歌手の椎名林檎さん

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 〽最新鋭の情報を以(も)って精魂を研鑽(けんさん)して行こうぞ

 そんな独特のフレーズの校歌を持つ高校が先月、さいたま市に誕生した。

 埼玉県立大宮科学技術高校だ。プログラミングや人工知能(AI)を学び、ロボットや航空宇宙分野を支える人材の輩出を目指している。同市にゆかりのあるシンガー・ソングライター椎名林檎さんが、創立の志を意気に感じて作詞、作曲した。(さいたま支局 有沢ゆうり)

 同市北区にある同校の中庭で先月、生徒会メンバーが校歌「赤い羅針盤」の練習に励んでいた。変調と転調を織り交ぜた3分9秒のメロディーは歌いこなすのが難しく、生徒会メンバーがお手本になる必要があるからだ。

 歌詞も椎名林檎ワールド全開。「前途祝してくれ太陽」「青く密(ひそ)かに燃えている勇気」などと、生徒らの才能や夢への期待が詩的に表現されている。

 同校は浦和工業高と大宮工業高の統合で開校した。前身校の教員らで作る設立委員会は「国内外の科学分野をリードする生徒を育みたい」と、新設校のあり方を2年以上かけて練り上げた。学科を再編し、AI開発などを学ぶ情報サイエンス科やロボット工学科を置き、機械工学科にロケットや航空機の設計などを学ぶコースを設けた。

 さらに「最先端」のイメージを体現する校歌の作り手として、日本のロック界で新たな音楽を生み出し続ける椎名さんに白羽の矢を立てた。レコード会社を通じて繰り返し熱意を伝えると、3度目の依頼で「謹んでお受けします」との回答。「校歌を手がけるのは初めて」という椎名さんに、校訓やカリキュラムなど新校の特色を伝えて曲作りの参考にしてもらった。

 校歌は4月7日の開校式・入学式でお披露目され、生徒会長を務める男子生徒(17)は「生徒たちの誇りにしたい」と語る。

 歌詞の熱意は生徒たちにも浸透し、空間デザイナーを目指している建築科の女子生徒(17)は「高まる気持ちがこみ上げてくる。校歌(の内容)に負けないくらいの人になりたい」と意気込んでいる。

著名人の曲提供、全国で

 学校新設を機に、著名人が校歌制作に携わるケースは各地に広がっている。2021年に2校の統合で誕生した福島県立喜多方高校(喜多方市)には、東北にゆかりのある歌手・小田和正さんが曲を提供。生徒や教職員らが歌詞を考え、新校にまとまっていく契機になった。今年開校した義務教育学校・桜島学校(鹿児島市)では、鹿児島県出身の俳優・上白石萌音さんが作詞を担当。特産のミカン栽培の情景を取り入れるなど郷土への思いを伝えた。

 校歌に詳しい小樽商科大学の須田珠生(たまみ)准教授(35)(学校文化史)によると、1980年代以降、ポップス調など親しみやすい校歌が登場し、歌手らに制作を依頼する流れが生まれた。須田准教授は「母校への帰属意識や古里への記憶を呼び起こす校歌の役割は今も変わらない。著名人が携わることで独自性が高まり、『自分たちの歌』として大切にすることにつながっている」と話している。