FFS簡易分析設問(自己判定表)

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自分の強みが発揮できない「ディストレス」状態に陥るとその強みが裏目に出て時にはセクハラ、パワハラ、いじめに走ってしまう。そんな怖い可能性を診断するツールをご紹介しよう。

他人と自分との人間関係を考える場合、多くの人は、自分を変化しない「定数」、相手を変化する「変数」ととらえがちです。相手のタイプやそのときの機嫌を読んだりすることを重視する考え方ですね。しかし、普段は気が長くても、忙しくなるとイライラしてせっかちになるなど、自分も変わります。自分自身も「変数」なのです。人間関係は「変数」と「変数」で成り立っているといえます。

自分を変数と捉えるときに、キーワードとなるのが「ストレス」です。ストレス(刺激)は必ずしも悪いものではなく、適度なものであれば良い方向に働きます。周りから注目されて期待や評価をされ、自分の強みが活かせている状態を「ユーストレス」、逆に、自分の強みが活かせない状態を「ディストレス」と呼びます。

いつも自分の強みが活かせる状態であればいいのですが、何らかの環境の変化により、それが強みとして活かせない状態になると、たちまちディストレスになり、マイナスの形で表面に表れるようになります。

まずは自分の特性を把握し、ディストレス状態になったときに、自分がどのような精神状態になりがちかを理解しておくことは重要です。

とはいえ、自分を知るのは簡単なことではありません。自分の思考や行動パターンを客観的に分析し、イヤな面も直視することが必要だからです。そこで、便利なツールをご紹介しましょう。

図のテストは、私が1983年に提唱したFFS(Five Factors & Stresses)理論に基づいて構成したもので、思考行動パターンを診断することができます。まずこれに回答したうえで続きを読み進めてください。

FFS理論は、米国の国防機関の依頼で、生産性を最大化する組織づくりのために研究し、提案しました。実際に世界の多くの企業や軍隊で、職務適職判定やチーム編成に応用されています。

この理論は、人間の個性は単独または複数の構成因子が組み合わさってできているという考えに基づいています。どの因子が強いかによって、普段の傾向だけでなく、強いストレスにさらされたときに表れやすいマイナスの傾向がわかります。本来は80の設問によって408万4101通りのタイプに分類しますが、ここでは大幅に簡略化して絞り込み、特に職場で周りに影響を与えやすい4因子を選びました。

まず、「凝縮性」因子です。診断表でAが最も強く出た人は、自分の価値観を強く持った、思い入れの強い人です。父親や教師など、権威に関わる原体験が、人生に強い影響を与えています。自分の信念に基づいて一定の方向性を固く守ろうとする能力は、この因子に関係します。このため、通常は指導力が高く、道徳や規範を重視する行動が目立ちます。企業では、出世してリーダー的な存在になる人が多いでしょう。

Bの「受容性」因子が高く出た人は、周囲の状況を無条件に受け入れる人です。

「思いやりの人」ともいえます。周囲が幸せであれば、自分も幸せに思う傾向があり、愛情に関わる原体験、特に母親との関係に影響を受けています。他人を守り、育てようとする養育的な要素は、この因子に関係します。

養育的であるという特性は、普段は周りに寛容で、人や環境に対して肯定的な行動として表れます。部下の世話や育成に長けた人が多いでしょう。

Cの「拡散性」因子が高い人は、今の状態を変えようとする「攻めの人」です。自分を拡張し、発展させようとする傾向が強く、活動的、創造的、積極的な行動が特徴です。移動遊牧民を特徴づける因子とされており、遺伝的に決定されている要素が強いものです。

人の注目の対象になることを好み、自分をよく見せたいという気持ちが強いのが特徴。要は目立ちたがりということです。細かいことにはこだわらず、「とにかく」「まぁいいか」が口ぐせです。

Dの「保全性」因子が高く出た人は、現状を維持しようとする「守りの人」。現状維持のために、自分のエネルギーの損失が最も少なくて済む方法を選択しようとする傾向が強いのが特徴です。農耕定住民を特徴づけており、遺伝的に決定される要素が強い因子です。日本人の約65%は、保全性因子のポイントが拡散性因子よりも高いことがわかっています。

協調性、順応性が高く、几帳面で、1つのことを始めると根気よく続けることが多いでしょう。人によく思われたいという気持ちが強いほか、安全性や安心感を重視し、無難で損をしそうにない選択肢を選びがちです。

■パワハラ、セクハラ脅迫文書……

次に、ディストレス状態になると、これら4つの因子がどのように影響するのかを見ていきます。先ほどの自己診断で、ストレス(S)の合計が0〜3点と15〜20点の人はディストレス状態です。

凝縮性因子が強い人の場合は、普段の指導性の高さが、独善的という負の特性として表れます。例えば、いつも周りから尊敬されている部長が、自分の価値観を否定されたり、降格などで指導力を発揮できない環境に置かれたりするとどうなるか。支配的、排他的な行動をとることで、相手を自分の価値観のもとに抑え込もうとします。権威や権力を振りかざしてパワハラやセクハラ行為をすることもあるでしょう。自分の価値観を懇々と訴えながら怒鳴るのも、このタイプに多く見られます。

受容性因子が強い人がディストレス状態に置かれると、「思いやり」が「介入的」に変わります。いつも周りに頼られ、いろいろなことをお願いされていた人が、誰も何も頼みにこなくなってしまうと、この人は自分の「思いやり」を発揮できる場をなくしてしまい、ディストレス状態に置かれることになります。

