投資家が黙っているはずがない「多額の現金」を持ちながら「割安水準」に放置されたままの企業5選
再びくすぶる火種
日本株上昇を支えた政策ドライバーが新たな局面を迎えようとしている。コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂が、2026年6月をめどに実施される見通しだ。CGコードは上場企業に経営の透明性や株主との対話を求める指針で、2015年の導入以来、今回が3度目の見直しとなる。
2023年に東京証券取引所が要請した「資本コストやPBRを意識した経営」では、PBR1倍割れ企業を中心にバランスシートを強く意識した経営が急速に広がった。企業は自社株買いや増配といった株主還元を強化する契機となったことは記憶に新しい。
新たなCGコード改定も株式市場に強いインパクトを与える期待は大きい。羅針盤ともいえる「アクション・プログラム2025」では、現預金を含む経営資源が「本当に活かされているか」を経営者が絶えず検証し、説明する責任が明確化された。潤沢な現金を積み上げたまま眠らせている企業は、「ガバナンス上の問題企業」として投資家に見なされるリスクが現実のものとなる。
株主から見れば現金は何も生まない。だが成長投資やM&A、あるいは株主還元に転換された瞬間、眠っていた価値が解放される。2023年の東証による「PBR(株価純資産倍率)改善要請」に匹敵する変革の火種が、再び燻り始めている。
ここで注目したいのが、前期のネットキャッシュ(税率控除70%を乗じた流動資産と投資有価証券の合計から負債を差し引いた純現金保有額)を時価総額で割ることで産出されるネットキャッシュ比率の高い銘柄だ。現預金を有効活用することで企業価値を高める余地は大きいとみられ、CGコード改訂の恩恵を正面から受ける候補となるだろう。
大平洋金属〈5541〉
5月22日終値2166円 配当利回り(予)6.00%
フェロニッケル(ステンレス鋼の主原料となるニッケル系合金)の国内最大手でありながら、時価総額424.0億円はネットキャッシュ465.0億円を下回るという逆転現象が起きている。会社側は2027年3月期も営業赤字となる苦しい見通しを示しているが、潤沢なキャッシュとDOE(株主資本配当率)4.0%を軸とする株主還元方針など、高い配当利回りの魅力を支える要素は多い。
事業ポートフォリオの大幅な見直しにも注目したい。「業態をゼロベースで見直す」と明記した「中長期戦略 PAMCOvision2031」では、2027年度を目処に売上の約9割を占めるニッケル事業を大幅縮小または撤退する方針を示している。製錬技術を高付加価値領域へシフトする過程では、眠る資産の有効活用が視野に入ろう。
これまで培ってきた製錬技術は次世代需要との親和性も高い。世界に先駆けた海底資源の多金属ノジュール鉱物の製錬事業は、金属製錬の共同実験・連続製錬試験において世界初の成果を発表するなど早くも成果を表している。中国依存からの脱却を狙うレアアース関連銘柄の一角として、採掘・リサイクルの両面で存在感を高めつつある。
ホシデン〈6804〉
・5月22日終値2585円 配当利回り(予)2.98%
2026年3月期の連結経常利益は前期比66.8%増の246億円と大幅増益を達成した。任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch 2」向けを中心とするアミューズメント関連部材(ゲーム機向け電子コンポーネント)の受注が急増し、期初に12億円と予想していた経常利益が最終的に246億円へと大幅上振れした。
2027年3月期の業績見通しも期初段階では慎重だ。経常利益は180億円(前期比27.0%減)と一転して減益を見込んでいる。ただし、会社側は想定為替レートを1ドル155円に設定しており、為替影響を除いた予想としている点に留意が必要だ。現在の円安傾向に加え、Switch2の普及サイクルは値上げ後も続くとみられ、自動車・移動体通信・AV機器向けの多角的な顧客基盤も収益を下支えする。
ネットキャッシュ1220.8億円は時価総額の約8割に相当する。株価は四半世紀ぶりの高値圏に位置しながら、PBRはようやく1倍水準を回復したに過ぎない。2027年3月期からの新たな中期経営計画でも、配当性向30%、3年で100億円以上の自社株買いを目指す株主還元方針が引き継がれるとみている。
