまだ生まれていない平成初期(1990年代)、あるいは物心ついていない平成中期(2000年代前半)を自分たちの知らない平成と捉え、「平成ミステリアス」として面白がったり愛でたりする風潮もあります。
2000年前後に流行したファッション、いわゆるY2Kファッションは欧米でもトレンドですが、それのいわば日本版。
Z世代にも人気で実写映画化もされたマンガ『東京リベンジャーズ』は主人公が2005年、つまり平成中期にタイムスリップする設定でした。
平成ミステリアスの一例としては、派手な加工や落書き文字をたくさん書き入れるプリクラ「平成ギャルプリ」。現在のプリクラは顔を盛ることに特化しているため、背景は無地で落書きなどはしないシンプルなものが一般的。しかしあえて時代に逆行する平成っぽいプリクラ加工が人気なのです。

また、ネットでガラケーの画像を探し、その画面部分に自分たちの写真をはめ込む「ガラケー風加工」という遊びもあります。写真は時代感を出すためにあえて画質を落とす。実に手の込んだ遊戯ですね。まさしく平成レトロ。
■オジサンたちの悲しき勘違い
「若い女性」のイメージが2000年前後くらいのギャル(渋谷センター街、ガングロ、短い丈のスカート、ルーズソックス)で止まっている年長者からすれば、プリクラにしろガラケーにしろ、その投稿された写真だけを見たら「ギャルというのは今でもずっとこんな感じなんだ」と勘違いしてしまうかもしれません。
実際、勘違いしている大企業の50、60代は多いと思います。
■佐藤可士和ですら狙いを外した衝撃
実は、このようなねじれた勘違いは実際に起こっています。2021年11月、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんがプロデュースした「くら寿司」の新店舗が、若者のメッカである東京・原宿にオープンしました。
1965年生まれ、博報堂を経て2000年に独立した佐藤さんは紛れもなく平成を代表する第一線のクリエイティブディレクターです。
著名な広告仕事としては、ホンダステップワゴン、大塚製薬のカロリーメイト。ブランディングにキリンビール「極生」「生黒」、楽天、ホンダ「Nシリーズ」、セブン‐イレブンのセブンカフェデザインなど。ユニクロやGUのロゴ、SMAPのアルバムジャケット、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIのロゴや空間ディレクションなども手掛けています。
2021年には国立新美術館で「佐藤可士和展」が開催され、広告業界関係者、メディア関係者、デザイン業界人などを中心に多くの人が訪れました。
そんな佐藤さんが、「日本の伝統文化×トウキョウ・ポップカルチャー」をテーマに掲げ、Z世代向けに「世界一映える寿司屋」を目指したのがこの新店舗です。店舗はメディアに取り上げられ上々の評判でした。
ところが、私は実際にその店舗に足を運んだZ世代にヒアリングして衝撃を受けました。彼彼女らは決して「自分たち世代向けの店舗」だと感じていなかったのです。
では何か。彼女らの抱いた印象は「面白い、昔の平成っぽい店」でした。なんという皮肉でしょうか。
■時代とのズレはひたすらに残酷
佐藤氏は今の最前線の女子高生・女子大生の感覚に向けてデザインした、にもかかわらず、当の彼女たちはこの店舗デザインを「平成レトロ」と受け取り、言ってみれば「平成ギャルプリ」や「ガラケー風加工」と同列で消化していたのです。

彼女たちが嬉々として私に報告してくれた言葉が忘れられません。「ちょっと何か昔の感じがいいんですよ!」
佐藤さんの過去の功績は掛け値なしに素晴らしいものですが、こういうことが起こってしまうのがクリエイティブの怖さ。時代とのズレはひたすら残酷です。
クリエイティブディレクターとしての佐藤可士和を信奉する企業担当者の中年世代は多いですが、ことZ世代をターゲットとする場合の反面教師として、マーケターである私も肝に銘じねばなと痛感した一件でした。
しかし、恐らくズレたのにも関わらず、一周回って彼らに当たったのはさすがのお手並みと言わざるをえません。
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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)などがある。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平)
