放送作家 鈴木おさむ氏

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仕事が休みのとき、家でだらだら寝ていることはまずないですね。パッと時間ができたら、映画を見に行ったり、本を読んだり、すぐ何らかの行動に移しています。生活の中でボーっとしていることはほとんどなくて、移動の時間もずっとiPodを聴いたり、ケータイをいじってツイッターやったりブログを書いたりしています。

よく足を運ぶのは、三軒茶屋のTSUTAYAです。週に2回は行っています。大型店と違って、ワンフロアに本、CD、DVDのコーナーがコンパクトに収まっている環境が、自分の脳にフィットする感じがしてとても心地いい。面白そうなタイトルをチェックしながら店内を回ると、どんどん情報が飛び込んできて、脳みそが整理されていく気持ちになるんです。DVDもよく買います。月に10本、それ以上買うこともよくあります。

読みたい本や見たい映画はたくさんありますが、まず見るようにしているのは、人が薦めたものや褒めていたものです。その中に自分が好きではない系統が含まれていたら、そういう作品ほど見たほうがいいとも思っています。だって自分が好きなものを見るなんて当たり前のこと。知らない世界に触れて、自分の感覚とフィールドを広げてみるチャンスだととらえたほうがいいでしょう。

あと奥さん(お笑いグループ森三中の大島美幸さん)が薦めてくれたことも、素直に取り入れています。僕は結婚するまでサイゼリヤに行ったことがなかったし、韓流の文化もあまり興味がありませんでした。それが薦められるまま体験してみると、「ドリアがこんなに安くて美味しいんだ!」「K−POPってカッコいいな」と新鮮な驚きを覚えて、視野が広がっていきました。

■夫婦間で続けている交換日記が10冊突破!

夫婦の時間を大切にすることも、習慣といえば習慣です。奥さんとご飯に行く予定があるときは、何を食べに行くか、どこに行けば話が盛り上がるか、お互いにちゃんと考え、話します。

奥さんとの間では交換日記を長い間続けています。新潮社から出ている『マイブック』(日付と曜日しか書かれていない白紙の文庫)を使って、そこに日々あったことやお互いのうれしかったこと、不満などを綴っています。もともと奥さんからの提案で始めたのですが、毎日書くのが難しいから一度やめようかという話になりました。でもそのとき、僕が「どちらか先に死んだとき、読み返して思い出せるじゃない? 1日1ページというルールを設けたら、1日1個の楽しみになるよ」と主張したら、それはそうだねと納得して、今に至っています。現在、10冊目に達しました。

「人が薦めること」を大事にするのと並行して、「人がやっていないこと」も意識的に取り組んでいます。この業界に入ってすぐのころ、行ってみたのは当時はやり始めたけど、まわりにまだ行ったことのある人がいなかったSMクラブでした。というのも当時は19歳の若造。何を発言しても、業界の先輩は相手にしてくれません。振り向いてもらいたいがため、1人でSMクラブに行ってみて、その話をしたら、「本当? どういうところなんだよ?」と耳を傾けてくれたのです。人が関心のあることを自ら体験すれば、興味を持ってもらえることを知りました。

年に数回、スケジュールを割いて旅行に出かけていますが、去年エルサレムに向かったのも同じ理由です。エルサレムもみんな興味を持っているけれど、物騒なイメージがあるから実際に行った人はほとんどいない。そういう土地に行くと、みんなが話を聞きたがるので、それについて語ることができます。

結局、僕は人と話をしたい気持ちが強いんです。その目的があるから「人がしないこと」を進んでするし、逆に「人が薦めてくれたこと」も喜んでする。自分が興味を持っている人や好きな人が特定の作品を褒めていたら、僕はその映画を見に行って、その音楽を聴いてみる。もしロードショー中の『SUPER8』と『パイレーツ・オブ・カリビアン』のどちらを見るか迷っていたとして、今夜飲みに行く人がSFファンであれば、『SUPER8』を見に行く。そうすればその人との話のネタが増えるし、感想を語り合うことで距離も縮まるはずですから。

そして、誰かと話したいというモチベーションを保ちながら、さまざまな情報に触れていくと、結果的に仕事に必要なデータも自然と蓄積されていきます。

僕は放送作家という仕事に対して、検索エンジンに近いイメージを持っています。まず企画に関係するキーワードを書き出し、そこから連想する言葉をどんどん思い浮かべる。その中から展開できそうなものを選んで、発想を広げていくのです。でも頭の中にデータがいっぱい入っていないかぎり、検索はできません。

■「頭の検索エンジン」がヒット企画を生む

この業界に入ったとき、「たくさん映画を見ろ」と言われたので、面白いもの、つまらないもの、いろいろ含めて年間で360本以上見る生活を続けました。その結果、3年ほどたったあたりから、企画を思いつくようになったのです。きっと頭の中に入っているデータの量が増えて、検索エンジンが機能するようになったのでしょう。

しかし検索機能といっても、別に整理したりする必要はありません。1回文章にすると忘れにくくなるので、僕は見た感想をブログに書いていますが、整理や分析に費やす時間はムダなような気がする。見たものをまとめている時間があったら、もう1本別の作品を見たいなあと僕は思ってしまうんです。とにかく貪欲に吸収していたい。

データをインプットするのに必要な習慣は、効率のいい情報収集術を心がけるよりも、ひたすら行動することではないでしょうか。ヒットチャートを賑わせている曲が面白いタイトルだなと感じたら、とりあえずiTunesをクリックしてみる。気になるDVDがあったら思い切って買ってみる。

そういえば、芸人の品川祐君が興味深いことを言っていました。彼は本屋に行って気になった本があったら、読めなくてもいいからとにかく買うようにしているのだと。そうすれば万が一、その著者に街でばったり会ったとき、「あなたの本を読みました」と声をかけることがベストではあるけれど、仮に読んでいなくても、「読もうと思ったんです」ではなく、「もう買ってあって、これから読もうと思っているんです」と声をかけることができる。そこで行動できるかどうかで、対話するきっかけも内容も大きく変わってくるわけです。

『芸人交換日記〜イエローハーツの物語〜』という本を出して、舞台化もしました。自分たちの今後についてこれまで話を避けてきたお笑いコンビが、交換日記を通して意思を確かめる内容です。この発想のきっかけになったのは、妻との交換日記を続けていて、これって何か面白いんじゃないか、と思ったこと。それと役者さんが入れ代わり立ち代わりで同じ文章を読む「ラブレター」という舞台の存在を知って、この芸人版がつくれないかなと考えたことでした。ふとした習慣が企画に結びつく。僕たちの仕事は、そういうことの繰り返しです。

ただ自分の習慣が「オフの習慣」と言われると、違和感を覚えます。通常は仕事がオン、仕事が休みの状態がオフと呼ばれますが、家庭を大事にしている人からしたら、家にいる時間がオンであって、仕事がオフかもしれない。特に今の時代、家庭と仕事を大切にする比重も変化しているから、オンとオフの区分も人それぞれだろうし、僕はほとんど区別していません。自分の好奇心に従って行動することにオンもオフもなく、プライベートも仕事も全部繋がっている状態は決して悪くないような気がします。

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放送作家 鈴木おさむ
1972年、千葉県生まれ。19歳で放送作家デビュー。「笑っていいとも!」「SMAP×SMAP」「お願い!ランキング」ほか、様々な番組を担当する、今、最も売れている放送作家の1人。著書に『ブスの瞳に恋してる』『テレビのなみだ』など。(衣装協力=FAT)

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(放送作家 鈴木おさむ 構成=鈴木 工 撮影=滝口浩史 写真=PIXTA)