グリーホールディングス〈3632〉
5月22日終値419円 配当利回り(予)5.13%
かつて国内ソーシャルゲームを牽引した旧グリーが、大きく変貌した姿がグリーホールディングスだ。ゲーム・VTuber・DX・IP投資の4事業を展開しており、バーチャルライブ配信プラットフォーム「REALITY」を核とするVTuber事業(旧メタバース事業)は着実に育ってきている。
2026年6月期の期末配当予想は前期から7円増配の21.5円(普通配当)と増配方針を継続している。VTuber事業のプロダクション(VTuberマネジメント)は2027年6月期通期黒字化を計画しており、成長投資の成果が見え始めている段階だ。業績見通しの開示は投資事業の影響が大きく困難としているが、各事業の進捗を四半期ごとに確認できる期待は大きい。
今後の新規タイトルでは、2026年7月より第3期の放送が決定したテレビアニメ「無職転生〜異世界行ったら本気だす〜」のスマートフォンゲーム「クロニクル・オブ・ エコーズ(通称:クロエコ)」をリリース予定だ。ゲーム事業のリリース遅延とVTuber事業の投資先行負担が株価のリスク要因として意識されがちだが、ネットキャッシュ851.2億円は時価総額753.1億円を上回る。純現金が企業全体の価値を超える割安状態からの脱却は十分に期待できよう。
ジオスター〈5282〉
5月22日終値371円 配当利回り(予)2.70%
地味な存在に見えて、財務健全性は際立っている。ネットキャッシュ156.8億円は時価総額116.9億円を3割強上回る。プレキャスト工法(コンクリート部材を工場であらかじめ製作し、現場では組み立てを中心に行う工法)に特化した土木用コンクリート製品の大手メーカーで、道路・トンネル・ダム・上下水道などのインフラ需要を担う。
2026年3月期の経常利益は21億円(前期比33.1%増)と増益を達成した。販売価格改定による利益率向上が寄与した形だ。災害に強い国土をつくる国土強靱化への施策や老朽インフラの更新需要は今後も底堅い需要が見込まれる。上下水道管路の老朽化と都市洪水と同時に対策する流域治水対策予算は、2026年度国土交通省予算などで拡充される見通しだ。
建設業界の人手不足が進むなかで、プレキャスト工法の採用が拡大する追い風も吹く。ジオスターは、トンネル用セグメントやボックスカルバートなど多様なプレキャスト製品を供給し、品揃え強化に取り組んでいる。中期的に製品の構成比拡大が期待される。日本製鉄を親会社に持ち、原料鋼材の安定調達という構造的な強みも備えている。
アカツキ〈3932〉
5月22日終値3320円 配当利回り(予)??
スマートフォンゲーム開発会社。主力の「ドラゴンボール Z ドッカンバトル」は長期運営タイトルとして安定収益を生み出している。2026年秋に「ドラゴンボール超 ビルス編」のリメイク版放送が決定し、新作アニメ「ドラゴンボール超銀河パトロール編」の制作が決定する効果も期待できる。
2026年3月期の連結経常利益は前期比80.0%増の76.1億円と大幅増益で着地した。コミック事業(HykeComic)やIPソリューション事業も黒字化を達成するなど、ゲーム一本足打法からの事業転換が着実に進んでいる。2027年3月期以降の業績予想は「合理的な数値算出が困難」として開示を見合わせているが、ゲーム・コミック・IP(知的財産、作品・キャラクターのブランド)事業を融合させた新たな成長軌道が見込めそうだ。
前期までのネットキャッシュ363.7億円は時価総額の75%に相当する。会社側は、M&Aによる新規事業創出を掲げており、サニーサイドアップグループ〈2180〉との経営統合を進めている。現時点でTOB(株式公開買い付け)は未完了だが、実現可能性は高いだろう。両社の強みを融合し、デジタル、アナログでIPの開発・発掘・育成・グローバル展開まで行えるIPの総合商社として企業価値向上を目指す方針だ。
CGコード改訂が照らし出そうとしているのは、ネットキャッシュ割安銘柄の真価だ。「現金は眠らせるな」と問いかけることで、キャッシュリッチな企業が「どう使うか」を語り始めることが期待される。潤沢なネットキャッシュを持つ割安銘柄の真価が問われる局面となりそうだ。
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