2年前には考えられなかった逆襲劇である。

 U−19日本代表が、アジアの頂点に立った。

 サウジアラビアとのファイナルは、スコアレスドローのままPK戦にもつれた。フットボーラーにとってのロシアン・ルーレットとも言われるPK戦は、運にも左右される。歴然とした力の差を、見せつけることはできなかった。

 だからといって、アジア制覇の価値が削がれるわけではない。

 前回優勝のカタールは、ミャンマーとの準決勝を延長戦でくぐり抜けた。2012年大会を制した韓国は、イラクとの決勝をPK戦の末に制している。さらに付け加えれば、日本が北朝鮮に敗れた06年の決勝も、PK戦による決着だった。

 だが、記録に残るのは結果なのだ。紙一重の攻防だったとしても、優勝という結果はその国の歴史の一部となり、勝者のメンタリティが育まれ、プライドとして受け継がれていくのである。

 アジアを制した内山篤監督のチームで、何よりも触れるべきはディフェンスである。全6試合を戦って1点も許さなかったのは、高く評価されていい。しかも、メンバーを入れ替えながらの無失点だ。来年のU−20ワールドカップでチームの支えとなるものを手にした意味でも、クリーンシートを最後まで並べたのは価値がある。

 U−19日本代表のアジア予選突破により、2017年はU−17、U−20の両W杯に出場できることとなった。日本代表がブラジルW杯でグループリーグ敗退を喫し、U−17、U−19がアジア予選で敗れた2014年を思い返すと、劇的と言っていいぐらいの逆襲である。

 忘れてはいけないチームが、もうひとつある。U−23日本代表だ。

 リオ五輪アジア最終予選を兼ねた1月のU−23選手権で、手倉森誠監督が率いるチームは劣勢を予想されていた。96年から続けていた五輪出場が、ついに途切れてしまうとの不安はつきなかった。

 だが、淡い期待しか受けていなかったチームは、グループステージを首位で通過する。準々決勝ではイランを延長戦で退け、準決勝では後半アディショナルタイムのゴールでイラクを振り切った。この時点でリオ五輪出場は決まったのだが、チームのモチベーションはむしろ高まっていくのだ。

「日本サッカー界は2014年に悔しい思いをした。ブラジルW杯も、U−17とU−20の予選も負けて、我々もアジア大会で負けた。2016年は挽回する日本サッカーを示さないといけないときに、まずオレたちのチームだぞ」

 手倉森監督の言葉はチームの一体感を高め、逆境を跳ね返すエネルギーにもなった。14年のアジア大会で敗れた韓国との決勝戦では、0対2からの逆転勝ちを果たすのである。苦戦必至の前評判を覆したU−23のアジア制覇が、あとに続く各年代のチームを奮い立たせたのだ。

 11日のキリンチャレンジカップと15日のサウジアラビア戦に挑む日本代表のメンバーが、4日に発表される。2016年最後となるサウジ戦は、ロシアW杯アジア最終予選の前半戦最後のゲームだ。

 ここまで3勝1分の勝点10で首位を走るサウジに対して、日本は2勝1分1敗の勝点7で3位となっている。得失点差はサウジが+5で、日本が+2だ。

 日本がサウジに1対0で勝った場合、勝点では並ぶものの得失点差では上回ることができない。総得点でも後塵を拝したままだ。勝点8で2位のオーストラリアが勝利すれば、日本はサウジに勝っても3位のままである。2点差以上の勝利で、ようやくサウジを上回ることができるのだ。

 サウジのファンマルバイク監督も、そのあたりは計算しているに違いない。ドローも許容範囲内の戦いを用意してくるはずだ。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の狙いははっきりしている。勝点3は当然のノルマで、できるだけ多くの得点を奪っておきたい。

 最終予選の過去4試合を振り返ると、ハリルホジッチ監督は理想と現実の狭間で揺れ動いていると感じる。理想なき現実主義では困るし、現実を見ない理想主義も未来にはつながらない。

 理想主義と現実主義という二極対立の昇華こそ、日本代表の進むべき道である。日本サッカー逆襲の2016年を締めくくる戦いが、ハリルホジッチ監督とその仲間たちには求められる。