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■いろいろな数値を集めると、統計上ある法則が成り立つ

数学のおもしろネタをご紹介したい。「ベンフォードの法則」というのをお聞きになったことはあるだろうか。おそらくほとんどの読者がご存じないと思う。

ベンフォードの法則とは、デジタル分析テクニックの1つで、1930年代に米ゼネラル・エレクトリック社の物理学者フランク・ベンフォードによって開発されたもの。「自然界にあるいろいろな数値を一定数集めて計算すると、統計上ある法則が成り立つ」というのが、ベンフォードの法則の内容である。

具体的には、企業の売上高、株価、自治体の人口、電気や水道などの公共料金、納税額、河川の長さ、山の標高などの数値の集合が、この法則にあてはまる。

数学的に説明するには、対数(log)を使った高度な計算が必要になる。高校で習ったという読者の方もたぶんお忘れだと思うので、ここでは詳述を省くが、要は次のようなことが成り立つのである。

自然界にあるさまざまな数値、たとえば株価ならば100円、250円、600円、1780円、3200円、5500円、1万2000円、2万4000円といった額の一番左の数字(3ケタなら百の位、4ケタなら千の位)は、1〜9のうち「1」が30.1%、「2」が17.6%、「3」が12.5%というように、それぞれの数字で出現する確率が決まっているのだ(図参照)。

数字が小さいほど出現確率が高く、大きくなるにしたがい確率は低くなる。1〜3で全体の60.2%を占める。なんとも不思議な感じがする法則だが、実際に確率を求めるとそうなのだ。

■「6」から始まる金額が10%以上あったら疑わしい

ただし、ベンフォードの法則はどんな数値にもあてはまるわけではない。たとえば、人為的に割り振られた数はダメで、電話番号、郵便番号、自動車のナンバープレートなどはこの法則が成り立たない。また、数値の上限や下限が定まっていて、その幅が狭いものもNGだ。人の身長はほぼ1〜2mにおさまるし、足のサイズも20〜30cm程度だから、ベンフォードの法則は成り立たない。

こうしたベンフォードの法則は、企業や組織内部のいろいろな不正のチェックなどに有効だ。たとえば、ある営業パーソンが提出した領収書。もし「6」から始まる金額が10%以上あったとしたら、疑わしいと判断したほうがよい。なぜなら、ベンフォードの法則では、最初のケタに6が現れる確率は6.7%だからだ。

それとは逆に、最初のケタの数字が1〜9までまんべんなくバランスがとれている場合も怪しいと思わざるをえない。どうしてか。数字をごまかそうとする人はなるべくいろんな数字を偏りなく書こうとするが、ベンフォードの法則にしたがえば、各数字が出現する割合は決まっているからである。

私は国税局の元国税専門官なので、実際にそうした経験がある。個人の確定申告の場合、収支内訳書という書類を提出するが、金額の最初のケタは本来1〜3が多いはずなのに、5以上の数字が多いとか、反対に1〜9が平均的に妙にバランスがいいときは、怪しいと目をつけていた。

部下からあがってくる数字がおかしいと感じたときなど、ベンフォードの法則を知っていると、ごまかしを見抜く有用な判断材料になるだろう。

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さんきゅう倉田
お笑い芸人 元国税専門官
大学卒業後、東京国税局に入局。法人税の調査を経て、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに入る。お笑い芸人として、税務調査やガサ入れのネタなどでメディアやライブに出演。著書に『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』がある。

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(お笑い芸人 さんきゅう 倉田 構成=田之上 信 写真=iStock.com)