脳科学者に聞いた、書くと覚えやすいのはほんと? 「記憶」する上で「書く」ことの重要性とは

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皆さんは暗記をしたいときに、どのような工夫をしますか? それぞれ頭に入れやすいやり方があると思いますが、なかにはひたすら「書いて」覚えるという人も多いと思います。やはり、読むだけでなく、書くと記憶しやすい気がしますよね。では実際、記憶するにおいて書くことはどれくらい重要なのでしょうか。「記憶」と「書くこと」について、脳科学教育研究所・所長の桑原清四郎先生にお話を伺いました。

――記憶についてお伺いしたいのですが。

桑原先生 「子供が字を覚えるときどうするか」を考えてみましょう。まず記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があります。短期記憶はSTM(ShortTermMemory)、長期記憶はLTM(LongTermMemory)と呼ばれます。人間が長い期間保持するLTMは、STMを何度も繰り返した結果と考えられます。

皆さんは、小さいころ「漢字ドリル」をやったでしょう? 何度も何度も同じ字を書いたのではありませんか? 短期記憶を何回も行うことの典型的な例です。短期記憶を何回も反復するとそれが脳内で長期記憶になるのです。長期記憶の回路が形成されるのです。

学説はいろいろありますが、長期記憶、LTMとなったものは死ぬまで保持されると考えられています。もちろん忘却されない限りですが。なぜ長期記憶が忘却されるかについては学説がいろいろあって、まだこれという定説はないようです。

さて「書く」ことですね。「書いて覚える」というのは、「陳述記憶」を補強しようというトライアルといっていいでしょう。認知心理学の世界では、記憶はその性質によっていくつかの種類に分けられるのです。

――「陳述記憶」というのは何ですか?

桑原先生 「事実」や「経験」の記憶と定義されていて、教科書の内容を覚えるなどは、まさに「陳述記憶」そのものです。「boyは少年という意味」「645年に大化の改新が起こった」などは全て「陳述記憶」です。

「陳述記憶」、これは「宣言的記憶」ともいわれますが、その特徴は「言葉で表現でき、さらに意識の中で再生できること」です。「陳述」「宣言的」と呼ばれるのは「言葉で表現できる」という意味です。

「陳述記憶」には「意味記憶」と「エピソード記憶」があります。例を挙げましょう。

「意味記憶」は「boyは少年」
「エピソード記憶」は「今朝、お母さんに怒られた」

「エピソード記憶」は、「いつ」「どこで」「何が起こったか」、時間・空間のコンテキストで位置付けが可能な記憶のことです。皆さんが受験勉強で暗記することは、ほどんとが「意味記憶」でしょうね。

ちょっと話が広がり過ぎましたね(笑)。陳述記憶を忘却しないで、長い間保持するためには、先ほどの話と同じですが、

・何度も反復すること

です。何度も反復して繰り返し記憶し、また頻繁にアクセスすること、これが陳述記憶を忘れないでいるために重要です。

――そのときに「書く」ことは影響するのでしょうか?

桑原先生 例えば単語帳だけを見て英単語を覚えるのと、実際にその単語のスペルを書きながら覚えるのはどちらが良いでしょう。これは後者でしょうね。

というのは、目からの視覚刺激だけではなく、手を動かすことによって触覚の刺激も用いて記憶しようとしているからです。脳の視覚処理系だけでなく、触覚の処理系、その両方を使うため脳が活発に動くのですよ。ですから「書いて覚える」ことは有効だと考えられます。

現在では、認知心理学と脳科学の分野が手を携えて「脳」の不思議を解明しています。記憶についても、さらに驚くべき科学的な成果が明らかになるかもしれません。それが子供たちの教育に活用できる時代が来るといいと思います。

――ありがとうございました。

書くことは、触覚の処理を使う分脳が活性化するため、記憶において非常に効果的なんですね。その上で反復して繰り返すことで、より効果を増すそうです。皆さんも、何かを頭に入れなくてはいけないときは、目を通すだけでなく書いてみるといいかもしれませんね。

⇒桑原先生の『脳科学ブログ(教育への架橋)』
http://blog.canpan.info/brains/


(高橋モータース@dcp)