すると、どんどん介入的になってお節介を焼くようになり、厄介ごとを抱えるようになるのです。「相手のために何かしたい」という気持ちが強くなりすぎ、相手に断られても、あるいは自分にできる範囲を超えてまでも、自分に何かできないかと、しつこく、過剰に関与したがります。そうして、他人の問題や仕事を抱え込んでしまうのです。

拡散性因子が高い「攻めの人」が、思うように動けず不自由、窮屈、と感じるディストレス状態になると、「衝動的」という負の特性が表面に出やすくなります。突然何もかも放り出して出て行ってしまったり、周りに当たり散らしたりと、破壊的で享楽的な行動に出ます。もともと1つのことを長く続けられない傾向が強いため、マンネリ化した状況に飽きると、すべてをガラリと変えるために大胆で投げやりな行動をとってしまうのです。

一方、保全性因子が高い人がディストレス状態に置かれると、「追随的」という負の特性が表れ、妥協的、従属的な行動として出てきます。人任せ、事なかれ主義になります。保全性因子が高い人は、気心知れた仲間から外されて新しい環境に放り込まれると、それ自体がディストレスになる傾向があります。慎重なので、新しい環境になじむまでに時間がかかり、新しいアイデアやスピードを求められる状況では身動きがとりにくくなり、結局動けずに出遅れてしまうことも多いでしょう。仲間から外されて、最初はいじけることもあるでしょうし、悪化すれば陰湿ないじめや、脅迫文書を送りつけたりということにまでつながります。恋愛がうまくいかない場合にはストーカーになったりします。

■イヤなことをやってはいけない

誰でも、それぞれに強みがあります。強みがない人間は1人もいません。しかし、その強みが否定されたり、自分の能力を発揮するチャンスを失ったときに、持っている因子がネガティブな方向に出てしまうのです。

ストレスが加わることによって、変数と変数同士の人間関係に変化が起こり、時にはこじれることもあります。人間関係においてストレスマネジメントが大事なのはこういった理由からです。まず、自分の個性を知って自分のストレスをマネジメントする。一見難しく聞こえるかもしれませんが、実はとてもシンプルで、「イヤなことをやらない」こと。言葉を変えると、「不得意を克服するよりも、得意を強化する」。これに尽きます。

自分の持つ因子のプラスの面が発揮できるようなユーストレス状態をつくることを心がけるのです。そうすれば、自然と成果が出ます。つらい努力をする必要もなく褒められ、自信につながります。

反対に、自分の強みではないものを求めて「ないものねだり」をすると、つらい努力が必要なので楽しくない。例えば、拡散性因子の高い人が、コツコツと同じことを根気よく続けることが必要な仕事をしていても、途中で飽きて続かなかったり、ミスが発生したりするでしょう。楽しめないうえ成果にもつながらず、褒められない。本人は努力しているのに、周りからは評価されないという悲惨な状態に陥ります。自信を喪失し、ディストレス状態になってしまいます。

世の中には、自分の強みを活かし、つらい努力をしないで成功している人が2割、「ないものねだり」で弱みを克服しようとしてストレスを溜めている人が2割いて、残りの6割はそのどちらでもなく、環境に影響されながら成功と失敗を繰り返しています。

そんな大多数の人々がやるべき「イヤなことをやらない」ことは、難しく思えるかもしれませんが、そうでもありません。チームの中の役割分担を、自分の強みに合ったものに変えてもらうのもよいでしょうし、ユーストレス状態になれる部署に異動願を出すのも方法です。

同じ営業でも、拡散性因子が高い人は、新規開拓営業だと強みを活かすことができ、ユーストレス状態を維持できますが、保全性因子が高い人にとっては苦手なのでディストレス状態になります。保全性因子が強い人なら、既存顧客の対応を行うルートセールスのほうが力を発揮できるでしょう。逆に拡散性因子が高い人にとっては、毎日同じ営業先に出向くルートセールスは苦痛になります。

人は、自分と違う因子が高くて「自分と違うタイプだ」と感じる相手を、否定的に見る傾向があります。保全性因子が高い人は、いろいろなことに興味を持つ拡散性因子が高い人のことを「飽きっぽい」ととらえますし、受容性因子が高い人は、凝縮性因子が高い人に対して「融通が効かない、頑固者だ」ととらえる。しかし、人間には本当は、悪い人はいないし、能力の高い低いもありません。

ユーストレス状態にあって指導力を発揮しているときの凝縮性因子が高い人に会うのと、ディストレス状態で独善的になっているときに会うのでは、印象が大きく変わります。しかしこれは、個性の良い部分を活かすことができる環境にあるかどうかの違いでしかないのです。

一般的に言われる「成功者」の手法をやみくもにまねて努力をするのはやめたほうがいいでしょう。その「成功者」とあなた自身の持つ因子がまったく違っていたら、自分の苦手な方向で、無駄につらい努力をすることにもなりかねないからです。そしてディストレス状態になり、自分の因子の負の部分を表出させてしまうことになってしまいます。まずは自分を知り、自分と似たタイプの成功者の成功事例を探して参考にすべきでしょう。

自分が得意とすること、好きなことを活かすユーストレスな環境をどうつくり、維持するかがポイントです。こうした“勝ちパターン”を早期発見することが、成功の秘訣なのです。

(ヒューマンサイエンス研究所理事長 小林惠智 構成=大井明子)